第七話 再会
「おっきいねぇ。こんな商館見たことないよ。」
ミアと目の前にある巨大な商館を見上げる。
何度見ても、圧巻の光景だ。
さすがは世界最大の商会といったところか。
「本当についてくるのかい?別に市場を回っていてもいいんだよ?」
「行くって言ったら行くの。」
「分かった。じゃあ行こう。」
商館の扉を開けると、きらびやかな広間が広がっている。
そして見知った顔の人物が待っていた。
「おかえりなさいませ、ルディアラス様。」
「やあ、バファル。久しぶりだね。」
バファルは父の使用人だった人物で、確か今年で69歳になる。
昔から僕ら兄弟の世話、そして商会の経営の手助けをしてくれている。
「ルディアラス…?」
「ああ、ミアには言ってなかったっけ。僕の本名だよ。」
「ルディアって意外となーんにも教えてくれないよねぇ。」
僕のことを本名で呼ぶ人はほとんどいない。
それならば名乗るときに略称を教えた方がいいと思っただけだ。
「ではルディアラス様、こちらのお部屋へ。」
「ああ、ありがとう。」
「お、おじゃましまーす…」
二人で応接室に入ると、予想通りの人物がすでに椅子に座っていた。
会うのは5年ぶりか。
「久しぶりだなぁ、ルディア。」
「やあ兄さん。お変わりないようで何よりだよ。」
兄、ギルヴァーン・エイル。
現イデア商会会長で、エイル家の最高権力者だ。
僕と違って、稀代の天才と称されている。
その兄はなにやらミアをじっと見ている。
連れてきちゃまずかったか?
「ルディア、結婚してたんなら連絡しろよ。」
「え…えええええええ!わ、私そんなんじゃ…」
「はぁ…冗談言うなよ。分かっててやっているだろう?」
「まぁな。」
兄は昔から人をからかうことが趣味だった。
たとえ相手が初対面の人間でも、彼にとってはお構いなしらしい。
「み、ミア・ファジェナです。クーゲル王国のカザンという街で地方文官を務めております。」
「ご丁寧にどうも。聞いてると思うが、俺はギルヴァーン・エイル。よろしくな、嬢ちゃん。」
どうやらミアの紹介はなんとかなったらしい。
なら本題に入ろう。
「それで、なんで僕を呼び戻したんだい?」
「準備が整ったからだ。お前をようやく商会の役職に戻してやれる。」
「…母は反対しなかったのかい?」
「押し通した。お前を今のように扱い続けさせはしない。」
随分と兄はわがままを押し通したらしい。
イデア商会の経営陣に僕を加える…どれだけの反対があったか想像するのは、そう難しいことじゃない。
それほどに僕は役員たちにとって…いや、母にとっては邪魔な存在だ。
「お前だけが今のような暮らしを強いられているのを、俺は許容できない。だから戻ってこい、ルディア。」
「…ギル。ありがたい話だけど、僕は戻らない。」
「母や妹たちのことを気にする必要はないんだぞ。俺が何とかしてやるから。」
なるほど。
兄は聞いていないのか。
まあ母のことだから、当然といえば当然か。
「ギル、僕はもうすぐ死ぬ。」
「…なんだって?」
「あと2年もない。母には手紙を送ってある。」
ギルヴァーンの顔から表情が消える。
この人もこんな顔をすることがあるのか。
「もう帰ってくる気はないのか?」
「ああ。今から役員に戻っても、面倒ごとが多くなるだけだろう?」
「そうか。寂しくなるな。」
せっかくの好意を無駄にしてしまった。
でもこれは元々決めていたことだ。
僕は今の日常を続けられるのなら、それでいい。
「はぁ、にしてもあのルディアが女を連れて帰ってくるなんてなぁ。」
「悪いけど、ミアはただの友人だよ。」
「嬢ちゃんはそれでいいのか?」
「い、言いも何もありませんよぉ~…。お友達はお友達ですから。」
「ちぇ。さっさと嫁作れよなぁ、ルディア。」
兄のこういう面には困ったものだ。
自分だって結婚していないくせに。
まあそれも彼らしいといえばそうなのだけど。
「まあ座れよ。久しぶりに会ったんだ、話だけでも…」
「あら、本当に帰ってきてるのね!」
背後から大きな声がした。
まさか帰ってきていたとは。
「だ、だめだよマリア…お話が終わるまでは待ってないと…」
「そんなの待ってたら日が暮れるわ!アイリはいつものんびりしすぎなの!」
応接室の入り口に2人の少女が立っていた。
そっくりな見た目で、一瞬では違いが分からないほどだ。
「…久しぶり、マリアベル。それにアイリーンも。」
「おいお前ら、待ってろって言っただろ!」
兄が二人の元に駆け寄っていく。
なるほど。
こいつめ、図ったな。
「ねえ、ルディア。この人たちは?」
「紹介するよ。二人が道中話した、僕の妹たちだ。」




