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ローゼンカヴァリエの見えない傷と結晶  作者: 木村 巴


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6話



 こうして定期的に王妃様のお茶会にも参加しつつ王城を歩いていると…………


「ミシェル!」

「アベル! どうしたの?」



 たまたま居合わせたであろうアベルが、よく声をかけてくれる。笑顔でこちらに駆け寄ってくる姿すら素敵で、近くにいた侍女達もアベルの笑顔に足を止めてしまっていた。


 わかる。



「今日は王城勤務なんだ。仕事、あがりだろ? 一緒に訓練しないか?」

「嬉しい! 今日はお茶会の日だったから、動きたかったの」

「じゃあ、準備して訓練棟な!」

「ええ」


 アベルとはお茶会の日に、王城での勤務が重なる事が多くて、一緒に訓練をしていくことが習慣となっていた。

 お茶の時には、ケーキや甘い物が出てくる。それらを食べた後だったから、強いアベルと一緒に訓練が出来るのはとても嬉しかった。


「はぁ~疲れた! アベル、誘ってくれてありがとう」

「いや、こちらこそ王都の騎士達とは動きが違うミシェルと一緒に訓練出来て助かるよ。良かったらまたお願いしたい」

「嬉しいわ! ぜひ」

「疲れたな。このまま夕食を取って帰ろう。美味しいお店があるんだ」


 そして、いつも訓練の後はそのまま一緒に夕食をとってから帰るようになった。



「本当に美味しい!」


 アベルの連れて行ってくれるお店は様々で、大衆食堂から高級レストランまで色々な美味しいお店に連れて行ってくれる。

 しかも、どのお店でも……どんなお店でもスマートにエスコートしてくれるのだ。


「良かった! オススメしがいがあるな……ところで、ミシェルは王妃様達とのお茶会で何を話してるんだ? あっ! 守秘義務があるなら言わないで大丈夫なんだが……」

「ああ、違うわ! 姫様達のお茶会の実戦練習みたいなものよ。後は、私の事に興味があるみたいで……今日は次代様の事を聞かれたかな?」

「次代様って……元婚約者……とかいう?」

「え〜アベルもそう思ってたの? 違う違う! 本当にヘクター様は兄弟みたいなものなのよ」

「そう……なのか?」

「うん。そりゃ、他の貴族令嬢から嫁入りがなければ、私が嫁ぐ事になっていたかも? まぁ嫁になっても良いかな、くらいには家族的な情はあるけど……それだけよ?」

「そうか……そうなのか!」


 なんだかご機嫌なアベルと美味しい料理を食べて帰宅する。そんな日々が一年、二年と続いていった。




 強くて実力もあり見た目も完璧に美しい騎士様であるアベルが、いつも私にだけ優しくしてくれるなんて……



 好きにならない訳ない。



 どんな美人や可愛い人に話しかけられても冷たい対応しかしないと聞いて、最初は誰の事を言っているのか本気でわからなかった。

 そんな対応を遠目で見て、初めてアベルが私にだけ優しいのだと知った。


 けれど、アベルは侯爵家の次男で次期騎士団長候補とまで言われている。


 それに対して私は二つも年下で、しがない男爵令嬢。そんな対象ではないと、わかっている。

 それでも、彼に恋をした自分を悪いとは思えなかった。

 恋はこんなにしあわせな気持ちにしてくれるんだと、初めて知ったから。








 あの日は、まだ入団して三年目だというのに御前試合でアベルが優勝した……その打ち上げだった。

 まだ二十歳なのに、騎士団長を抑え優勝を果たしたアベルは本当にすごい。


 アベル本人は、準決勝で騎士団長と副騎士団長が別の試合で当たっていて、くじ運が良かったんだと謙遜していたが……それでも本当にすごい事だ。


 同期達も飲めや祝えやでどんちゃん騒ぎをしていて、私もアベルの活躍が嬉しくて……アベルが横に来てくれて、色々話して、そして、そして────



 朝を二人で迎えていた。



 私はとりあえず衣服を身に着けて、素早く部屋から出た。

 そこは、まさかのアベルが個人で住んでいる王都のタウンハウスだった。早くしなければ、使用人に見つかってしまう。

 無駄に騎士としての実力を発揮し、節々の痛む身体を無視して、なんとか家に辿りついた。



 早朝の王都は、冷たい空気を残していて……故郷を出たあの朝を思い出した。





 それからアベルを避ける事、三ヶ月。


 月のモノが来ない事に気がついた。


 アベルの所属する第一騎士団が、来月から大型討伐に出ると聞いた。討伐期間は数カ月もかかるかもしれないという。


 だから、その前に彼にも話をしなくちゃと思って街に出たら…………彼が他の女性をエスコートしているのを見たのだ。



 ショックだった。



 飲み慣れないお酒を飲んでいて、あの日の記憶はほとんどなかったけれど……彼に優しくされた記憶が残像の様に残っていたから。


 優しく私の名前を呼んだのは……

 優しく私に触れたのは……

 そして、嬉しそうに私の……私の……



 思い出すだけで、涙が溢れて止まらないけれど……この優しい記憶だけを貰っていこう。



 そう、決意した。



 そこから仕事中に街でのあのシーンを思い出したり、つわりでつらかったりで早退をする事が増えた。


 体重も一気に落ち、顔色も悪い事から皆から心配されて……第一騎士団が遠征に出てすぐ、体調を理由に退団を申し入れた。


 団長をはじめとする騎士の皆から(あとは姫様達から)物凄く引き止めて貰い、席だけ残して置いてもいい、病欠でも良いのではないかと言って貰えたのはとても嬉しかった。

 けれど……戻ったら子供に気付かれてしまう。


 子供を諦めるという選択肢は、絶対にない。そして、子供を手放す選択肢もない。

 子供を産んでしまえば騎士団に隠して育てられるとは思えないし、アベルに気付かれてしまう。



 彼の邪魔だけは絶対にしたくなかった。



 体調不良は少しずつ落ち着いて来ていたが、当時の私を見ただけで体調が悪いのは明白だった。そのために治療のためと無理を言って、退団の許可は無事に下りた。

 それから、急いで寮の部屋を整理して私は誰も知り合いの居ない所に逃げた。






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