第5節 噂、審問会1
俺の人生比では濃厚だった夏休みが終了した。
結果発表。
えー、一回マスターに転落しましたけど、無事グラマスに戻り維持が出来ました。けど維持してるだけです……悲しい……。
これまでもちょくちょくチャレンジャーマッチに入ることはあったが、グラマスになりチャレと当たる頻度が上がった。最初は有名な人と当たると少し舞い上がっていたものだが、最近は流石に慣れてきた。
とはいえ現役プロはやはり強い。
レーンで勝っても、下手に試合が伸びるとカムバックされる。スキルもそうだが、ここらへんの打たれ強さに差を感じる。
響さんの兄と判明した奏さん……ムニエルさんとはこれまでもマッチしたことがあったが、あの後夏休みだけで三回ほどマッチした。一回は味方で勝利、二回は敵で、なんとか一勝はもぎ取った。
ちなみにフレンド申請を頂きました。震えつつ承諾。恐れ多すぎる。
そして我が生徒、鴻乃さんはシルバー2まであがった。勝率55%で、あの、うちの生徒普通に強いな?
「射手場くんおはよー!……夏休みも会ってたから、全然久しぶり感ないね?」
二学期明けの朝から小声でこんなこと言われたら、精神衛生上良くない。
緩みそうになる顔を必死で抑え、おはよう、そうだねと返した。
夏休み明け初週の水曜日、久しぶりに鴻乃さんと学校から帰りコーチング。
「なんか、制服なの久々って感じだね!」
「楽でいいけどね、制服……」
「あーまあ確かに?」
選ぶのがって意味なんですけど、本当に伝わってるんですかね?
鴻乃さんがLoLをはじめて三か月が経った。
このゲームは知識ゲーの側面がかなりある。具体的には、対策を知らないと永遠にカモられるけど、対策を知れば逆にカモれる、みたいなの。以前こうのさんに話したディテールの話である。
勝てないマッチアップでもどこかのタイミングで勝てるようになる、みたいなのもそうだ。
こういうのは直接体験するか、動画で学ぶなどのインプットが必要になり、そこに経験値、時間を要する。
当初、鴻乃さんはかなりヤスオを苦手としていた。アニビアが得意なマッチアップであるにも関わらずだ。
気持ちは分かる。シュンシュン動く相手に混乱し、ちゃんとダメージを返すことが出来なくなる。パッシブのシールドは強すぎるし、壁で飛翔物を落とすのも強すぎる。
だけど、落ち着いてダメージを返していけば基本的には勝てるマッチアップだ。
ってのを、1vs1などでコーチングして、今では彼女の得意マッチになった。
このゲームはある程度まとまった知識を習得したら、あとは個別のマッチアップ等のディテールをどれだけ詰められるかになる。
彼女のミクロセンスはやはり光るものがある。
シルバー2から3に降格したりもしたけど、実直に経験を積み、どんどん上達していくのは、見てるこちらも楽しかった。
そもそも感情表現が豊かなので、本人を見てて楽しいのもある。
これ普通に年内にはプラチナあがれそう。なんなら、もし来年の二月より先にダイヤに上がれたらコーチ側の昇格スピードが抜かれるんだよね。恐ろしいね。
週開け。
まだまだ当分暑い日が続きそうで、今日は33度。夏やん。
とはいえ、そろそろ夏休み気分も抜けてきてしまった。
火曜の二十時頃に鴻乃さんからラインが来た。
『ごめん、そういえば今週のコーチングキャンセルさせて下さい』
という文言と、泣いてるシマエナガのスタンプ。
春には思いもよらなかったが、このコーチング関係はほぼキャンセル無く行っていたので珍しい。
水曜日。
掃除の時間中、安藤がひそひそと伊野と俺に声をかける。
「そういや、佐鳥が鴻乃さんと付き合ってるって噂聞いた?」
えっ。
「えっまじかよ! あっつー!」
「らしいよ。なんかずっと一緒に二人で帰ってるらしくて」
「うほーい、五人じゃなくて!? あっつー」
「バカお前声絞れって!」
「すまんすまん、まああっちも取り込んでるし」
そういい、さりげなく女子の方を見る。そう、鴻乃さんも同じ班である。
向こうは向こうで声を潜めて会話していた。なんか詰められてそうな感じ。
体から力が抜けていく感じがする。
い、いや俺なんてただコーチングをしてるだけの関係だしね?
そら向こうは高校生の関係してるんだもの、そりゃ付き合ったりもあるでしょうよ。
……でも俺には言ってくれよ!!!
てか、彼氏が出来たのに男の家に二人でいるのはまずくないですか!?!?
てかいつできたんですか!!!
そこでふと思い出される水着の写真。……そういや、佐鳥距離近かったな。
ていうか多分、下手に自制しないと鴻乃さんのことを好きになってたのは自明なので、ちゃんと心の線引きをしておいて良かったな。これでもうガチ恋勢とかだったら目も当てられなかった。普通に学校休むレベル。……あ、コーチング無くなったのってそういうこと? これ……我々の旅はここで終了ですかね? これからも応援してるから……LoL、続けてね……あでもそんな暇無いかな……。
えやばい、めっちゃ力抜ける。
「まあ、お似合いって感じか?」
「あんま鴻乃さん特定の誰かってイメージ無かったし、アイドルって感じだったけどなあ……まあ佐鳥なら納得か?」
俺はクラスの事情を全然知らないが、この二人にとっても納得感ある組み合わせらしい。
「いやーこれで残ったのは莉々様とあがのんだけかー。良かったあがのんが無事で」
良かったな伊野、お前の推しは無事で。
「お前あがのん推しかよ! 被ったんだけど!」
安藤は苦い顔をする。こいつもあがのん推しかよ。んで同担拒否かこいつ。
「いややっぱあがのんっしょ」
「それな。あの女はヤバいって分かってても俺たちは拒否出来ない」
「射手場の推し鴻乃さんだぜ? どんまい射手場?」
「辛いです」
「ぷははっ! かわいそ~」
「八岡とお互いの涙を拭うわ」
「キモい絵面だな」
「それな」
翌日、水曜日。
普段は全く聞いていない民草の声をめちゃくちゃ追うようになってしまった。
そして、明らかに今の話題の中心は鴻乃さんと佐鳥であった。
くぅ~~きくぅ~~。
一日経って、多分人生で二番目に落ち込んだけど、まあそりゃそうなるよねって思ったらなんか大分落ち着いてきた。一番目はグラマスにあがれなかった中二の時ね。
まあ落ち着いてはきたけど、二人の話題は普通に喰らうよ。
掃除が終わりHR前。
コーチングも無いし、今日はLoLに浸ろうとか考えてたら、威圧感のある声に呼び止められる。
「射手場、ちょっといい?」
席から振り返ると、恐らく脱色していると思われるグレージュのロングヘアーが目に入る。月一の身だしなみ検査どうやって受かってるんだ?
クイーン芥野、そして右斜め後方には黒髪ロング眼鏡美少女、阿賀野はる。鴻乃さんご一行だ。
真顔の芥野さんと、にこにこした阿賀野さんの対比がえぐい。怖い。
「何?」
「今日の放課後、空いてる?」
「……えーっと」
LoLしたいんだけど。
「柚葉のことで話したいことがあるんだよね」
「……分かった」
「じゃあ終わったら声かけるから」
「ほい」
何が起きてるってんだい。なんか……長くなりそうですかこれ? LoLしたいんだけど?
ていうか、何の用なんだまじで?




