9話
「ミリー、いつもありがとう。今日の話は……君の気持ち如何では、我々はミリーを助けるつもりでいると、そう思っていることを前提に聞いてくれ」
ああ、この時が来たんだなと思った。
そうだこの大商家は叙爵されるほどに、力があるのだ。商売の基本は情報だ。大きな商家であればあるほど、情報収集力は高い。きっと、旦那様は私の事など始めから知っていて、匿ってくれていたのだとわかる。
「はい。ありがとうございます」
「いや、私は男だからね、相手の気持ちもわかってしまうから……どうしてもね。息子が生まれて、今まで以上にその思いが強くなった。だから、少し私の為にも聞いてくれないか?」
そうしてまず話出したのは、旦那様とメアリーの話だった。
旦那様は隣国に赴き、商売をする中でメアリーと出会った。隣国の貴族だとわかっていたが、どうしても諦めきれず思いを告げ、お互いに気持ちを交わしてしまったという。
平民の自分が彼女を迎える為に、急いで国に戻り、爵位を得るための手筈を整えている間に彼女が身籠り単身こちらに来たんだそう。
「爵位を得る準備に手間取っていたんだ。そしたらメアリーが先に、家出してまでこちらに来てくれた。それにも驚いたが……まさか、私との子供を抱えていたなんて。貰った手紙には書かれていなかったからね。あの時の驚きと、喜びと、恐怖と……言葉では言い表せないほどの気持ちは、どう言ったらいいんだろうね。でもそれも、ミリーが彼女たちを守ってくれたから今言えることなんだと思うんだ。本当にありがとう」
そう言って頭を下げる旦那様。
「いいえ私の方こそ、とてもお世話になっていて……」
「いや、当然の報酬さ。あのまま、彼女が夜盗やごろつきに襲われて二度と会えなかったら? そんな事ないと、言えないだろ? 実際、君に出会っていなければ……あり得たかもしれない未来だ」
旦那様は苦笑いをしていたが、急に姿勢を正し言う。
「だからこそ、君には感謝しているんだ。…………ミシェル様。そう、ミシェル・フォレスター様」
真剣な眼差しで、私と向かい合う。目を逸らす事も出来なかった。
「だから、それと同時に…………彼にも同情してしまう。本当にこのままでいいのかい? 控えめに言って、僕達の息子は天使だけど、君の娘も天使だろ? 僕だったら、ルーシーに会えなかったら泣いてしまうよ。彼はどうだろう。僕ですら泣いてしまうのに……父親の彼は、どうなってしまうんだろう。君がいなくなったと知った、彼がどうなったか……君は知るべきだと僕は思うよ」
「私が、いなくなった後の……彼は……」
あの人と、うまく言ったのではないの?
「行き違いが、あったにせよ……彼は、今でも君を探しているようだ」
「えっ……まさか……そんな…………」
驚いて私の言葉が出ない間も、旦那様は言葉を尽くして説明してくれる。
「メアリーがこの国に来た時に、君と同じ背格好の人物がいたという、それだけの情報で我が商会に問合せがあった。
それも、数回だ。もちろん君の情報をこちらは伏せてある。ただ藁にもすがる思いで何か情報を得ようとする彼に……同じ父親として同情してね。
君にも知らせた方がいいと判断したんだよ」
まさか、彼が私を今でも探してくれているなんて思わなかった。
あれから──退団してから約半年も過ぎているのだ。なぜ、私を探すの?
「何か誤解があるんじゃないか?」
「誤解……」
……誤解なのだろうか。
近いうちに、彼はこちらにくるんだそうだ。旦那様個人的には、誤解があるなら解いて貰いたいと言ってくれる。
「もし私が彼の立場に立っていたら……妻の妊娠も子供の存在も知らずに、愛する人が消えてしまっていたら、とても正気ではいられないと思う……と言うのは覚えておいて欲しい」
そう言った後、少し時間をおいて私と娘を見てから……それでもなお逃げたいのなら、徹底的に逃してくれると約束してから部屋を後にした。
私はどうしたい?
会いたい……もちろん会いたい。
この娘にも会わせてあげたい。
…………でも、あの日の光景が目の裏に浮かんでは消える。
勘違いだった?
そしたら、なんてことを……むしろ、あの子を彼から奪って、しまったの? 私は、どうしたらいいの。




