第6ー2節 トリオ
で、翌週。佐鳥のコーチングが始まった。
火曜に個別、水曜は鴻乃さんに個別、で金曜に合同という流れだ。
「うっし、いきますかコーチ」
喫茶店ブルースで待ち合わせ。ここで待ち合わせるのは鴻乃さんだけで良かった……。
段々と気温も下がってきたが、まだまあ暑い。とはいえ汗ダクダクというほどでも無くなってきた。
聞きたい話が無いわけでも無かったが、とはいえ聞きたいわけでもない。と思っていたが、向こうからストレートに切り込んできた。
「柚葉、可愛いよな」
なにその発言。誘導尋問かなにか?
「……なんだ? 惚気か?」
「付き合ってもないのに惚気っていわねーだろー……。え、柚葉可愛いよな?」
「何を求めてるんだお前……?」
「いや、シンプルな同意」
本当こいつめんどくせえ……。
「ああ、可愛い可愛い」
「いや、そういうんじゃなくて」
なんか腹が立ってきた。
「あのさあ、お前ただ鴻乃さんとよろしくやりたくてLoLやるんだとしたら、多分絶対うまくいかないぞ?」
「お、そうそうそういうのそういうの」
うざすぎる……。
「柚葉目的はまあ、そうだよ。で、ゲームを適当にやるつもりもない。ただ少しでもゆずに近付いとかないとなって。正攻法、正攻法」
「正攻法なのか、これ……?」
「まあそうじゃない? 好きな人が好きなことを一緒に楽しむ。ゆずがそういうタイプかは知らんけど」
「知らんのかい」
「逆に教えてくれよ、ゆずってどういうタイプが好みなの?」
「俺はお前の恋愛コーチじゃない」
「ぷはっ、確かに」
佐鳥が吹いたので俺の勝ち。
「でも半年? 一緒にやってきたんだろ? この前もめっちゃ真面目なフリしてただけじゃないの?」
「いや、まじであんな感じだし、お前がこれから受けるコーチングもあれだからな」
「まじ?」
「まじだよ」
「まじか……」
まあ、プライベートの話もたまにはしますけどね? 鴻乃さんが中二の弟さんを好きで凌君ってのも知ってますけどね? お前はどうなん?
……何を競ってる?
「ストイックすぎん?」
「まじでストイックだよ」
「はー……すげえな。本当にまじであんな感じなの?」
「何回聞くんだよ。言っとくけど、LoLってゲームの中では一般的に難易度高い方だからな」
「それは分かるよ。初心者とはいえ、同じキャラ使ってどっちも負けちゃあな……」
「勝つ気だった?」
「いや、流石にそうは思ってないけど。あそこまでボコられるとは思ってなかったから」
「ああ、はい」
「アクションゲーだし、ちょっとは自信あったんだけどなー。ボコられたわ」
「まあ、センスはありそうだったな」
「まじで?」
「そもそも最初のCS練で71とれるのは普通にヤバい」
「まじ!? うお~モチベあがってきたー!」
……なんかなあ。散々うざいなあと思いつつも、なんとなく憎めないのは何なんだ。これが陽キャって奴なのか。
「ゆずもあの練習してたん?」
「してたよ」
なんならたまに今でもやってるっぽい。ストイックすぎる。
「ゆずは最初どんくらいだったん?」
……初日で五十ぐらいだったよな。
「……本人から、聞いて下さい。プライベートなので」
「なんじゃそりゃ。あ、これ俺の方が上だな」
「91……」
「嘘ォ!? いや嘘だろ普通に」
佐鳥には先日LoLをインストールしたPCを貸すことになった。流石に現役で使えそうな遊休PCはもうアウトオブストックだ。
そんなスペックの良い奴じゃないはずだけどさすが低スペでも遊べるゲームLoL、普通に動いてるようで一安心だった。
初回はまあ普通にコンボ練習とAI練習。ゲーマーなだけあって、教えたことは結構すぐにできるようになる。これでPCゲー初なのはやはりセンスが良い。
金曜日、初合同。
流石に鴻乃さんにはもう四か月先行してるわけで、いきなり一緒ともいかない。鴻乃さんは普通に試合をして、その間に佐鳥に個別コーチングをする。
「……なんか、部活って感じでいいな」
「そういや佐鳥って帰宅部なんだな」
「最初は軽音に入ってたんだけど、ダルくてやめた」
すると、鴻乃さんが補足する。
「……陽くんだけずば抜けてうまくて、温度差やばかったんだって」
「え、なにその格好良いエピソード」
「別にそんないい話じゃねえよ」
セリフが格好良すぎるのに対して、佐鳥は全然浮ついた感じでも格好つけた感じでもなかった。それがまた格好良い。良いとこあんだなお前。
「射手場くん見てない? 文化祭、陽くん一人でギター弾いてたんだよ」
そういうと、スマホをパスされる。動画が流れていた。
体育館の舞台上で、一人でエレキギターを引いてる佐鳥の姿。
「……え、これ全部一人で弾いてんの?」
「そう、弾いてるフレーズを録音してループさせてる」
コードを弾いたり、リズムを付けたり?、その度に足元のペダルを操作して、みるみる内にゆっくりとしたLo-fiチル系なビートが出来上がった。そして、ソロが始まる。お洒落なメロディに、時折速弾きのフレーズが繰り広げられる。いや普通に格好良すぎるけど。
「……お前めっちゃうまくね?」
「いや、別にそんなうまくないけど」
「なんでそんな謙遜する?」
「上には上がいるからなあ」
「射手場くんと一緒だね」
なるほどなぁ。なんか、はじめてこいつに共感した気がする。
そんなこんなで始まった二人目のコーチングだが、佐鳥は着々と腕を身に着けていった。
CS練習、ボット戦、ノーマル。
それらを順調にこなし、十月が終わる頃には経験者といっていい動きをするようになった。
というか、めっちゃ回してる。びっくりするぐらい回してる。
そして、そんな佐鳥に触発されたのか、鴻乃さんは見事ゴールドに昇格。お祝いとして、二人でスタバを奢った。
すっかり秋となった十一月二週目に、佐鳥がプレースメントデビュー。なんと全勝したらしく、プレースメントはシルバー2となった。
やっぱゼドっていいピックだよなあ。普通にスマーフみたいになってる。
あと、センスの良さは何度も思う。ばんばんデスするし、ばんばんキルする。ベトナムサーバーって感じ。
正直、このままミッドレーンで続けた方が良いとは思ったが、本人の希望でジャングルにロールスワップとなった。
きっかけはシンプルである。
「なあ、三人でノマやんね?」
「……私どこいくの?」
「あ」
そう、こいつは三人でLoLをするためにミッドを捨てたのである。
佐鳥の成績が壊滅的なのは二学期中間後に判明したが、腐ってもこの高校に入ってるだけあって、ジャングルでもどんどん実力を伸ばしていった。ただでさえ難易度が高いLoLの、その中でも大卒ロールと呼ばれ難易度が高いジャングルだが、持ち前のアグレッシブさと、なんか普通にゲーム理解度が高いマクロ力で、かなり試合をキャリーしている。やるやん佐鳥。
あと、話は変わってリアルライフだが、恐らく俺の話題が鴻乃さんご一行の五人にも上るようになったのか、普通に志島とかにも挨拶をされるようになった。五人の誰とも関わりが無かった春先の時点でいい奴そうと思っていたが、特に俺に踏み入るわけでもなく、でも前から仲が良かったかのように接する感じがあまりにも自然で、さすが陽キャのトップ……って感じだった。ちなみに芥野さんは別に挨拶なんてしない。流石の女王。あがのんは目が合うと小首をかしげて微笑をくれる。魔性可愛い。でも怖い。
もう一つ変わったことといえば、金曜のコーチングのあとのお見送りである。
「頼む、あの時間だけくれない?」
というわけで、金曜のあとは佐鳥と鴻乃さんが二人きりで一緒に帰るようになった。
ちなみに、佐鳥の家は高校最寄りの市駅から俺たちの逆方面に出る電車。気合いは十分である。
こいつが真面目にLoLをやっているのは事実なので、まあこれぐらいはくれてやる。
最初は嫌がっていた鴻乃さんだが、佐鳥も酔狂で告白したわけではなく、二人の相性ははたから見ても良さそうだった。
「——慧が急に『え、なんか急にバク転出来る気がするわ』とか言い始めて、しかもまじで成功してさ」
「え、あの後そんなことになってたの?!」
「まじであのゴリラとんでもないぞ本当」
「あはっ、ゴリラって!」
「いやまじで。あれ、そういえばゆず髪切ったよね?」
「あ、そだよ~。男子で気付くの陽くんだけだし、流石だね~」
俺なんかとは比較にならないぐらい会話のテンポがいいし楽しそうだ。
まあ、そちら側の人間さんたちですもんね。楽しそうでなによりです。
十月二十三日の俺の誕生日には、二人からお祝いでお菓子詰め合わせセットを頂いた。
「射手場くん、誕生日おめでと~~!!」
「おめでてえ!」
「……あざっす」
コーチングの日じゃないのに、わざわざいつもの喫茶店に集合してまでである。
ちゃんとした袋にこれでもかってぐらいのお菓子が詰められてた。スーパーで普通に買えるお菓子だけど、どんだけ詰まってんだこれ。……普通にめっちゃ嬉しいな。てか友達に誕プレ貰うの初めてか? えー嬉し。ありがとうLoL。
ついでに、芥野の誕生日が俺のちょうど一週間前らしいことも知った。まじかよ。覚えちゃうじゃん。
本業の方はというと。
十一月が終わった段階で、鴻乃さんはゴールド2目前、佐鳥はシルバー1まで来た。
……なんか教え子が優秀すぎないか?
鴻乃さんは初めて半年でゴールド2。一般的に見てとてもうまい。
佐鳥はまだこれからだけど、二か月でゴールド目前。そんなことある?
俺は最初の半年シルバーだったんだよね。負けたね。
そう、俺はといえば、二人に触発されて気合は十分……なんだけど、結果は冴えなかった。
最高位で85位までは行けたのでそれは大きいんだけど、ラダー上位の競争が激しすぎる。普通に維持するだけでも上等で、気を抜くとマスターに落ちるし、気を抜かなくてもマスターに落ちそう。どいつもこいつもレベルは高いし、ありえないぐらい上手い他国の化物も多いし、ここまで来てもトロールはいるし、何もかもカオス。
というわけで、ある程度維持は出来てるものの爆発的に連勝したりすることもなく、勝率53%ほどを維持している有様だった。冴えないねえ……。
ランクも残すところ残り一か月。どうにか、チャレンジャーまで行きたい。




