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第3ー2節 鴻乃柚葉、人間付き合いを問題視される1

 週明け、なんてことは無い昼休みの時間。

 鴻乃さんとの不思議な関係が始まって一か月が経った六月四週目。


「ゆずさ、最近なんか付き合い悪くね?」

 今のは佐鳥陽介だ。多分ナンバー2みたいな感じの人。

 相変わらずこのクラスで最も陽力の高い集団は、聞き耳を立てると内容が聞こえてくる絶妙な音量で会話されていた。めっちゃうるさくはないけど、まあ普通に聞こえる音量。

「えっそう?」

「いや明らかに悪くなってるだろ。男か?」

「あはっ、なにそれ。違うって」

「えっ柚葉彼氏できたん!? 誰誰?!」

 急に会話に加わったのはナンバー1の人。志島慧。この人はサッカー部なはずで、見てても嫌味が無くて明るい、面白くて良い奴って印象。強すぎる。

「だーかーらー違うって~」

「え違うの? ……えじゃあ何の話?」

「最近ゆずが付き合い悪くね?って話」

「あーね。これね、出来てますわ。男」

 めっちゃキメ顔でとぼけたこと言ってる。

 ていうか聞き耳立て過ぎだ俺。

 とりあえずスマホで先週末のプロの動画を流す。イヤホンは彼らから見える左だけ付ける。しかも音声はミュート。盗み聞きする気満々だった。

「やばい、話が通じなさすぎる!」

「でも実際柚葉さぁ、最近ごめん案件多くない?」

 加勢するは落ち着きつつも威圧感のある声。芥野莉々だ。女子ナンバー1で、鴻乃さんの親友と思われる人。

「いやそれはごめんて~。色々あるんだって、色々~」

「……まあそっか。ほら、女子には色々あるんだから陽介も慧もたるいこと言ってんじゃねえよ」

 あと多分鴻乃さんにめっちゃ甘いっぽい。口調は怖い。

 その後の会話は声量を落として話されるようになり聞こえなくなった。

 めっちゃ気になるけど、まあどうしようも無いのでもう片方のイヤホンを着け、ミュートを解除した。


 放課後、いつもの喫茶店ブルース前。

「お待たせ~」

「お疲れ様」

 手を肩ぐらいの位置でひらひらと振る鴻乃さん。可愛い。

 このルーチンももう慣れたものだ。ところで俺の心臓はいつ慣れる?

 いや、今まで女っけの全く無かった境遇から、いきなり二人きりは流石にハードルが高い。チャレグラマスマッチにはじめて放り込まれた時の感じ。


 自転車を押しながら三十分。

 大体会話の内容はLoLだ。

 先週末、彼女はとうとうレベル30になりランク戦が解禁。晴れて正式なソロQ戦士となった。

「プレースメントブロンズ1ってどうなの?」

「何勝したんだっけ?」

「三勝したんだよ! 勝ち越し勝ち越し~」

「それはまじで偉い。……まあ、そんなもんなんじゃない?」

「射手場くんはどうだった?」

 まじで覚えてない。

「多分シルバー……だったかな?」

「うー負けた」

「その意気や良し……」

「不遜ですか~?」

「いやガチで褒めてる」

「煽りですか~?」

 そういえば、横にこんなギャルがいるのに普通に話が出来ている自分に気付く。現実世界がブロンズすぎるかも。

 ふと気になって口を開く。

「そういえば、……」

「ん? なに?」

「あ……いや。ごめん、たまたま聞こえてきちゃったんだけどさ。昼休みの時に……」

「あーね。あんま気にしなくていいから」

「付き合いが悪いって……いや、会話先回りしすぎですよ鴻乃さん」

「そもそも、今までが一緒にいすぎなんだよね~」

 めっちゃ先回りされる。フラッシュ先にスキル置かれてる。

「……ちなみに週なんぐらいで一緒だったの?」

「週四ぐらいかなあ?」

「それが今は?」

「……週一ぐらい?」

「極端すぎませんか?」

「……極端すぎるね」

 横目に見ると、まずった、みたいな顔をしていらっしゃる。

「……まずったな、って思った?」

「まあ、まずったなって思ったね。うーん」

「でも、もう週一ぐらいがちょうど良いんだけどなぁ~……って思ってるってこと?」

「射手場くん! すごい! そう! 私検定ゴールドを贈呈します」

「難儀な性格やね……」

「そうなんだよねえ」

「てか、実際何やってるか聞かれたらなんて答えてるの?」

「あそうだ、ごめんコーチングのことりりには言っちゃってる! 男子は適当にはぐらかしてる! はるは……どうなんだろ? よくわかんない!」

「あそうなんだ……全然いいけど」

 ……阿賀野さんと仲良くないの? そういうのちょっと怖いよ?


 その時はそれぐらいで終わった。けどやっぱり、火種ってこんな感じだよね。


 六月四週目。木曜日。

「射手場さあ、ちょっと話いい?」

「……? ……いいよ」

 放課後、さて部活に励みますかと席を立った瞬間、男に声をかけられる。

 知ってる男だ。一方的にだけど。佐鳥陽介、ナンバー2の人。

 なんていうか、良い話ではないだろうな。普通に身構える。

「ここだとあれだし、中庭行こうぜ」

「分かった」


 自販機からアイスコーヒーを回収する。佐鳥は近くのベンチに腰かけていた。

 よくよく考えると、ここの中庭って結構ブラインドスポットだな。中庭の間に南北にかかる渡り廊下があり、西側の方は教室も無いため地味に人目が無い。

「で、話って?」

 缶を開け、コーヒーに口をつけた瞬間。

「お前って柚葉と付き合ってんの?」

「ん“っ……ご、ごほっごほっ!」

 吹きはしなかった。そんなに。でもめっちゃむせた。気管支に入った……。

「ごほっ……一体どこから出てきたのその話?」

「いや、お前らが一緒に家帰ってるって話を聞いたんだよね」

 いつか見られるかもとは思ってたけど。こんな本家本元みたいな人に話が届くなんてことあるの? まああるか。

「はあ」

「否定はしないんだ」

 嘘はつけない。けど、これどこまで言うべきなんだ? いやでも、鴻乃さんと一緒に帰る合理的な嘘なんて何も思いつかない。

「……えっと、付き合ってるってことに関しては否定できる」

「ふーん……」

 あ、これ『でも一緒に帰ってるのは確定かよ』って反応だな。なんか……めんどくさい。

「お前柚葉のこと好きなん?」

 佐鳥は奥を透かして見てやろうという眼光でこちらを見ていた。怖いね。

「それは異性としてってこと?」

「当り前じゃね?」

 怖いよう。

「いや、そういうのじゃないよ」

 多分。知らんけど。

「…………………」

「…………………」

 佐鳥は俺の顔めっちゃ凝視してたし、俺はなんか分からない何かを抑えるのに必死だった。

 普通に汗が流れそう。こらえろ。

 すると、佐鳥は一転して笑顔を浮かべ、

「そうなんだ! えっ、じゃあ何で一緒に帰ってるん?」

 やりづらいなあこの人……。しかもこれ答えていい質問か微妙すぎる。

「んー……佐鳥の方が鴻乃さんと仲良いんだし、直接聞いたら? 俺から言っていいのかよく分からんし」

「えなに、言っていいか分からんことしてるってこと?」

 この追い込んでくる感じ、まじでだるいな……。

「多分言ってもいいと思うけど、鴻乃さんが佐鳥に言うのかは知らないし、もっかい言うけど俺じゃなくて仲の良い鴻乃さんに聞いてくれよ。ていうか実際何で俺に聞くわけ?」

 すると、佐鳥は一瞬だけたじろいだあと、営業スマイルを再び浮かべた。

「んー、射手場ってさ、口硬い?」

 まためんどくさい切り出し方だな……。

「いいよ、言えよ。言わないし、そもそも言いふらす相手がいないって」

「ああそう。いや、俺柚葉のこと異性として好きだから、めっちゃ気になって。それで呼び出したんだよね、すまん」

 は? 一瞬脳内が真っ白になる。

 なんていうか。うわー。なるほど。

 いや、めっちゃざわつくじゃん、心。

「あー……そうなんだ」

「そうだよ」

「そうか、まあ、うまくいくといいな?」

「おっ、応援してくれんの? じゃあ何やってんのか教えろよ!」

「だから聞けって! 仲良いんだろ!」

「恥ずかしいだろ! めっちゃ意識してるみたいな感じで! あからさますぎて!」

「でも好きなら聞くしかねえだろ! てかこそこそ嗅ぎまわられるより直接聞かれた方が鴻乃さんもいいんじゃないの?」

「……それはそうか。……今まで喋ったことなかったけど、射手場って面白い奴だな」

「は?」

 まじで何かしらんけど勝手に好感度があがった。

「まあ、じゃあ柚葉に直接聞くか。……てか教えろよ」

「うるさい」

「くそが」

 なんなんだこいつまじで。

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