第6節 変化の秋3
もう一台余ってるノートPCを引っ張りだした。こっちはLoLを入れるところからなので、インストールしつつ鴻乃さんに貸してるPCを使わせてもらう。
ピックはヤスオで。
統計サイトを見る限りだと、勝率的にはゼドとイーブンなはず。
レベル3までに2キルして即終了しました。
「は?」
怖いって……。
「このゲーム、分からないことを無くしていくゲームだから。じゃこっから練習していこっか」
「えちょっとまって、今度キャラ逆でやらして?」
「……まあいいけど」
一応ヤスオの使い方を簡単に教える……けどこいつもやり込みキャラだから教えるのむずいんだよなぁ。
「まあ、こんな感じ。正直、どっちのキャラもむずいから説明がむずい」
「……えっと、とりあえず手裏剣をWで防いで、パッシブを活かしながら戦えば勝てる……んだな? まあ……やるか」
頑張ってついて来ようとする佐鳥。うん、そう。教えた通り。頑張れ。
今度は少し長かった。レベル4で終了して終わりです。両キャラ使ってどっちも俺の勝ち、しっぺ返しですね。
「陽くん、誰に喧嘩売ってんの~?」
鴻乃さんは得意げに煽り立てていたが、悪い気はしない。
「いや……まじか。えこのゲームむず」
「そうだよ~~このゲームむずいんだよ~~」
「今度ゆずがやってよ」
「私ゼドもヤスオもできないよ」
「いや、鳥対侍で」
「アニビア対ヤスオってこと?」
「そう、それ」
「……私はいいけど?」
「……んじゃやるか」
「くやしいいいいいい!」
「うわ惜っし!!!」
なんとか勝った。
最後のフラッシュQは読まれてアニビアのQが出てたけど、再発動が間に合ってなかった。危なかった……。
「え、ゆずめっちゃうまくね?」
「そうだよ、コーチにめっちゃ鍛えられてるからね!」
結果は2キル1デス。ヤスオ側がゲロのマッチアップとはいえ、ランク差を考えたら大分凄い。
「はーん、射手場ってゲームうまかったんだな」
「……LoLはな」
適切な返答がなんなのか分からない。あんまり褒めてる感じでも無かった。
「てか、ゆずってこんなゲームにまじになるんだな……」
鴻乃さん、前に普段は抑えてるって言ってましたもんね……。知らない級友の姿を見て驚いてる佐鳥が面白かったのと、これでもう佐鳥も知っちゃったなという、なんか独占欲のヤバそうな自分に気付きちょっと怖くなった。
十九時半になり解散の流れとなる。
「まあ、こんな感じでコーチングしてるよ」
「いや、めっちゃガチなのは分かったけど。……これ、ゆずはお金払ってんの?」
「え? お金?」
「ああ、別に好きでやってるだけだから無料だよ」
「えちょっと待って、コーチングって普通お金払うの?」
多分あんまよく分かってないであろう鴻乃さんに対して、逆に佐鳥はある程度分かってるみたいだった。
「そりゃそうでしょ、スポーツのコーチとかもそれで飯食ってるわけだし。ゲームでもプロシーンがあるような奴はコーチングが職業になってるとかあるっしょ?」
それはそう。
「あるけど、まあ俺別にプロでもなんでもないし。単純にLoL好きがLoL好きにLoLを教えてるってだけ」
「……ふーん」
二人とも硬い顔をしてる……。何となく気付いたけど、こいつこれからも余計なことしか言わなそうだな。
「で、週一でやってるってこと?」
「……まあ、そんな感じ」
嘘である。けど鴻乃さんも何も言わない。ちらりと見ると、無表情の裏ににやけが見え隠れしてる。
「これ、俺も次から参加していい? LoLもちょっと真面目にやりたいとは思ってるから。コーチング料はコーヒーとかで頼む」
こいつはこいつで鴻乃さん目当てであることを隠そうともしないな……。
「料金は別にいいけど……」
「頼む!」
頭下げよった……なかなか無いぞこんな場面。
鴻乃さんは困った顔をしてたが、視線が合うと困り眉のままにこりと笑う。
どういう表情? 可愛い以外の情報が取れなかった。
「……ちょっと、後で鴻乃さんと相談してからまた連絡していい?」
「おけおけ! ゆずも! 頼む!」
「……んー、そこはコーチと相談で」
「頼んだ!」
更に二時間後、二十二時。
試合中にスマホが鳴っていたので、終わった後に確認すると鴻乃さんからメッセージが来ていた。
『通話しよぜーい』
十分前のメッセージに『おけ』と返すとすぐに通話がくる。
『こんばんはー』
「はいこんばんは」
メッセージはともかく通話自体は新鮮だ。なんかどきどきするな。
『……コーチング料~~』
「まじで佐鳥が余計なこと言っただけで気にしないでほしい」
『でもよくよく考えたら射手場くんに貰ってばっかな気がするー……』
「好きでやってることだから、まじで気にしないで」
『逆に、なにか欲しいものとかある?』
……まあ、逆になんか単発で貰っておいた方がお互い気が楽か?
「うーん……なんだろ」
強いて言うならチャレンジャーになれるだけのスキルなんですけど……。
『好きなお菓子とかある?』
「レモンパック」
『あ、あれおいしいよねー! ……ちなみにさ、普通コーチング料ってどれぐらいのもんなの?』
「俺も知らなくて調べてみたんだけど、一時間で三千円だったり、逆に無料だったり、他にも配信者だとメンバーシップの人に抽選で、みたいな感じでめっちゃまちまちだったんだよね」
『へ~そうなんだ』
「やっぱまだそんなにしっかりした料金体系も無いようなコンテンツだし、鴻乃さんのケースは経験者が友達に教えてるってだけで、まあ金銭が発生するような感じでもないよ」
『……でもめっちゃちゃんと教えて貰ってるよね?』
「俺なりにね」
『分かった、今度からレモンパック持参します!』
「いや、単発でいいからね……。てか、佐鳥の件、鴻乃さんはどう思う?」
『んー……。いや、先に射手場くんがどう思うか聞きたいな。多分そっちの方が重要だし』
「んー、やってもいいかなとは思ってる。ただ、週二合同でやるのもなー……とも」
『うんうん! 射手場くん週一って言ったのまじでナイス嘘!』
ナイス嘘って嫌な言葉だな……。
「鴻乃さんも共犯ね」
『あはっ、いいよ~? 共犯共犯』
グッってきました。いい女か、鴻乃柚葉。
「ていうか確認だけど、あいつ多分鴻乃さん目当てで来たよな?」
『絶対そうだよ!!まじで!私の憩いの時間を奪うなって感じ!!』
憩いの時間なんだ。ちょっと嬉しいですね……。
「一応考えてるのは、個別のコーチングは二人とも別日でやって、金曜とかを合同コーチングの日にするのはどうかなーと思ってる。ぶっちゃけ合同コーチングも二週に一回とかでいいとは思うんだけど――」
『……結局個別で教えてあげるんだ。ひと月に一回で良くない?』
素直に嫌がってて笑う。
「一応真面目にコーチングはするよ、佐鳥にも。それと合同をやる意味もあるにはあると思うし」
『でもそれ、射手場くんの負担やばない?』
結果的に週三回、かける二時間弱コーチングの時間となる。試合換算で三試合分ぐらいか。ある程度は負担ではある。
……改めて思うけど、LoL好きの鴻乃さんならともかくなんで佐鳥の面倒まで見なあかんのや。
「まあ、多少は時間とられるけどそこまでだし。全然大丈夫だと思う」
『コーチがそう言うならだけど……ていうかそもそも私単体でも結構負担じゃない?』
「いや、全然そんなことないよ。問題は何で俺が佐鳥にマンツーマンでコーチングしなきゃいけないんだってところだけ」
『ごめんねー……』
なんかしおらしいのが謎に面白い。
「いや、ふはっ、鴻乃さんが謝ることじゃないけど」
『でも原因は私だしさー……』
「まあ、とりあえずはやってみるじゃない?」
それに、最初に鴻乃さんにコーチングを始めた時のように、佐鳥にセンスを感じ取ったのも確かだ。案外、良いライバル関係になってお互い高め合う、みたいになるかもしれない。
鴻乃さんとの時間が減るわけでもないし。まあ、一旦見てみましょう。
『ていうか……私の最初の時よりCSとれててむかつく』
「あれはあの、アニビアとゼドのCSのとりやすさの絶望的差が……」
『それでもむかつくでしょー!!』
気持ちは分かる。そしてその負けず嫌いなところが素敵です。




