第九話 その心に秘めるのは
僕の兄弟たちはみんな、とんでもない才能を持っていた。
ギルヴァーンは圧倒的な指導者としての適性があった。
マリアベルは幼い頃から天才と呼ばれるほど、魔力量とその扱いが並外れていた。
そしてアイリーンは剣術の才に恵まれ、大英雄と呼ばれる者にも劣らない剣技を身に着けた。
僕には何の才もない。
それどころか、魔力量が少なすぎるせいで病弱。
挙句の果てに余命2年。
母が「エイル家の恥」というのも納得だ。
『さっさと死んでくれない?』
何度言われただろうか。
マリアベル…マリアにとっては僕が本当に邪魔なんだろう。
輝かしい人生に残る唯一の汚点。
自分に無能な兄がいる…それが許せない。
まあ、マリアらしい考えだ。
だからこれまで会うことを避けてきたのだが。
「はぁ…ギルには後で文句の手紙でも書かないとな。」
ギルがわざわざマリアたちを呼び戻していたせいで、ミアに見苦しい場面を見せてしまった。
ミアにとっては…いや、誰が見ても他人の家の家庭事情を目の当たりにするのは、いい気分ではないだろう。
後で何か埋め合わせをしないと。
「…ルディア、大丈夫?顔色悪いよ?」
「大丈夫だよ。少し疲れただけだから。」
僕とミアは商館を出た後、知り合いが営む宿に入った。
あの後からずっと気まずい雰囲気が続いているが…まあ当然か。
本当に申し訳ないことをした。
「ごめん、ミア。嫌な場面を見せてしまって…」
「…なんで謝るの?」
悲しみに満ちた声だった。
ミアのこんな声は聞いたことがない。
「ルディアは何も悪いことしてないのに…なんで…!」
「ミア、それは違うよ。」
ミアの気持ちはわかる。
でもこれは僕のせいで起こったことだ。
「僕に何か一つでも才能があれば、ここまで険悪な関係にならなかった。」
「そんなこと…」
「僕がこれまで家族から逃げてきたから、今日こうなった。僕が全部悪い。」
そう、僕が悪い。
才能さえあれば、兄弟たちに肩を並べられたかもしれない。
いや、そうなろうとする努力を怠った。
現実から目を背けて、嫌なものを忘れようとした。
才能もない、努力もできない。
こんな無価値な人生を送ってきたせいで、ミアを傷つけた。
マリアの言う通り、もっと早く死んでおくべきだったのだろう。
死んでおけば友人を…いや、誰よりも大切な人を傷つけることにはならなかった。
「でも…ルディアが逃げたから、私はルディアに出会ったんだよ。」
「…ミア?」
「ルディアは私と出会ったことを後悔してる?」
「そんなわけが…」
「ルディアが逃げてくれたから、私の人生に価値が生まれた。これは絶対に間違いないよ。」
そんなことはない。
僕はミアに何もしてあげられていない。
何も与えられない。
何もできないまま先に死んでしまう。
「一回しか言わないからよく聞いてね?」
「え?あ、ああ…わかった。」
「普段はこんなこと絶対言わないんだけど…今日だけは特別。」
ずっと悲痛な表情をしていたミアの顔に穏やかな笑顔が戻った。
一体何を言いたいのか。
「私、ルディアのこと好きだよ。」




