第1節 ゲーマー・ミーツ・ギャル2
十六時四十分。ホームルームが終わり、帰宅部の速度で目的の喫茶店につく。鴻乃柚葉はまだいない。ていうかワンチャンこれ日付が変更した後も現れない可能性があるよな。
からかわれた説、急用が入った説。
急用が入った説を採用しておくか、心の負担が少ないし。三十分待って来なかったら帰ろう。それまで動画を見ておこう。
それから十分ほどで鴻乃は速足で現れた。
「ごめん待たせたよね! 普通に捕まっちゃってた、ごめんね!」
流石、クラスの中心人物となると忙しそうだ。ただただ大変そうだなという感想を抱く。
「そんな待ってないから大丈夫」
「ごめんね! とりあえず喫茶店はいろっか、奢るよ」
「ふっ、いや、いいって」
「レッスン料ってことでさ、ね?」
喫茶店ブルースと書かれた看板を横目に、落ち着いたお洒落な雰囲気の店内に入る。結構植木鉢が多くて、なんというかお洒落。それ以外の語彙は無い。
金曜とはいえ平日のまだ十七時ということもあって、お客さんはあまりいない。そして、学生がいなかった。これが一番大事。見られたら俺は恥ずかしいし、鴻乃さんも恥ずかしいだろうからね。
お好きな席におかけくださいとのことで、外から見えづらそうな奥の席を選び、鴻乃さんが見えるように逆さまにしつつメニューを見る。
「ありがと」
「ほい」
感謝が言える子ってだけで好印象だ。
ここに喫茶店があることは、言われてみればあったような……と気付くレベルなので、当然初めて来る。
「ご注文伺います」
「アイスのキャラメルマキアートで」
飲んだことないので。甘くておいしそう。
「あ、私も同じので」
店員さんが去ってすぐ、自分から口を開く。
「他の人との付き合いとか大丈夫なの? 今日試験終わりでしょ?」
「……えっ? うん、何で?」
確かに変なことを聞いたかもしれないけど、あなたも変なことしてますからね。……いや、だからか?
「いや、なんか打ち上げとかしそうなイメージだったから」
「あー、普通に明日皆と遊ぶよ。今日は……あー」
「……?」
「いや、他の子が予定あって明日になったの。てか、射手場くんってあんま人付き合い気にしないタイプかと思ってた」
「……まあ、気にしてないね」
「でも私の人付き合いは気にしてくれるんだね?」
「えっいや、単純に気になっただけ」
いや、本当に単純に気になっただけなんだけど。いいんかなって。その言い方ちょっとくすぐったいのでやめてもらえるか。
「てか! ごめん、自己紹介してなかった! 鴻乃柚葉です、六月十五日生まれだよ! よろしくね!」
「このタイミングで!?」
「いやごめん、LoLの画面見えてテンションあがっちゃって、でも喋るの初めてだよね?」
「あ、うん。射手場颯斗です。十月二十三日生まれです。よろしく」
「よろしく、先生! 先生はどこのロールなの?」
「自分はADCメインだよ」
「おー花形じゃん」
「いやーどうだろ」
「謙遜?」
「いや、このゲームの花形はMID……って言われることが多い」
「えーと、真ん中にいて色んなアクションに顔を出せるから、だよね!」
「おお。そうそう、正解」
まじでLoLの知識あんじゃん。
「えーと……推しのプラウドさんはTOPだったっけ?」
「あそうそう、この前のはTOPだった。でも視点的にはJGとかMIDの方が面白いから最後らへんそっちの方の視点で見てた」
「……ガチすぎない?」
「ね! 普通に、最初あんな眠る用に完璧だったのに、知識がつくだけでめっちゃ面白くなってきたんだよね!」
LoLがとっつきにくいと言われている点はまさにそこだ。野球とかサッカーみたいな分かりやすさが無い。集団戦とか一対一のプライドバトルとかは面白いが、画面の結構な割合をお金稼ぎ、つまりお金をドロップするミニオンを殴ってる絵面が占める。
前までLoLはゲーム配信のストリーマーから死のコンテンツ扱いされてきた。
LoLが好きなストリーマーは面白いからLoLをプレイしたいが、そのプレイを配信すると視聴者数が減るという。その話を聞いた時は、ああ、だよね、と思った。俺も普通に眠くなるし。
ただ、分かってる者からしてみればこのゲームはめちゃくちゃ面白い。分かるようになれば面白くなるのだ。……なんてことが、この目の前のギャルにも起きたらしい。そんなことある?
「……鴻乃さんはプレイはしてないの?」
「したいー……めっちゃしたくなってきてる。でも家に親のノートしかないんだよね~~」
「あーそうなんだ」
「……もういっそ買うか~PC?」
思い切りが良すぎる。
「その前に試してみてからやったら?」
「んー……確かに。でもどこで? 射手場くんち?」
「ネットカフェとかでやれるんじゃない?」
「射手場くんち?」
「俺んちはネットカフェじゃないけど」
「でも無料でしょ? ……流石にダメ?」
……まじで言ってるのか? 大丈夫かこの女?
「えっいや。まじで言ってる?」
「いや、ごめんうそうそ、流石に厚かましすぎた」
えっこれ何。
「いや鴻乃さんが別にいいならいいけど」
「えっ本当! 行きたい行きたい! 他の人がLoLやってるの生で見てみたい!」
「いやあなたがやるんでしょうよ」
本当に来るんだ。すげえな。これベイト《罠》か?
「いや、それはそうなんだけど、ついでに見せてよ」
「……まあ、いいけど。いつ?」
「え、今日とかダメ?」
ギャルのギャルがギャルすぎる。
「……別に、いいっすよ。でもいいんすね?」
「何が?」
何が?じゃねえよ。よく分からん男の家に押しかけるのがいいんかいって。
「彼氏とかいないの?」
「いなーい。……いないよ? あ、射手場くんは?」
見た目通りだよ。いいよそういう気遣い発言。
「いないです。あと、俺の家歩くと三十分ぐらいかかるよ」
「いい?」
質問を返されると思っていなかったのでびっくりする。
「え、何が?」
「歩くと遅くなっちゃうじゃん」
まさかの気遣い。
「鴻乃さんがいいならいいよ……」
「あざ!」
……こいつすげーな。




