アベル Side2
目覚めて彼女がいないのにすぐに気がついた。
けれど王家からも、実家からも呼び出しの手紙が届いていて、すぐに彼女を追いかけられなかった。
まさかこの事を一生後悔する事になるとは思いもしなかった。
だって、あんなに大勢の前で公開プロポーズだぞ?
それによる王家と実家からの呼び出しだとわかっていたからこそ、そちらに対応しないといけないと思った。
彼女と会えないのも、あれだけ盛大に公開プロポーズしたせいで恥ずかしいのかと思っていた。
だって、あの夜、あんなに話しあったのだから。
あれから、痺れを切らした母が王都に乗り込んで来て、嫁に会いたい! 会わせろと騒いだ。そろそろ俺も彼女に会いたいし、結婚の話も進めたいので、母とその相談を兼ねて会う事にした。
そんな時に大型討伐が入り一ヶ月はかかりそうだと聞いた。タイミングが悪い。せめて少しでも話したいのに……こんな時ほど忙しく、準備や会議に追われる。
探し回るが会えない。家にも行ったが会えない。不安なまま討伐に向かうこととなってしまった。
ただひたすら魔物を討伐し、帰宅した俺に待っていたのは、彼女が体調を崩して退団したという────まるで悪夢だ。
俺は何も聞いていない。
彼女の実家にも辺境伯家にも連絡もなかった。
俺は彼女からプロポーズの了承を得てすぐに、実家を通して彼女の実家に婚約の申し込みも済ませてあったし、彼女の実家からも本人が望むならと返事を貰っていた。
しかし、彼女の実家からそんな手紙は彼女から届かないし、彼女が消えたとはどういう事だと詰められる。
どういう事なのか俺が一番知りたい。
騎士団で彼女と親しいのは、むしろ俺だけだったし、誰も彼女と連絡を取ったりもしていないらしい。
彼女の女性騎士寮にも、彼女の痕跡など始めから何もなかったかの様だった。
絶望って、こういう事なのか。
仕事の隙間に、仕事の後に彼女を探す。実家の伝手も辺境伯の伝手も、騎士団も王家もあらゆる伝手をお願いしても何も出て来ない。
彼女の騎士としての優秀さが裏目に出ている。
冒険事や傭兵などにも情報を求めたが、まったく何も出て来なかった。
その頃に長距離移動していた者で、それらしいものはいない。
疑わしくはないが、あえて言うならこの家出をして隣国に嫁いだ男爵令嬢か……乳母と若い魔法使いを連れていたという。
男爵令嬢の身元は直ぐに割れた為、男爵令嬢が彼女である可能性は低い。低くても他に何も手がかりがない。件の令嬢に会ってみよう。何か分かるかもしれない。
あの夜からもう半年、彼女が退団してからもう二ヶ月が過ぎようとしていた。
もう、彼女の声も、匂いも、彼女の体温も忘れてしまいそうだ。
彼女は果たして存在していなかったのだろうか。夜には、もうそれすら怪しく感じてしまう。
それでも朝は来て、彼女の存在を確かめずにはいれなくて、新たな情報がないか駆けずり回る。
周囲も俺がずっと彼女を想っていたのも、公開プロポーズも知っていたために、協力的だ。
彼女の実家からも、両親が来て一緒に探してくれていたが一月で帰った。俺に見つかったら、よろしくとまで言ってくれた。
俺の必死さが伝わったらしい。周囲も今までの事を伝えてくれたりもしていたらしい。
でも、だからなんだって言うんだ。
彼女が見つからなければ、何の意味もないっ!
俺はどうしたらよかったのか、何が間違っていたのか悩み……
独り涙を流した。
それから三ヶ月が過ぎ、何故か隣国の商家から手紙が届いた。
確か、件の男爵令嬢の嫁ぎ先だ。当時何も情報はないと言っていたし、こちらで人をやったがやはり彼女の痕跡は無かった。
彼女が退団して、もう半年も過ぎてしまっていた。最近は俺も騎士を辞め、彼女を探した方がいいのか、それとも彼女が戻ると信じてここで待っていた方がいいのかわからない。
公開プロポーズに応えたんだから、いつか帰って来るよと言ってくれる同僚。
病気を治して戻って来るよと言う同僚。
でも、なぜ何も言わなかったんだ? 何かそこに理由があるはずなんだ。
そこに来てのこの手紙だ。微かな希望でも縋りたい。焦って手紙を開くと
──彼女について伝えたい事がある。
そうあった。違うかもしれない。そうかもしれない。人違いかもしれない。そうかもしれない。
ドキドキと飛び出してしまいそうな心臓を抑え
休暇申請を出し手紙の返事と共に
家を飛び出した────




