第9節 新シーズン1
新年明け。
学校はまあぬるりと始まった。
とにかく寒くて起きるのが辛い。
そして一月九日、新年明けてのコーチングも始まる。
集合地点には、鴻乃さんの方が先に来た。
佐鳥がコーチングに参加して以降、大体二人は一緒に来るけど、まあ別々に来るときもたまにある。
「今年もコーチングよろしくお願いしまっす!」
「うす、やっていきましょう」
すると、鴻乃さんは表情を一転させて、珍しく苦しそうな顔をする。
えなになになに?
鴻乃さんはしばらく挙動不審だったけど、なにか決心したらしく口を開く。
「私ね、最終日の射手場くん、観戦で見てたんだよね」
「えっ?」
「ぜ、全部じゃないよ。でも、最後の二つ……」
「え、当日に?」
「うん、十二時ぐらい」
当日だと最後の試合終わったの0時半とかだったし、流石にリアルタイムで見てるわけじゃないよね、という予想が裏切られた。
一気に、申し訳ないなあ、って気持ちが浮かんでくる。
あんな遅くまで応援してくれただろうに、結果がこれじゃあねー……。
「射手場くん、本当、すっごく格好良かった!!絶対この人チャレになるって思った!!だってPlumさんに勝ったんだよ!?」
おお急に凄い熱量。びっくりしちゃった。
「お、おう……? ありがと……?」
「ご、ごめん……でも、何か見ててさぁ、悔しくて……!」
なんで君が泣きそうになってる?
なんか逆におもろくなってきた。
結局、昨シーズンは51位で終わることとなった。
50位争いしてた相手も最後負けてて、後からLPを落とした俺の方が51位となった。
そう、俺は昨シーズンを「グラマスの」一番最上位で終えたのだ。そんなことある?
まあ、あるわなあ。いるんだからな、51位。ガチでキツい。
「そうだ、鴻乃さん。……えーとまず、プラチナ昇格おめでとう。次はエメラルドだね」
「……うん、ありがと」
一月八日はグロッキーな気分で新シーズンの勉強だったり昨シーズンの振り返りを行った。そしてそこで気付いたけど、鴻乃さんも年末年始割とLoLに漬かっていた。そして勢いそのまま、なんと初シーズンでプラチナ到達という、プチ魔王みたいな偉業を達成していた。
「……いいタイミングか分かんないし、佐鳥が来てからも相談するんだけど、金曜の合同、しばらく無くしていい?」
ぱちぱちと瞬きをし、短く鴻乃さんは思案する。少し悩んでいる表情。
「……うん、いいよ」
「個別コーチングは引き続きやろうと思ってるけど……どうする?」
「やる!!!」
「うわ声デカ」
「やるもん!!!」
「声デカ。でさ、年末に言ってた話」
「うん」
ちゃんと覚えてくれてたみたい。チャレになってから話をしたかったね。
「チャレにはなれなかったけど、今週末か来週末って空いてる?」
「……うん。おっけー。今週の土曜はどう?」
「分かった」
「場所どうする? 射手場くんち?」
「なんか、おれんちの近くで喫茶店見つけたから、そこどう?」
見つけたというか、姉に教えて貰ったが正しいんだけど。まあ小さな方便ということで一つ。
「おっけー! じゃあ駅集合かな?」
「それでお願いします。まあ十五時とかにしとく?」
「了解!」
鴻乃さんに話しておきたかったことを話し終えたタイミングで佐鳥が来る。なんだこいつ? タイミングが良いとは、佐鳥にしては珍しい。
「うーっす。ってことでやっていくぞーい」
雰囲気は変わらない。秋から冬にかけての、ウザくて、軽薄で、だけど憎めない感じの佐鳥だった。断固として、クリスマスの結果は悟られまいとする感じの。
「佐鳥、ゴールド昇格おめでとう」
「お、気付いたか」
「流石にチェックする」
昇格したのは鴻乃さんだけじゃなかった。
こいつはそんなに回してない。それでも、怒涛の連勝で、昨シーズンをゴールド4で終えていた。
「まあ、まだまだこれからって感じだなあー。アンド、全然まだまだいけそう」
「素晴らしいね。次はプラチナだな」
「うす。目指せゆず越えだな」
この発言に、鴻乃さんがむー、と唸る。会話が続く前に、こちらから話を切り出す。
「えーと、鴻乃さん、佐鳥くん、今日は合同やるんですけど」
「はい!」「ほい?」
「いきなりですが、しばらく合同休止しようと思ってるんですけど」
「はい!」「……なんでェー!?」
「うわ声デカ」
「なに? 俺と柚葉を引き離す作戦か!?」
なんかちょっとギョっとする軽口やめてねー。
「理由は、俺がチャレを目指すからです」
この発言を受けて、佐鳥が少しトーンを下げる。
「あんたもう五十一位まで行ったんでしょ? チャレみたいなもんじゃーん」
「ここの一位差、まじで大学入試とかの一点差で不合格ですみたいなアレだから、お前ナメたこと言ってるとぶっ潰すぞ?」
「うおキレた射手場珍し……いや、まあ分かってるって。惜しかったな、まじで。流石に気になって戦績ずっと見ちゃってたわ」
「……すまんな、あがれんくて」
「何で謝る? 逆にすげーだろ、お前トップ51だぞ? 次はいけるって」
……急にこういうこと言われると、その……勇気づけられるし照れる。
「はーい、陽くん射手場くんを口説くのやめてもらえますかー? 私が言いたいセリフなんですけどー」
「いや知らんし。思ったこと言っただけですけれどもー?」
「むきー!!射手場くんの一番弟子は私なワケ!!陽くんは二番!!」
「わー一番になれない一番弟子さん、ごめんなさい! 俺が一番になっちゃって!」
なんだこいつら……まあ、この人たちなりに気を遣ってくれてるんだろう。……遣ってくれてる、んだよね? よくわからないけど。
「……まあ、そういうわけだから、ちょっとチャレになりに行ってくる。だから金曜は個人のLoLに当てさせてくれ。個別は引き続きやるから」
「はーい。がんばれ、コーチ!」
と両手をぎゅっとする鴻乃さんに対して、
「ま、そういうことならしゃーないわな」
と、佐鳥も納得してはくれたみたいだった。




