第7ー2節 呼び出し2
自転車を漕ぎつつ、先ほどのお節介お姉さんの言葉を思い返す。
『まだ射手場にはどうこうする余地があるように見えるから。もし射手場が柚葉のことを好きなら、まだ柚葉を手に入れられる可能性がある……かもね』
俺が鴻乃さんのことを異性として好きか。
もちろん、気にはなっている。ここまで仲良くなった女子は人生でいない。
けど、相手はあの鴻乃柚葉だぞ。
クラスの中心人物で、明るいギャルで、ノリが良くて、皆に好かれてるアイドルみたいな存在。
それこそ、彼女のガチ恋勢が何人いるのか想像もつかない。うちのクラスに留まらないことは想像に難くない。
俺にとって鴻乃さんは一番仲の良い女子だけど、彼女にとっては別に仲の良い男子の一人にすぎない。
LoLという不思議な縁で繋がったけど、本来ならば全く別の生息域の生き物だ。
九月に芥野と阿賀野のご一行二人に呼び出された時には、コーチングを引き合いに出して俺が鴻乃さんを異性として好きなわけではないという話をした。
コーチングは真面目にやりたい。だから、異性として考えてない。
これは方便ではあるけど、嘘でもない。
ただ一点だけ、この思いは、俺と鴻乃さんはゲーム仲間で、教える側と教えられる側で、ただのクラスメイトで、それ以外の何にもなりえないってことを前提としている。
いや、というかもっと簡単に言える。
鴻乃柚葉が俺なんかを好きになるわけないじゃん。
そりゃこんな可愛い子、俺の方は油断したらすぐに好きになっちゃうよ。
でも、好きになったところで付き合えるわけないし、付き合うのを目指す様々な行動の結果、コーチングっていう楽しい時間すら失う可能性があるわけでしょ?
なら、俺は鴻乃さんと一緒にいられて楽しい、鴻乃さんはLoLを教えて貰えて楽しい、このウィンウィンの関係が最上の関係じゃん。
……ってのが、これまでの現状認識だったわけだ。
それが、なに? 俺にもワンチャンあるっての? まじで?
芥野莉々が適当なことを言っている可能性もあるけど、それ以上に、これまで鴻乃さんから自分への言動を過度に歪曲して解釈してきたことも多々あるとは思う。
鴻乃さんは多分、それなりに俺のことを気に入ってくれてる。
じゃなきゃ半年間、ほぼ欠かさずに二人きりでゲームをしたりしない。
でも、それは恋愛感情の介入してないものだった。
直感的にだけど、これは俺もそうだし、鴻乃さんもそうだと思う。
もしかして、自分がそうだったように、鴻乃さんもあえてそこを押さえつけてた可能性とか無いのか?
あり得はする。言われた時は理解できなかったけど、芥野もそれを示唆するようなことを言っていた。
つまりまとめるとこうか。
俺も鴻乃さんも、お互いのことを恋愛面で認識しないようにしていた。
佐鳥が鴻乃さんに告白するにあたって、鴻乃さんが真摯に回答するために、鴻乃さん、そして俺を、自分自身の気持ちにちゃんと向き合わせたい、と芥野は思ってる。
さて、じゃあ俺は、もし鴻乃さんと付き合える可能性があるなら、鴻乃さんと付き合いたいか?
もちろんイエスである。
けど、障害もある。
まず一、俺は本当に鴻乃さんのことを好きなのか?
……正直、手に入れられる可能性があるって分かった途端、めちゃくちゃ彼女のことを考えてしまう。
これって普通に考えて最低なのでは? めちゃくちゃ恋愛感情を恣意的に扱ってない?
……これは一旦後回し。
その二、鴻乃さんと付き合ってどうするのか?
……まあ、普通に一緒に過ごすだけで楽しいだろうな。ゲームの話をするのも楽しいし。別にずっとLoLをしてるわけじゃないんだし、デートとか興味はありますよ、ええ。……うわ、想像したら普通に恥ずかしくなってきた。そりゃ、付き合えたら楽しいだろうよ。でも、鴻乃さんはどうだろう。彼女が人と付き合ってやりたいこととか、全く想像もつかない。そもそもそこが全くかみ合わない可能性もあるわけだ。
その三、コーチングはちゃんと出来るか?
そこはまあ、うまくいくにせようまくいかないにせよ、うまく出来るでしょ。知らんけど。そもそも、もはやコーチングは多少のスピードアップぐらいで、多分彼女一人でももうプラチナ到達という目標は達成出来るはず。あとは見届けるぐらいのものだ。この先、エメ、ダイヤを目指すとなればまた躓くこともあるかもしれないけど、少なくともプラチナは時間の問題だ。だからこれはまあ、大した障害じゃなさそう。……あれ、これ俺のメイン理論武装なんだけど。まあ、これは「恋愛感情を抱かない」ための理論武装であって「付き合えるなら付き合いたいか」向け理論じゃないのでね。セーフ。
その四、鴻乃さんは俺のことを好きになりうるのか?
一番大きい問題はここだ。
芥野莉々曰く、チャンスがある。
限られた会話の中での芥野の性格読みになるけど、鴻乃さんは俺のことも佐鳥のことも好きになる可能性がある。
そして、多分それはまだ彼女の中で固まってない。
ふと思い出すのは、九月の噂の時だ。沈静化して、一週間ぶりにコーチングで寂しかったと言われた時。別に恋愛感情ではなかったかもしれないけど、あれは彼女の本心だった。そして、俺はそう言われてときめいた。あの時も思ったけど、一緒にいられなくて寂しかったなんてセリフ、男女間ならカップルの会話だ。鴻乃さんは誰彼構わず仲良くなるけど、誰彼構わず勘違いさせるような人じゃないと思う。リスク管理はしている。だから、あの時の言葉は信頼の証だった。俺がカスなせいで、変な空気にしてしまったけど。
あの会話がなんだったのか、それを鴻乃さんと話そうと思って、結局今にいたるまで出来てない。なぜできなかったのか? 佐鳥ですねえ! 次のコーチングであいつがのこのこ来たからですねえ!
佐鳥。
間違いなく、佐鳥は俺のことを警戒している。
最初に話しかけられた時もそうだし、コーチングの件もそうだ。
それは逆説的に、鴻乃さんと仲の良い佐鳥から見ても、俺と鴻乃さんの仲が良く見えたってことにならないか。ちょうど、俺が佐鳥と鴻乃さんが仲良いなと思ったように。……まあ、冷静にあいつの視点で考えると、好きな女が良く分からん男の家に二人きりでいる時点で冷静ではいられないか。でも、それだけ二人きりってのは凄いことですよね、一般的にも。
話を戻すと、噂が沈静化した時に俺は鴻乃さんと話をしようと思ってた。
寂しかったってフレーズに過剰反応してるんだけど、でも気になっちゃうんだもん。そして、それについて彼女と会話できるぐらいの関係値はできてるはず。
もちろん、直接的に「なんであの時寂しいって言ったの?」と言うつもりは毛頭ないけど、……うーん、なんか難しいな。
とにかく、素直にもっと鴻乃さんのことを知りたいな。
そう。結構一緒にいて、なんなら俺がこの半年で鴻乃さんと一番一緒に時間を過ごした男の可能性は高いと思うし、一方でそれが実際そうなのかも知らない。
まだまだ鴻乃さんについて知らないことが沢山ある。
鴻乃さんのことをもっと知りたい。それと同時に、俺のことも鴻乃さんに知ってほしいって気持ちもある。
これが恋なのかはよくわからんけど、芥野の言葉を受けた今、鴻乃さんのことを考えるとドキドキはしてくる。いやこれ恋か? これ恋かもな?
休題。最大の障害について思い出した。
その五、佐鳥だ。
え、あいつクリスマスに告白すんの?
勝算立ってんの?
傍から見て相性は良いとは思ったけど、今冷静に振り返ってもこの三か月で何か進展があったようには見えない。いや、一緒に帰るようにはなったか。
でも、鴻乃さんの反応は一貫してフラットに楽しそう、って感じだった。
二人きりのときは流石に、もっとシリアスだったり甘い感じの話とかもしてるのだろうか……?
いや、クリスマスってもう二週間だぞ。
……芥野は、まだもうちょっと長いかも、とは言っていた。
つまり、佐鳥が告白しても即オーケー付き合う、にならない可能性があるってことだよな。
ていうかそうなってくれないと戦うにしても時間が無さすぎるぞ。
……そっか、てか、これは佐鳥との戦いになったのか。
結局お前が立ちはだかるんかいと思ったけど、この件に関して邪魔虫サイドは俺だ。
佐鳥は最初から、一貫して鴻乃さん狙いだった。全然めっちゃ一途じゃん、あいつ。
逆に、そんな一途な佐鳥に歯向かってまで鴻乃さんと付き合いたいか?
いや全然付き合いたいわな。お前に恨まれるぐらい別になんともないよ。いじめとかしないでね。
しかし、二週間でやれることは考えておきたい。
これはどういう手がある?
二週間後の佐鳥告白、これのウィンコンディションを阻害する必要がある。
そんなに出来ることは多くないが、あるにはあるはず。少し考える。
……俺が鴻乃さんのことを気になってるということを本人に伝えるってのは一つだ。
俺と佐鳥という天秤が出来上がる。
弱気すぎるか? でも、関係値を阻害しすぎず、ある程度の効果が見込めそうではある。
これが志島慧とかの爽やかイケメンだったら勝てない戦いって感じしちゃうけど、いかに同じイケメンといえど佐鳥だもんな。不遜ながらあいつに対して負けるの俺?って気分もしちゃうよ。
……おけ、考えてたら道筋が立ってきた。俺の意志表明、ね。
他に出来ることはあるか?
……たとえば、俺がチャレになったらちょっとときめき度あがったりしない?
しないか。しないけど、俺側の意気込みというか、願掛けとして、チャレになったら鴻乃さんと付き合える確率があがるかも、って思うのはバフになるかもしれん。これはこの方向性でいきますか。
他には?
……ぱっと思いつかんな。
とにもかくにも、会話が必要だ。
鴻乃さんのことを知りたい。
ていうかシンプルに、鴻乃さんと話してると楽しいしな。




