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第5-2節 芥野莉々視点

 なぜ柚葉と一緒に帰ってるのが射手場から陽介に変わったのか調べる必要がある。

 ……ぶっちゃけ独断と偏見なんだけど、どうせ当の陽介の仕業だろ。

 という仮説をもとに、事実関係を確認していく。


 射手場の人間性は知らんかったけど、柚葉から聞いた話とか、昨日話してみた感じ、ヤバそうな匂いはしなかった。想像してたのと違って普通に良い奴ではありそう。

 柚葉を週二で独占してんじゃねーよとか言いたいことはあるが、それを選んでるのは紛れもなく柚葉なので、まあそれに関してはいい。

 射手場が柚葉のことを女として好きってわけじゃない理由についても一応納得しとく。

 いやそんななるか? 柚葉と二人きりで三か月過ごして好きにならないわけなくない? と思うが、柚葉も射手場も「そんなんじゃない」と言うので、まあ一旦そういうことにしておこう。

 問題は陽介だ。


 マックを出て解散し、射手場は自転車で帰っていった。

 はるは途中まで一緒の電車だ。二人で電車を待ちつつ適当に話す。

「とりとりね~。そういうとこあるよね」

「いや普通にやり方によってはアウトだろ。柚葉困らせてんじゃねーよ」

「でも手段を選ばない感じいいよね!」

「なに、お前陽介のこと好きなの?」

「お友達までかな~」

 こいつ本当。

「まあ、とりとりにも言い分はあるだろうし」

「聞くは聞くよ、当然」

「お手柔らかにしてあげてね~。私この五人好きだから?」

「内容による」

「それはそう」

「てかそもそも海行った時のあいつキモくなかった?」

「キモ可愛いのはいつもじゃん」

「そう思ってるのはお前だけ」

「え~そうかな~。りーりがゆずを溺愛してるからそう見えるだけじゃないかな~」

「…………」

 ホームの向こうを見てるが、隣ではるが気色悪い笑顔を浮かべてるのは分かった。

「否定できないもんね~?」

「はる?調子乗んな?」

「キャ~~こわ~~~い」

 この女まじ。


 夏休み前の時の噂は特定するのが簡単だったが、今回これだけ広まった噂の大元を特定するのは骨が折れた。噂の経路によって、話された側が話した者の名前を隠そうとするパターンもあった。

「なんで誰から聞いたか濁そうとすんの?」

「えーと、あの……」

 そんな捕食される小動物みたいな表情しなくてもいいだろうに。別に殺そうとしてんじゃねーのに。

「それともなに、あんたが広めたの?」

「ち、ちがうよ! あの……野田くんに聞いて」

 噂を聞いた女子を三人ほど辿ったところ、とうとう男子の名前が出てきた。

 野田ね。陽介ともつるんでる。

「どこで?」

「えっと……」

「どこ?」

「……どこだったかな? 掃除の時だったかも」

「嘘でしょ」

 なんとなくあーこいつ嘘ついてるなって分かる瞬間。するならもっとうまくやれよ。

「……一緒に帰ってる時に」

「え? なに、付き合ってんの?」

 中宮はもう泣きそうな顔になってる。顔の良い女が泣きそうになってる顔いいな。

「まだ。……ねえ、まじで誰にも言わないで」

「そこ付き合ってんのかよ……。あー、言わないから。泣くなって」

「まだだって! ……どう? 野田くん」

 一転して恋する乙女の顔になる。ウザ。

「あー、まあいいんじゃない? 案外気遣い出来るし、性格合ってんじゃない?」

「だ、だよね……ありがと! 頑張る!」

 いやまじで知らんけど。


 で、野田をつついたら案の定諸悪の元凶に辿り着いたわ。

「佐鳥、放課後マック」

「苗字呼びやめてください……」

 放課後。

 先日は普段絡まない射手場だったこともあり一応気遣いで国道から向かったが、今日はこいつなので普通に最短路で進む。

「りーり、前言ってたあれ読んだ?」

「なんだっけ。あー、ルワンダ?」

「そうそう」

「あれ言ってなかったっけ、読んだよ。普通にめっちゃおもろかったわ」

「いつ読んだん?」

「確か夏休み前には読み終わってたはず。感想言うの忘れてたわ」

 道中、陽介が勧めてきた新書の話を語り合う。

「——だから、あれってリアル俺TUEEEな感じしておもろいんだよな」

「なに俺つええって」

「漫画とかで主人公がバチクソ強いのを楽しむ系の作品」

「あーね」

「それのリアル版ってあんま聞いたこと無いから、おもろいんよな」

「はーん。確かに、語り部の圧倒的強者感よかったな」

 最初会った時は芯の無い感じが気に食わなかったが、色んなことが好きな感じは悪くない。だからまあ友達かって感じで接してきた。

 本を読むのもいい。柚葉もはるも、慧のアホも本を読まない。

 ちょくちょく勧めてくる本も、特定ジャンルに限らず普通に面白い奴を教えてくれる。それもまた悪くない。

 とはいえ、いまいち信用しきれないところがあるのも確か。


 いつもの三階席に行く。

 陽介はがっつりビッグマックをセットで頼んでいた。

「ポテト食っていいよ」

「あざ」

 お言葉に甘え、そのまましばらくポテトをつまむ。最近いっつもポテト食ってんな私。

「んで、本題だけど」

「ふぁい」

「お前だろ、噂を改ざんして広めたの」

 陽介は顔色変えず、ビッグマックを食い終える。

 コーラまで飲んで、ようやく口を開いた。待たせんな。

「そうだよ」

「なんで?」

「知ってるだろ」

 直接話をしたことはない。こいつが新学期早々に柚葉に告白してるのは、強引に柚葉から聞き出した。まあ、こいつが柚葉を好きなことは誰だって気付いてただろうが……。

「……柚葉、射手場と付き合ってるよ」

「…………」

 ちょっとおちょくってやろうとしたら、めっちゃ真顔になった。見てくれは悪くないんだよなあこいつ。

「まじ?」

 そう言葉を発する時には困り眉になっていた。リアルな反応だなー。確かにちょっと可愛いわ。

「ウソだよ」

「……っんだよ、しょーもないウソつくなってまじで!なんなん?!」

「そういうことね?」

「何いきなり!? 何を理解したのか馬鹿にも分かるように説明してもらえます?」

 普通に怒ってるぽかった。そりゃそうだ、すまん。直接は謝らないけどね。

「……柚葉と射手場が急に仲良くなって、焦った?」

「…………そりゃそうだろ」

「で、二人が付き合ってないってことも当たりをつけた?」

「そう」

「付き合ってないってことが分かったけど、二人で帰ってるとなると流石に分が悪いと。だから、嘘の噂を流して既成事実を作ろうとした。……これで、二人が一緒に帰るのをやり辛くするって感じか? それと、柚葉がお前のこともっと意識するようにってのもあんのか?」

 陽介は私の顔をじっと見つめながらコーラを飲む。

「……俺、柚葉のこと本気だから」

 自分の行動を正当化しようとする言動に普通にキレかけ、しかしさっと熱が引く。

「だから何? それで自分の行動が正当化されるとでも?」

「正当化どうこうじゃねえよ、どうやったら勝率があがるかの結果だよ」

 あごめん無理。

「お前マジいい加減にしろよ。その行動で柚葉が傷つくかもしれないって、すぐ考えたら分かるだろ! 何が勝率だよ、馬鹿かおめえは!!」

 なんだかんだ理性は常に働く。声量はある程度常識的な範囲に抑えられる。

「じゃあこのまま好きな奴に彼氏出来るのを黙って見てろって言うのかよ!」

 陽介の必死感は伝わる。そのおかげで、多少こいつに共感することも出来た。いつも何考えてるか分からん、というかなんか裏がありそうなこいつだけど、今この瞬間は本気だってことは分かる。

「……陽介、お前今自分のことしか話してねえよ? 柚葉のことなのに柚葉の気持ちを考えられない奴のこと、柚葉が好きになるわけなくね?」

「それはお前がお得意の政治力を発揮して俺の前まで辿り着いてようやくわかったことだろ」

 あ駄目だこいつ。

「柚葉が嫌な思いしても元凶が自分ってバレなきゃいいんだ? ああ、そうやって付き合った女のこと騙して自分のいいように事を進めるってこと?」

 自分が言ってることに気付いたらしく、陽介は固まった。

「……今の俺の言い方だとそうなるわな。そうじゃない、間違えた」

「お前ってそこまで馬鹿だったっけ?」

「俺も今気付いたわ……」

 そういい、陽介は急速にぺしょり始めた。……本当馬鹿だなこいつ。

「……でも、それでも諦めたくないんだよ。ならもういっそ、ここで首切ってくれ莉々。お前もう嫌われてる、ノーチャンだって」

「何で私がそんなことしないといけないわけ?」

「お前が柚葉の保護者面してるからだよ」

 ……クソ。言い返せはしない。

「莉々から言われたら流石に納得するよ。いいタイミングだ……」

 まあ、首をつっこんでる以上は、私に何かしらの責任が降ってくるのも至極当然のことだ。……ぶっちゃけあんま想定してなかったけど。柚葉への風評被害をぶっ潰すという気持ちが先行して、じゃあそれで一人の男の気持ちに終止符を打ちます、なんてことの心構えまではしてなかった。完全に目の前の阿呆と同じことをやらかしてる。まあそんな大層なもんだとも思ってないけど。とはいえ、仲間の一人ではある。

 しかもそれ以上に、ノーチャンなのかと言えば、ぶっちゃけ知らない。

 それは柚葉の問題であって、私はそれをリスペクトするだけ。だからこれまで突っ込んで聞いたことは無い。

 そもそも中学の時のアレもあるし、今は恋愛から遠ざかりたいんだろうなってので納得したのもある。

 だから、最初かなり二人は意気投合してるように見えたけど振ってたし。付き合うんかなーともぶっちゃけ思ってたけど振ったから、まあそうか、と納得した。

 一方で、今の射手場との関係も恋愛的な話は聞いてない。

 もう中学を卒業して半年経つし、心境の変化があってもおかしくはない。

 ……なんか思考がごちゃごちゃしてきたな。

 佐鳥陽介。別に、柚葉との相性は悪くないと思う。さっきの言動でも分かる通り馬鹿だけど、悪ではない。先ほどの会話が最悪すぎて個人的には大分引いたけど……まあちゃんと反省も出来る奴ではある。本気すぎて悪手を指すというのもまあ理解は出来る。配信者の話とかで二人で盛り上がってるのも見かけるし。一般的には悪くない見た目でもある。

「……あの、さすがに何か話してくんね?」

 考えすぎた。待つのに疲れたのか、陽介に催促される。

 ……どうしたもんかな。

「私は、柚葉が良いなら別にそれでいいわけ」

「はあ」

「で、ノーチャンかって言われたらぶっちゃけ知らないわけ」

「はあ」

「だから、別に諦めろとは言わない。ただ、こういう回りくどいことをやるような奴が信用できるか?って言ったらできるわけなくない?」

「……まあ、そうだな」

「つまり、やるならちゃんと正攻法でやれ」

「正攻法って、例えば?」

「知らん、自分で考えろよ」

「いや、何のことを正攻法って言ってるのかなって」

「それは普通に告白して成功するか死ぬかだろ」

「失敗したら死ぬの俺?」

「ていうかそもそもお前が軽々しく告白なんかするから本気の言葉が伝わんねーんだろうが!」

「軽々しくじゃねえよ! いけるよ思ったんだよ! え、お前から見たら全然そんなことなかったの?」

「……いや、まあ……」

 ぶっちゃけ付き合うんかなって思ってたわ、とかこいつに言いたくねえよ。

「珍しっ、言葉を濁す莉々珍しっ」

「うるさい。けど、一回失敗したってことはちゃんと受け止めろよ」

「分かってる。……莉々のスタンスは、正攻法以外で柚葉が不快にならないなら、仮に俺と付き合うってなってもオッケー、で合ってる?」

「正攻法以外でも柚葉を不快にさせんな」

「そりゃ、ゆず優しいから、多分振るってなっても嫌な気持ちになっちゃうだろ」

 それはそう。

「……クッソイラつくな。それでもなるべく不快にさせんな。ちゃんと向き合った結果気まずくなるぐらいはしょうがねーだろ」

「分かった。……ありがとな」

「感謝される筋合いまじで無い」

「そうかもしれんけど、ありがとな」

「ん」

 まあ、なんだかんだで悪い奴ではない。うざいしアホだけど。

「別に応援してないけど、頑張れ」

「それの意味はまじで分からん」

「察しろよ、だからモテないんだろ雑魚」

「ウィッス……」

「んじゃ、ちゃんと噂は撤回させろよ」

「……それ、俺一人はかなりキツいぞ」

「女子は私がなんとかしとく」

「助かる。今度マック奢るわ」

「スタバで」

「ウィス……」

 本当こいつは愛嬌があるかないかのライン際にいるような奴だな……。

 だからって別に応援はしないけど。まあ頑張りたまえ。

 ……こうなってくると、今度は射手場が気になってくるな?

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