第五話 連れて行って
アイラが来てから数日経った。
完全に雨季になり、毎日のように雨が降り続いている。
この時期は収入がかなり減る。
まあ仕事量も減るから、のんびりできる時間は増えている。
「おじゃま〜!」
前言撤回。
のんびりなんて出来ない。
この客は雨が降ろうが、風が吹こうがやって来る。
彼女にとっては天気なんてなんの障害にもならない。
「すごい雨だねぇ。もう嫌になっちゃうよ。」
「一応聞いておくけど、仕事は?」
「えへ⭐︎」
この前の説教は無駄だったらしい。
ミアの同僚がなんともかわいそうだ。
「毎日来て飽きないのかい?こんな小さい店なんか、別に面白味もないのに。」
「分かってないなぁ。ルディアを困らせるのが私の生きがいなんだよぅ!」
「そんなくだらないことを生きがいにしないでもらいたいね。」
にまーっと笑っているミアを無視して、立ち上がる。
まあお茶ぐらいは出してあげよう。
「そういえば、明日からしばらく店を閉めるんだ。だから来ても入れないよ。」
「ふぇ…?」
お湯を準備しながらふと振り向くと、捨てられた猫の様な顔をしたミアが目に入った。
いや、泣きかけている…?
「なんで…?辞めちゃうの…?」
「い、いや…単に帰省するだけだよ。兄から呼び出されてね。」
「帰省…」
ミアの顔が強張った。
今日は随分感情の上下が激しい。
まあおそらくこの前の手紙の件を気にしているんだろう。
「大丈夫だよ。心配しなくても、母には会わない。」
「ほんとに…?」
「ああ。どちらかといえば会ってもらえないっていう方が正しいけどね。」
「それならいいんだけど…」
まだ納得していない様子だ。
そこまで心配しなくても、兄とは険悪な関係ではない。
むしろ仲は良いと思う。
「ねぇ、付いて行っちゃダメ…かな?」
「え?付いてくるって言ったって、仕事は?」
「休暇貰うから大丈夫。」
年がら年中休暇みたいな生活してると思うのだが、休暇なんてもらえるのだろうか。
いやそもそも、ついてこられても兄になんて紹介すればいいのだろう。
すごくめんどくさいことになる気がするが…。
「お願い、連れて行って。」
ここまで真剣な表情のミアを見るのは初めてだ。
おそらく何を言っても諦めるつもりはないんだろう。
「…わかった。いいよ、一緒に行こう。」
「ホント?やったぁ!」
「はぁ…兄さんになんて言えば…」
飛びはねて喜んでいるミアをよそ眼に、ため息をつく。
でも旅の間は退屈することはなさそうだ。
きっと騒がしくて楽しい旅になるはずだ。
「ちなみにどこまで行くの?」
「ラント共和国のライデアだよ。」
「イデア商会の本拠がある街じゃん。商会の市場に寄ってもいい?」
「寄るも何も、市場に用があるんだよ。」
「お兄さん、市場で働いてるの?」
「いや、市場を運営してる。」
「…は?」
まあその反応は予想していた。
市場を運営している…すなわちイベル商会の会長だ。
そしてイベル商会の会長は昔から一族で世襲してきた。
「もしかして…ルディアってお坊ちゃま?」
「間違いないけど、その言い方はやめてほしいかな。」
「お金持ちじゃん…」
何やらミアにドン引きされている気がするが、そんなことは置いておこう。
とりあえずミアをどう紹介するか考えないと。




