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第5節 噂、審問会2

 放課後。

「いこ」

「おけ」

 皆がぞろぞろと帰り、ピークが過ぎたぐらいのタイミングで声をかけられる。

 ちらりと姿を探すと、鴻乃さんはクラスの中央で志島・佐鳥と話をしていた。


 外はまだまだ暑い。額の汗を甲で拭う。

 しばし二人の後ろを黙って歩く。誘われた側なのに、ストーカーの立ち位置なんだけど。

 芥野はスクバの持ち手を肩にかけるのではなく、左手で持ってスクバを肩にかけるという、なんかいかにも強いギャルって感じの持ち方をしていた。普通に様になっててかっこいい。対照的に、阿賀野さんは右肩にかけて両手で持ち手を持っている。こちらはいかにも女の子って感じで可愛らしい。強い美少女二人に囲まれて普通に具合悪いけど。

 かくいう二人は我々には理解できない言語で会話していた。

「ねね、りりあれ見た? 昨日の動画」

「さすがにらるぴあれはメロすぎでしょ」

「ねーー!!!ヤバいよね、普通にかっこよすぎてガチりそう」

「わかるわ」

 いや言語は分かるわ。多分ユーチューバーかなんかの話か。

 何の時間なんだまじでこれ。


 二人は駅に近道の通学路ではなく、国道を直進していく。

 下校する集団から別れる形だ。

 そして他の生徒が視界からいなくなったタイミングで、ようやく芥野がこちらを振り返る。

 少しだけ値踏みするような目で眺められたあと、口を開いた。

「改めてだけど、芥野莉々。こっちは阿賀野はる」

「よろ~」

 知ってます。

「……射手場颯斗です。これどこ向かってるの?」

「あ、ごめん言ってなかった。マック。いい?」

「大丈夫。呼び出された理由はいつ教えてくれるの?」

 芥野は歩調を少し緩め、右隣にくる。

「柚葉から、射手場にゲームのコーチングを受けてるって聞いてるんだけど、これは合ってる?」

「合ってるよ」

 以前、鴻乃さんから芥野さんにはコーチングの話をした旨を聞いている。

「……二人きりで?」

「あー……うん」

「射手場って、柚葉のこと好きなの?」

 このご一行にこの質問問われすぎじゃない?

「異性でって意味だよね?」

「当たり前でしょ」

 タルいこと言うなって感じで切り捨てられる。怖い。

「……正直、あんま考えてない」

「……なんで? 変な噂立ってるから?」

 ん? 変な噂? なぜ急に。……その言い方だと、あの二人付き合ってないってこと?

 まあともかく、なんで鴻乃さんのことを異性として考えていないか、か。

 しばし考え込む間、二人は静かに回答を待っていた。

「真剣にコーチングしてるから。真剣にゲームに向き合ってるから」

 それを聞いて、芥野は無言で歩く。

「それってさあ……」

「ゆずのこと好きだけど、教える関係だから抑え込んでるってこと~!?」

 うるさっ、びっくりした。いつの間にか左に回り込んでるキラキラ顔の阿賀野さんがいた。

 いや、まじでなんだこの顔の良い女。キラキラ顔としか形容できない。

「いや、違う。そもそも好き嫌いとかを考えてない。どうすれば上達するか、鴻乃さんのことを考える時はそれを考える時だから」

「あ~……なるほど?」

 自分としては論理的な意見のつもりだったが、阿賀野さんは首を傾げ、芥野も同じく納得いってないようだった。

「そんな割り切って考えられるか? 人間って」

「……少なくとも俺はそうだね」

 ちょっと嘘かこれ?

「じゃあ柚葉のこと好きでも嫌いでもないってこと?」

「……いやそれでいったら好きだけど」

「お前、適当な言葉で誤魔化してない?」

 怖い。

 まあでも、そりゃ高校生なんだから恋愛沙汰なんて好物だよな。俺もそうだし。生ものに手を出してないだけで。

 この二人は鴻乃さんの親友だ。だから、それをリスペクトしてなるべく本心で話す。というのが建前で、普通にクラスラダーで一番上の奴らが怖い。リアルライフチャレじゃんこいつら。

「……正直、深く考えないようにしてる。そもそも、二人きりでゲームしてるって時点で傍から見たらやってんじゃん、って思われるだろうし。でも、そういうつもりでコーチングしてるわけじゃないし、鴻乃さんも純粋にLoLが好きでコーチングを受けたいってなってるんだから、なるべくそういう方面のアレコレはシャットアウトして、シンプルに鴻乃さんを上達させることにフォーカスしたいってのが本心かも。多分、好きになっちゃったらコーチングが変な感じになっちゃうし、『純粋にLoLを教えてるだけです』ってのも変わってきちゃうから。それは嫌だから、考えてないってこと」

 めっちゃ喋った。ちらりと右を伺うと、芥野は前を見据えながら眉間に皺を寄せていた。いやだから怖いんだって。

「……つまり。恋愛感情を意識すると普通に好きになるかもしれなくて、そうすると今のコーチングの性質が変わってきちゃって、でもコーチングは真面目にやっててそれを壊したくないから、恋愛に関しては考えないようにしてる、って理解であってる?」

 ……この人頭良いんですよね。前に聞きました。

「合ってると思う。分かりやすく要約してくれてありがとう」

 すると、左で聞いていたあがのんが割って入る。

「……それさ~、二人きりの時間がおいしいし、それが続いて欲しいから恋愛にしないようにしてる、ってのではないの? ほら、付き合う前が一番楽しい的な」

 芥野はそれな、と同調する。

「今のはるに対する回答は?」

「ぶっちゃけ、そりゃおいしいよ今の時間は。可愛い女の子に自分の得意なこと教えて楽しくない男いないだろ。でもそれで仮に好きになって告白して振られたりでもしたらさ?」

「「うんうんうんうん?」」

 二人の食いつきが異様に良くなった。

「鴻乃さんが設定した目標達成に悪影響を及ぼすから」

 二人ともジト目になった。あれ? かっこつけすぎたか。

「どう思う、はる?」

「ん~……悪い人では無さそうだけど。これがとりとりが言ってたら絶対嘘だけど、てばくんが言うとなんか本当っぽく聞こえるよね」

「まあ、それはそう……かぁ……?」

 とりとり誰だよ。佐鳥のこと? てばくんは俺のことだよな。

 なんか今更なんだけど、見目麗しい女子二人に囲まれて、自分を値踏みされるシチュエーション、人によっては最高だろうな。俺? 最高になりつつあるよ。

「じゃあさ」

 芥野と目が合う。

「柚葉に告白されたら? 断るの?」

 前を向く。思考が停止する。

 答えられずただ直進してると、しびれを切らした芥野から追撃される。

「おい、逃げんな。どうするんだって」

「……いや。その時にならんと分からん。そもそも起きる可能性の低すぎることを考えるの得意じゃない」

「あ、じゃあ私がゆず役やるね~! 射手場くんってなんて呼ばれてる?」

 なに言ってるんだこいつ?

「射手場くん」

「じゃあ……」

 そう言うと、あがのんは眼鏡を外す。改めてだけどこの人顔良。

「射手場くん。私、射手場くんのことが好きです。付き合ってください」

 きらり。

 視線を外し、前を向く。

「お前喰らってんじゃねーよ!」

 右肩をぺちりと叩かれる。

「えっと、阿賀野さん成分が強すぎて全然ロールプレイが無理」

「あはっ、美少女すぎた?」

 そういい、上目遣いでこちらを見る顔の良い女。

 芥野は男女平等にあがのんの頭をぺしった。

「お前も変な誘惑をするのをやめろ」

「うっいたぁ~い……」

 あからさまな涙声。……この女。

 ふと反響する安藤の声。

 ――あの女は絶対ヤバい。

 ……こういうことか。

「じゃあ、こんどはりりがやろ?」

「やんねーよ」

「え~~~じゃあ私にやってよ~~~」

 そういい、芥野を横に揺らすあがのん。

「いよいよ、意味が、不明だろうがやめろ馬鹿」

 ぺしり。

「いたぁい……」

 なんか……なんかいいですねこのペア?


 駅の横にあるマックに着き、注文したコーヒーを受け取る。

 二人の姿を探すと、ドリンクを片手に芥野が階段の前でこちらを待ってくれていた。好き。

 彼女についていくと、三階の端の席では既にあがのんがスマホ片手にフライドポテトをつまんでいる。

 芥野はあがのんの横へ、俺は二人の対面に座る。

 ……なんていうか、めっちゃ青春っぽいな? 普通に居心地悪い。

 芥野はどうやら誰が相手でも同じように高圧的な口調のようだった。

「ポテト好きすぎだろ」

「ポテトしか勝たんのよな~。ほれ」

 そういいあがのんがポテトをつまみ芥野の口に運ぶと、芥野は素直に口で挟む。

 えっ良。……仲良いなこの人たち。

「でさ、射手場はどんぐらい上手いの? ロルだっけ?」

「えーっと……結構?」

 LoL上手い自認、芽生えてます。

「具体的には?」

 怖いって。

「えーっと……今このゲームをプレイしている人が日本で二十八万人いて」

「多くね」

 多くないんだなこれが。

「俺はそこで今百三十六位だね」

「…………」

 そういうと、無言で芥野はスマホを取り出す。なんかポチポチしてた。無視やめてねー。

「…………は? 上位0・04%?」

 あ、電卓叩いてたのか。

「えっ、すご~~! めっちゃうまいじゃ~~ん!」

 まあ、そう聞くと凄そうだわな……。

「りりのこの前の模試より上なんじゃない?」

「いや、余裕で上だろ。0・04って偏差値八十とかじゃないの?」

「……芥野さん模試そんな良かったの?」

「まあね」

「偏差値七十とかだったんだよね~?」

「そう、意外と天才だから私」

 この見た目で……? えっ好き……。

「ていうか私の成績はどうでもいいんだけど。……まあ、そんだけ強いならコーチングとやらも出来るか」

「真面目にやってるよ」

「ふーん……てかさあ、むしろ付き合ってないの?」

 どういう質問なんだよ。

「付き合ってないよ。あの、むしろ付き合ってたらまず芥野さんに一報行くんじゃないの?」

「いや、そうなんだけどさ。でももう三か月ぐらい続いてんでしょ? そんなんありえる?」

「……男女の友情が成立しない派閥の方?」

「別にしたっていいけど、あんま信用してないからそれ」

「あそっすか……」

 一家言ありそうな感じっすね。しかしそもそも俺と鴻乃さんは友達なのか? そう呼ぶ関係かも怪しいんだよな。

「……まあ、真面目にコーチングとやらをしてそうなのは分かった。柚葉もそう言ってるし」

 あ、そう言われてるんだ。そう言われるのは分かるけど、なんかちょっと悲しいものを感じてしまう。男として見られてない感じが……いや、当たり前だけどな。当たり前だけど感じちゃうだろうが。

「ていうか、俺はなんで呼び出されたの?」

「あー。射手場さ、今柚葉に変な噂立ってるの知ってる?」

「昨日知ったばっかだよ」

 芥野さんは片肘をつき、面白くなそうな態度で勝手に阿賀野さんのポテトをつまむ。

「何か詳しい話知ってる?」

「いや……なんも。強いて言うなら、教えてくれなかったことがちょっと悲しいぐらい」

「……勘違いしてるみたいだけど。あの二人、付き合ってないから」

「え゛?」

 変な声出た。

「知らなかったか。まあそうだよね」

「どういうこと?」

「……順序立てて話すわ。夏休み前に、柚葉とお前が一緒に帰ってるっていう噂が広まりそうになったわけ。その噂自体は広まる前に潰したのよ」

「諜報機関の方?」

 スマホを見てたあがのんは吹き出してた。良かった。いやスマホが面白かっただけかも。

「で、夏休み明けたらなんかこの噂を雛形にした変な噂が広まってるじゃん? は?ふざけんな?って感じだよね。まじで佐鳥あいつ……」

 結局あいつかよ!!

「あそう、で。とりあえず事実確認のために大元の射手場に話聞いてみっかーってのが今日。そういう流れ。なんか質問ある?」

「これからどうすんの?」

「噂の出処を掴んで正す」

 正す。ギャルからなかなか聞かないであろう言葉。

「分かった。……なんか協力することはある?」

 一応方便で聞いてみるけど、まあないやろなあ。なんて思ってたらじっと見られた。お前本当に思ってて聞いてる?って思われてるような気がしてならない。居心地悪い。

「……いや、あー。まあ、柚葉もあんまり気持ち良い状況じゃないと思うから。普段通りコーチングしたってあげて」

「わかった」

 それで解散の流れとなった。

 しかしなんだ……二人は付き合ってなかったのか。

 正直……正直良かったって気持ちがある。……どの立場で言ってるんだ俺は?

 ていうかそもそも、なんで鴻乃さんと一緒に帰ってる奴が佐鳥にすり替わってるんだ?

 ……てか芥野さん、友達のためにこんな動いてる感じなの? いい奴すぎない?

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