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第8節 シーズンラスト1

 十二月三週、水曜日。

 来週はもう三日間だけの短縮授業で冬休みに突入する。

 クラスもどことなく浮わついた雰囲気がしていた。


 コーチング後、鴻乃さんを駅まで送る。

 もうすっかり冬の寒さだった。夏ごろはまだ明るかったこの時間も、今や当然真っ暗だ。

 鴻乃さんはベージュのダッフルコートを着ていた。よくある服装なのに、彼女が着るとお洒落に見える。

 ちょっとだけ寄り道して自販機に向かい、お互いコーンポタージュを手にゆっくりと歩く。

「冬休みは鴻乃さんどっかいくの?」

「んー、イブは莉々んちでクリパかな? あっ、だからごめんコーチングキャンセルで! そっかー水曜か……。あ、あとみんなで初詣はいこーって言ってるよ~」

 そっか、もう来週の水曜がイブか。ってことは、その次の日は、佐鳥だ。

「おけおけ」

「あとは多分どっかで莉々とはるとで出かけるけど、まだ日程決まってない~。射手場くんは?」

「俺は引きこもりかな」

「そっかー。一緒に初詣行く?」

「五人に混じって?」

「流石に気まずいか」

「流石に気まずいね」

 一旦会話が途切れる。

 俺はというと、話を切り出す機会を伺っていた。というより、話を切り出すための勇気がちゃんと出るかを、自分のことなのにどこか他人事で見守ってる感じだった。

 ふと思い返すのはリミットテストという言葉だ。少し無謀にも思える戦いを起こして、限界値を探る行為。上達への近道。リミットテストのコツなんて簡単だ。いけるのかいけないのか分からなかったらいく。それだけだ。

「佐鳥と、話するんだよね? クリスマス」

 ちらりと横を見ると、まばたきの回数が増えた女の子の横顔が目に入った。

「……うん、するよ」

「そっか。……どういう話かは、聞かないんだけどさ」

 気合いを入れるために、息を吸う。

「——新年明けに、俺も話したいことがある」

 無限に感じる、実際には少しの無言。

「…えっ、どういうこと?」

 めちゃくちゃ素な返答。え怖。なにこの反応。

「うーん……別に、今言ってもいいんだけどさ。いや、やっぱ駄目だな」

「……なんで?」

「チャレに、なりたいから」

「…………」

 鴻乃さんの、え、どういうこと?、という再度の言葉が今度は心を通じて伝わってきます……。そうだよね、話し下手でごめんね……。

「今シーズン、チャレになれたら、自分に自信を持てる気がするから。だから、シーズンが終わる新年明けでまた話がしたい。……鴻乃さんからしたら意味不明かもしれないけど、でもまあ、コーチも頑張ってるってことで一つ、ご容赦下さい」

「ぷっ……なにそれっ。……あがれそう?」

「ガーチでわからん。ていうか厳しい」

「そっか……。そっか、じゃあチャレになってお話聞かせて?」

「うん、よろしく」


 駅まで見送り、帰りの自転車を漕ぎ始めたが、寒すぎて歩きに変える。

 大きくて短い苦痛か小さくて長い苦痛問題。

 さて、今の会話で少しでも鴻乃さんに伝わっただろうか。

 まあ、伝わっただろう。

 ……でも普通に考えて、この流れって告白だよな?

 逆にもう告白した方がいいのか?

 あれ? よくわからなくなってきた。


 金曜、合同コーチング日。

 会話の結果、今日が年内最終日となった。

 家に向かう最中、佐鳥が横に来る。

「射手場さ。言っておくことがあるんだけど。俺、クリスマスにゆずに告白するから」

 佐鳥は前を向きながら言う。わざわざ俺に言ってきたのは、こいつなりの筋の通し方なんだろうか。ありがとね、人間として見てくれて。

 お返しとして、こう言われた時のためにこちらも用意してきたセリフがあった。

「……佐鳥。改めて言う機会があって良かった。俺もお前に言うことがある」

「ん?」

「俺は、お前を応援しない」

 こちらは意識して目を見て話す。佐鳥は無表情だったが、少しして顔を歪める。

「……チッ、結局かよ。巧妙に隠しやがって」

「応援しないだけ。俺はまだ、告白する段階じゃない。だから、隠してたとかでもない」

「……そうかよ。まあ、お前がそういう奴だってのは何となく分かってきたからな」

「なるべく不義理は無くしたい」

「不義理? まあよくわかんねえけど、戦場に行く教え子に克ぐらいは入れてくれてもいいよな?」

 そういって、佐鳥はニヒルな笑みを浮かべる。こいつはこういう顔がよく似合う。

「……ああ。グッドラック(幸運を)ハブファン(楽しんで)

「おう。お前もな」


 自宅に着き、コーチングの時間。

 今では二人ともそれぞれソロでゲームをプレイして、リプレイの時だけ三人でフィードバックを行う。

 コーチング中は努めて平然を装うけど、どれほど平然できてたかは不明。

 どことなく浮ついた感じがしたのは気のせいであってくれ。


 今後のコーチングに関しては、一月九日の金曜から再開ということにした。

 期間としては丸々三週間ほど空くことになる。

 この時までには今期のシーズンが終わり。

 そして、佐鳥の告白も終わっている。


 コーチング後、二人が家を出ていく際に、佐鳥が俺だけに聞こえるように言った。

「どうなるにせよ、ありがとな」

 これが勝利宣言なのかは分からない。あるいはちゃんとした勝算が立ってないかもわからない。なんと返すべきなのかわからず、ああ、とだけ返した。



 二十四日。

 冬休み初日。LoL漬けの日々が始まる。

 夜は母と慎ましくも暖かきチキンアンドケーキをキメた。うむ。

 鴻乃さんからはクリパの写真が送られてきた。皆赤い帽子をかぶっている。

 多分、相変わらずの楽しさの共有なんだとは思われるが、陽キャの写真で目が焼かれる上に、佐鳥も一緒にいるので心が穏やかじゃないんだが?

 まあ、鴻乃さんの写真をゲットということでワース。


 二十五日。

 特に連絡等はなかった。ひたすらLoLをする。

 母からクリスマスプレゼントとして服を貰う。ありがとね。

 あと二週間で今シーズンが終わる。チャレまで150LPほど。しかも、ボーダーがどんどん高くなってる。キツい。


 三十日。

 姉が帰省してきた。

 この人は普通に人間をやってる人なので、恋愛関係で相談するならこの人になる。

 夏に帰省してた時の茶髪から黒髪ロングに戻っているが、インナーに一筋ピンクが入ってて普通にぎょっとする。

「姉さんさ、ちょい相談いい」

「ん? いいよ。なに?」

「……どっか外でいい?」

 ちょっと家だと気まずい。

「あ、じゃあレフュージ行くか」

 そういうと、部屋着からさっさと外行きの服に着替えていく。行動早。

「レフュージってなに?」

「生協横の喫茶店」

「えあんなとこ喫茶店あんの?」

「ね、まじで隠れ家」


 歩くこと五分。片田舎特有のやたら大きめの細長い駐車場、その間に謎にある島みたいな園芸ゾーンに、喫茶店レフュージはあった。

 えこんなとこに喫茶店あったんかい。

 店内は広くはないが、壁と装飾品の配置か、結構プライベートな空間って感じ。

「なに? 恋バナ?」

「そう」

「まじぃ? とうとう颯斗も恋愛する年頃になったか」

「ああいや、参考に聞きたいだけなんだけど」

「照れ隠ししちゃってー。可愛いね」

「姉さんってどういう基準で付き合ってる?」

「恥ずかしがってないフリがうますぎだろ。もうちょっと恥ずかしがれよ」

 淡々とツッコミつつ、姉はカフェラテをスプーンで撹拌する。なんだかんだできょうだいで似てるんだろうなあと思う。

「んー付き合う基準か。ノリが合うかじゃね?」

「……姉さんのノリが合う人って何? ダウナー系ってこと?」

「いやまあそうなんだけど。普通に明るくて面白い奴なら付き合うけどね、ノリが合うなら」

「だからそのノリが何なのか聞いてるんだが」

「……話したら話が続くし、別に話してないなら話してなくても全然おっけー、みたいな感じ?」

 ……なるほど? 質問を続ける。

「ちなみに、相手より先に好きになることが多い? それとも相手の好きに気付いて好きになる?」

「んー。どうだろ。なんか、同じぐらいなんじゃね?」

「そんなことある?」

「あーでも、確かに、どっちなんだろうね。分かんないわ」

 前言撤回。こいつ本当に同じ血流れてんのかってぐらいふわふわしてんな……。

「じゃあさ、相手の好きに気付いて好きになるパターンは無いの?」

「あー、それはあるわ。あ、あるね。てか純そのパターンだわ」

 今の彼氏の名前、純なんだ……。

「それは何で好きになったの?」

「まあ普通に良い友達で、なんとなくこいつ私のこと好きだなって気がしてカマかけたらやっぱそうで、なんかそっから良い奴じゃん?ノリ合うし?全然付き合える、ってなって、でそれとなく告白しやすくさせて付き合ったね」

 何を言ってる? なに告白しやすくさせてって? こいつも諜報員なの?

「颯斗はどっちなん」

「……自分の気になるに気付いて、でも知らないことも多いからもっと知りたいのパターン」

「あーね。写真ないの写真」

 ……見せたくねえ。しかも持ってる写真、クリスマスと海の写真だけだぞ……。とはいえ相談に乗って貰ってる手前、しぶしぶクリスマスの写真を出す。

「ここの右の子」

「はーーー陽キャ集団で草。なにめっちゃ可愛いじゃん。え接点あんの?」

「半年ぐらい前から週二でゲーム教えてる」

「はなにそれやば。え、二人きりで?」

「概ねそう」

「概ねってなんやねん」

「基本二人きり」

「勝っただろそんなんもう。知らんけど」

 適当すぎる。

「アドバイスを一つだけ欲しいんだけどさ、俺のこと好きになりそうな人ってどんな人?」

「すげーこと聞くなお前」

 それな。でも知りたいんだもん。

「……んー。まあ、落ち着いてるし、会話出来るし、卑屈じゃないし、割とそのノリが合う奴なら好きになるんじゃね?」

「卑屈ではあるんだけど」

「えなに、女子の前で『ぼくなんか……』とか言ってんのお前?」

「言ってない」

「んじゃ卑屈じゃないじゃん。てか卑屈なのはマジでモテんから。気を付けろ」

「おけ」

「自信過剰はウザいけど、普通に生きてますけど?って顔してたら大丈夫っしょ。てか颯斗ゲームうまいっしょ? その自信でやればいいんじゃね。あとは相性、これはどうにもならんから」

「やっぱ、変に演じる方が大変?」

「私はまじで大変だと思うけどなー……いるけどね、完璧な彼女演じてる友達とか。あのエネルギーがすごいわ」

「だったら、なるべく素のままで行くのが良さそう?」

「演じるのがそこまで苦じゃなくてかつバレないか、それか最終的にバレても問題ないならいいんじゃね? でも、あんたは普通に素で勝負した方がいいしょ。あんたが演技出来るとは思えないし」

「それはそう」

「この子なんて名前なの?」

「鴻乃柚葉」

「ゆずって、柚?」

「そう、姉さんと同じ柚」

「はーん。私に相談してくるってことはもう半ば好きじゃんね。うまくいくといいね」

「うん。ありがと」

「ほいほーい」

 結局、なんだかんだで我が姉・柚希ゆきはいじりすぎることも無く普通に相談に乗ってくれる。まじでありがたい。

 ついでに会計までしてくれた。好き。

 ……まあ、そうだよな。相性ね。

 悪くはない気はしてる。かといって、別に特段良いかどうかは知らない。

 ノリが合うかどうか……は、まあ話してて俺は楽しい。

 鴻乃さんも楽しいと思ってくれてると信じたいけど。

 これはこの先理解を進めていくところだろう。

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