第六話 馬車に揺られて
ラント共和国は、今僕が暮らしているクーゲル王国の隣にある大きな国だ。
そして王国と共和国の全土に支店を持っているのがイベル商会…僕の一族が経営している世界最大規模の商会だ。
父が死んでからは兄が会長になっている。
「なんで教えてくれなかったの?私なんかよりもずっといい生まれじゃん。」
と、隣でミアがずっとぶつぶつ言っている。
数日前に共和国に向かうための馬車に乗ってから、ずっとこんな感じだ。
「別に隠してたわけじゃないんだけどね。僕が経営に関わってたのはもう6年も前だし、一族の人間は僕のことが嫌いな人が多いから。」
「でも商会の名前を使ったらもっと儲かってたじゃん!」
「儲けたくてあの店を始めたわけじゃないからね。どうせ儲けても寿命がないし。」
「まーたそんな卑屈になってぇ!ルディアの根暗野郎!」
プイっとそっぽを向いたミアを見る。
正装のミアを見るのは初めてだが、なんというか違和感がすごい。
まるでどこかのお嬢様だ。
いつもはお嬢様というより、犬のようなんだけど。
「今失礼なこと考えてたでしょ。」
「ははっ、よくわかったね。」
腹に強烈な突きが飛んできた。
痛い。
「もっと乙女心を学んだ方がいいんじゃない?私が乙女じゃないとか言ったらもっかい殴るからね。」
「いたた…でも僕から可愛いなんて言われてもうれしくないだろう?」
「ルディア、何か勘違いしてない?私は可愛いの。」
あ、はい。
そうですか。
自分に自信があるのはいいことだ。
実際顔はかなり美人なんだろうと思うし。
素行を考慮しなければ、素敵な女性だ。
素行を考慮しなければ。
「そんなんでよくこれまで生きてこれたよねぇ。お付き合いとかしたことないの?」
「知っての通り、僕は昔から病弱でね。遊べないから友達すらいなかったよ。」
「え、なんかごめん…」
「嘘だよ。」
拳が再び飛んでくる。
痛い。
それになぜか、ミアの目が怖い。
「どんな人と、お付き合い、したの。」
「み、ミア…?」
「さっさと、答えて。」
何やら刺激してはならないものを突いてしまったらしい。
さっさと答えないと、次の拳が飛んできそうだ。
「嘘っていうのは友達がいないってことだけで…。誰とも関係を持ったことはないよ。」
「本当に?」
「本当に。」
「…だよねぇ。ルディアに限ってそんなわけないよね。」
ミアの顔に笑顔が戻る。
いったい、なんだったのやら…。
まあ機嫌が戻ったようでなによりだ。
「そういえばさ、ルディアの家族構成ってどうなってるの?」
「それはまた急だね…。父は6年前に死んで、今は母、兄、双子の妹たちかな。」
「四人兄弟…いいなぁ。私一人っ子だから。」
「兄はともかく、妹たちは僕のことを嫌っていると思うよ。特にマリアは。」
双子のうち、姉のマリア…マリアベルは僕を毛嫌いしている。
会うたびに罵詈雑言。
妹の方はまだマシな方だが。
「なんで嫌われてるの?ルディアが怒らせたとか?」
「いいや、マリアは母に似ているからね。性格的に気に入らないんだろう。」
「ふーん…。」
納得してなさそうだ。
まあ僕だってなんで嫌われているかわからない。
まあ理由なんてどうでもいいけれど。
「大丈夫、きっとあの子たちは会いに来ないから。」
「うーん…ルディアがそう言うならいっか。」
「何も心配することなんてない。兄に会ったらすぐに帰るつもりだから。」
「せっかくなんだから観光しようよ!」
「観光って言ったって…僕にとっては地元だ。珍しいものなんてない。」
「私は初めて行くんだし。案内よろしくね!」
どうやら拒否権はないらしい。
まあそれぐらいなら付き合おう。
ミアがついてきたおかげで、馬車の旅で退屈することがなかったんだ。
その恩返しだと思おう。
「あ、見えてきたんじゃない?」
「ああ。ようこそ、僕の故郷へ。」
もう帰ってくることなんてないと思っていた。
でもまあここに来るのは、今回で本当に最後だろう。
次来る時には、僕は遺灰になっているはずだ。




