第7ー2節 呼び出し1
十二月二週、月曜日。
今度は何事か、再び芥野の呼び出しを受けていた。しかもサシである。怖い。
「……んで、今回はなに?」
マックの例の三階席についても、芥野はしばらくこちらを眺めるだけで何も言わない。
催促してようやく、芥野が口を開く。
「射手場さ、柚葉のこと好き?」
定期的に聞かなきゃいけない質問なの、これ?
「…………今回は、なんで?」
「……先に私の目的を話しておくわ。細かい話とかは知らないけど、最近めっちゃお前らのコーチングの話を聞いてるわけ。で、なんか人間関係がはっきりしねーなーって思ってるし、なんとなくズレてそうな感じが傍から見ててイライラすんのよ。てか、はっきりしてないのは柚葉とお前ね。だからそれを確認しにきたってこと」
「芥野はさあ……」
「なに」
「……鴻乃さんの保護者なの?」
怒られるかなと思ったけど、素直に思ったことを口に出す。なんとなく分かってきたけど、この人別にそこまで怖い人じゃないし、普通に話が出来る。マイルドヤンキー感はあるけど。
芥野は少し眉をひそめたあと、息を吐いてニュートラルな表情に戻る。アンガーマネジメントやん。
「……柚葉はさあ。恋愛、下手だから。それで失敗してるのを中学の時に見てるわけ。で、私は友達の痛々しい姿見たくないの。それに、知人の恋バナはおもろいのもあるし」
……中学の件とやらがあるのか。はじめて知った。
「鴻乃さんのこと好きすぎない?」
「……そうだよ。お前は?」
「えっそうなん……?」
この開き直り方はもう、恋愛として好きじゃん。
「何勘違いしてんだよ、ちげーよ! 普通に私は男が好きだから。で?どうなん」
本当かなあ? 慌てっぷりすごいけど。
「……人間としては好きだし尊敬してるよ」
続けろ、とばかりに芥野はホットコーヒーを飲む。
「でも、前に言ったコーチングのあれこれの話から変わってないよ。佐鳥と鴻乃さん見てると、なおさらな」
「なに、なおさらって」
「……佐鳥が本気だって」
「あーね……じゃあさ、射手場はいいの? 柚葉が陽介と付き合い始めて」
「そりゃ二人の選択なら良いも悪いもなくね?」
「それはそうだけど、じゃなくてお前は何も思わないの? 取られたな、みたいな?」
「……えーっと?」
「だからさ、嫌な気持ちになんないのかってこと」
「ああ……そういうこと」
二人が付き合う想像をする。
「めっちゃむかつくな」
「だよな」
「え?」
「あちょっとまって、これは陽介が悪いわ。シンプルにあいつが勝ち誇ってるイメージがうざすぎる」
「それな」
「ね! ……じゃなくて、いやもう陽介がノイズすぎる。あいつじゃなくてもさ、柚葉が他の誰かの彼女になりました、ってなったら、俺が先に好きだったのにな、みたいにならんの?」
なんか、ようやく言わんとすることが分かってきた。すげえな佐鳥。邪魔力が存在すぎる(?)。あと芥野と初めてノリの良い会話が出来て嬉しいっす……。
しかし鴻乃さんに彼氏が出来たらか。そりゃ……いやでしょ。
「まあ……そりゃ面白くはないけど」
「なんで?」
なぜなぜ分析やめてくれ。
「……仲良い女子に彼氏が出来たら面白くないだろ」
「もっかい単刀直入に聞くけど、じゃあお前は柚葉を異性として好きなわけじゃないんだな?」
「…………」
そう聞かれると返答に困る。
「好きやん」
「いやっ……」
キレの良い返答が出来なくてキレられそう、と思ったけど、そもそも芥野はなんだかんだ全然キレないよな。というか、なにかを得心したのか両手をぱん、と合わした。
「あーおけ、理解したわ。じゃあ、恋愛的に気にはなるんだな? 好きと断言はできないまでも?」
「……まあ、そうなるわな」
「んで、けど恋愛的なことは今はなるべく考えないようにしてる。それはコーチングのこともそうだし、今のままの時間が楽しいってのもあると」
出たな諜報員芥野。絶対私検定ゴールドやん。
心の中ではぐぎぎって返答したんですけど、言葉に出来ませんでした。それでも芥野にはなんか伝わったらしい。
「はー、分かったわ。めっちゃ分かった。えっ、おもろっ」
ていうかこいつなんだかんだでただの恋愛脳だよな?
「……いや、俺は全然分かってないんだけど」
「射手場さ、今の状態が続くの、もうあと二週間ぐらいかもよ」
「……なんで?」
「聞いてるかもしれないけど、クリスマスに陽介が柚葉に話をするんだって」
あーはん。なるほどね。……そっか。なんとなく二人がそわそわしてたのはそれか。
「いや、ちゃんとは知らなかった。恥を忍んで聞くけど鴻乃さんはなんか言ってた?」
芥野はにやりと笑う。
「それは言わない。フェアじゃないから」
フェアじゃない……? あんまよくわからないが、この感じだと100%オッケーされるってわけじゃないってことか? で、0%でもないと。
……ていうか、最初に俺と鴻乃さんがはっきりしないみたいなこと言ってたな。そういうこと?
つまり、芥野はある程度鴻乃さんと俺の関係のことを前向きに捉えていて、俺にチャンスがあることを教えにきた……? それか、単純にこの一連の流れを恋愛ショーに仕立て上げて楽しもうとしてるかのどっちか。頼むから前者であってくれ。
「……でも現実問題、あと二週間でどうにかなることなんてなくね? 芥野はどうしたいわけ?」
「……その点でいうと、煽るために二週間なんて言ったけど、実際はもうちょっと期間があると思う……多分」
「そこ、大事なところすぎない?」
「そこは……まあ」
いよいよよくわからなくなってきた。
「ねえ、今更だけどまじで何しに来たのあなた? 俺と鴻乃さんが付き合えばいいと思ってるってこと?」
だったらめっちゃ嬉しいけど。
「あごめん、そういうわけじゃない」
「じゃあいよいよ意味が分からないよねえ!」
「いや、まあそうなるよな。ごめんごめん。私は柚葉がいいならなんだって良いのよ。で、ぶっちゃけここ数か月の話を聞いてると、あーこの二人付き合うのかなーと思ってたけど、別にそんな感じでも無いからああ違うのかな、って。で最近突っ込んで聞いてみたら、なんか二人が意味不明に理論武装して、お互い気持ちを何か押さえつけてね?って思ったから、本心どんななんだろって気になったってこと。そこを明確にしないと、陽介の再告白に対しても誠実じゃないしね。これは柚葉の問題だけど、射手場の問題でもあるだろ。柚葉も陽介も身内だし、あんたは柚葉の身内なんだから、そこは後腐れなくしときたいっしょ。私の目的はこれ」
「なるほど……」
なんとなく言わんとすることは一応理解は出来た。他人のことでここまで行動できるのはまじで分からんけど。芥野莉々の目線が一番よく分からん。多分柚葉ファーストのプレジデントな感じってことだけは分かる。これが陽キャってこと? お節介すぎるだろこの人。
「ぶっちゃけどう、柚葉のこと? 好き?」
……恋愛脳がよ。
「いや、好きだけど……」
「異性として?」
「分からん……」
「チッ、はっきりしねーなー……。まあ、今日の話は私からのクリスマスプレゼントね。まだ射手場にはどうこうする余地があるように見えるから。もし射手場が柚葉のことを好きなら、まだ柚葉を手に入れられる可能性がある……かもね。だから、ちゃんと考えた方がいいぞ」
「……なるほどな。なんとなくわかった。ありがとうお節介お姉さん」
「誰がお節介お姉さんだよ」
「自分でもぴったりだとは思わんか?」
「ぶっちゃけ思うわ」




