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ローゼンカヴァリエの見えない傷と結晶  作者: 木村 巴


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2話




 私は辺境に住む男爵家の次女で、母が辺境伯家で乳母として勤めていた。

 そのため、次期辺境伯様たちと本当の兄弟のように一緒に育てられたのだ。


 血の繋がった実の兄と姉が一人ずついたけれど、二人と私は年齢がだいぶ離れている。そのためこの二人よりも、辺境伯様の長男であるヘクター様と長女のビアンカ様という二人の方が本当の兄弟の様に育った。

 ありがたい事に、臣下の娘であるはずの私まで、一緒に教育を受けさせて頂く事が出来た。



 我が家は領地をもたず、代々辺境伯家に騎士としてだったり文官としてだったりと、様々な形で仕える忠臣の家系だった。

 もちろん、父は辺境伯家の騎士だったし、母は辺境伯家の乳母だ。

 現在も兄は家令として仕え、姉も騎士団に所属する立派な騎士だった。


 辺境の地は完全なる実力主義で、男女関係なく様々な職種につく。



 私は当時からビアンカ様と刺繍をするよりも、ヘクター様と野山を駆け回る事が好きな、そんな質だった。

 だから幼少より自然と騎士団の訓練や討伐に参加していた私は当然、騎士を目指していた。



 そんな中、私がなぜ王都の騎士団にいたかというと…………運が悪いといえばいいのか、相手が悪かったのか……


 面倒事に巻き込まれたから、かな。




 もちろん私は、父や姉の様に辺境の騎士団に入るつもりでいた。

 それでも辺境騎士団に入らなかったのは……いや、入れなかったのは、私の見た目が良すぎたせい、らしい。


 周囲は辺境伯長男様と仲睦まじく、見た目も良い上に騎士としても遜色ない私を次期辺境伯夫人にと望んだ。


 それは私の両親や辺境伯夫婦もだった。



 私と次期辺境伯様たるヘクター様に兄弟以上の気持ちはお互いなかったが、他に好きな人もいなかったし別に夫婦になっても問題はないな。くらいの気持ちではあった。


 恋愛という気持ちはなくとも家族としての情はあったし、人としてヘクター様の事は好きだ。


 いつか家族になるのも悪くない、とは思っていた。家族になって、この人の子供を産んで暮らすのに不満はない程度には親愛の情があった。


 特に辺境は場所柄、王都生まれの高位貴族から好まれない。その為に、いつでも貴族の嫁不足なのも知っていたしね。

 辺境伯家の忠臣として、私も辺境伯家の為に嫁ぐ……私の役目は嫁なのかもな、くらいの気持ちだった。


 私はこれでも一応貴族令嬢なので、本当にギリギリ最低条件はクリアしている。しかも教育を一緒に受けさせて貰っていたので、高位貴族としての教育やマナーまでも済んでいる。

 お互いに相手がいなかった場合は、そんな未来もありえるのかもしれないなぁ……なんてぼんやり考えていた。






 その風向きが変わったのは──ヘクター様が十七歳で私とビアンカ様が十四歳の時だった。


「王命……」

「「……」」


 呆然と呟くヘクター様と、ただ呆然とするばかりの私とビアンカ様。



 隣国との不和はずっと続いていた。けれど、お互いに婚姻を持って協力していこうという話がついたらしいと聞いたのは何時(いつ)ごろだったのか……。


 教育係がもっと小難しい言葉で説明してくれていたけれど、要はそういう事だ。


 そこで年齢の近しい王子様達と隣国の王女様が顔合わせをしたらしいのだが……


 これが、上手くいかなかった。


 我が国の王子様方はそれはそれは見目麗しい、スラリとした美男子揃いだ。

 けれど、隣国では力ある男らしい殿方が魅力的だとかで……どうやら王女様の好みとは、かけ離れているらしい。


 それなら我が国の王子様方ではなく、次期辺境伯のヘクター様ならどうかと話が回ってきたのだ。


 もちろん王命に否はなく、隣国の王女様と先ずはお見合いをするを事となった。


 王女様の希望もあったしね。


 ヘクター様と王女様の顔合わせは、隣国と辺境伯領が距離的にも近いため、あっという間に整った。

 そして見事に王女様は、ヘクター様を一目見てお気に召した。こちらにいる間はずっとベッタリという程にくっついている。……とにかくお見合いは上手くいったのだ。


 ヘクター様は次期辺境伯らしく、王女様に誠実に対応している。

 ビアンカ様は王女様と気が合わないらしく、それでも失礼にならない程度にきちんと距離をとっていた。


 二人とも時折、私を見ては何か言いたげであったが……私はそのうち、皆が王女様に慣れるのではないかと楽観視していた。

 彼女の態度に、色々思う所は確かにあれど……だって、王女様だもの。




 事は、順調に進んだかと思いきや…………王女様が、私が近くにいるのが許せないと言い出した。


 ある日の昼下がり、渡り廊下を歩き騎士団の訓練に向っていると──



「そこのお前、ヘクター様の()婚約者であろう?」


 王女様に呼び止められ、一方的に話しかけられた。


「多少、見目が良いからと……私は愛妾を赦したりは致しません。友好のための婚姻ですよ? お前を近くに置く事は、けっして赦しません」


 私の弁明を一言も聞くこともなく、大きな声でそう言い放って王女様は去って行った。

 残された私は……のどかな辺境の小鳥の声がする空間を見つめながら、ただ呆然と立ち尽くした。



 一次的には結婚も視野に入れていた幼馴染の貴族令嬢で、見た目も良く騎士としても優秀。

 周囲はヘクター様との結婚まで望んでいるといわれたら……たとえそれが事実じゃなくても、確かに嫌だろうな……。

 うん……わかる。



 そう思い私は、王女様が辺境にいらっしゃる時に合わせて──十五歳で王都の騎士団に行く事に決めたのだった。






今日が企画の最終日!出来れば、あるだけあげていきたいです!

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