第三話 時間は待ってくれない
僕の道具屋はこぢんまりとしているものの、案外客は多い。
というのもこの街、ガザンにはかなり大きな冒険者ギルドがあって、そこの冒険者がクエスト前に色々と買って行くのだ。
「兄ちゃん、これ一つ頼むわ!」
「はいはい。毎度あり。」
「こっちもお願いしまーす。」
「はい、ただいま。」
品出し、会計、修理、その他諸々。
だから割と日中は絶えず忙しい。
特にロープや外套とかは割と売れてくれるから、仕入れもちゃんとしないといけない。
道具屋は見かけによらず大変なのだ。
だからこの時間帯に来られると困るんだけども…。
「おじゃま〜!」
ほら来た。
彼女にとってぼくが忙しいからどうかなんて、考慮するに値しないらしい。
「いらっしゃい、ミア。悪いけど今君に構ってる暇はないんだ。」
「え〜、少しぐらい相手してくれてもいいんじゃない?」
「君が手伝ってくれてもいいんだよ?」
「暇になるまで待っとくね!」
このサボり魔め。
朝来て一回帰ったかと思えば、またこれだ。
いい加減仕事してほしい。
そんなことを考えていると、扉が開いて次の客がやってきた。
「こんにちは、店主さん。」
「これは珍しい客だね。久しぶり、アイラさん。」
青い髪が特徴の女性…この国に住む人なら誰でも知っている。
アイラ・フォード、『戦姫』と呼ばれている最強の傭兵だ。
うちの店には滅多に来ない。
まあ最近は英雄とまで言われているそうだから、こんな辺鄙な店まで来る方がおかしいのだろう。
「…ん?ミア、またサボり?」
「隠れてたのに…」
「私に見つかりたくないのなら、まずは気配の消し方を覚えるべきだね。」
ミアは年がら年中、なんなら毎日店に来るから、他の客とも顔馴染みになっている。
だがアイラのことは割と苦手なようで、毎回隠れようとしている。
毎回一瞬で見つけられているが。
「それで、今日はなにをお求めかな?」
「外套がダメになっちゃってね。新しいのを見せてほしいんだ。」
確かに今着けている外套はボロボロで、いくつか穴も空いている。
これは買い替え時だな。
「わかった。気に入りそうなのを持ってくるから、座って待っててくれ。」
「ありがと、店主さん。」
アイラに椅子を差し出してから、質の良い外套を選び出す。
どんなのが良いのだろうか…。
「それで、ミア?」
「…ハ、ハイナンデショー?」
「私の言いたいこと、分かるよね?」
「ぜーんぜん?」
始まった。
大体半年に一度起こる、説教のお時間だ。
これに口出しするとめんどくさいので、僕は外套選びを続ける。
「文官なんだから、こんなところで油売るのはダメでしょ?」
「し、仕事はちゃんとしてるよ…最低限は。」
「それは大人として当たり前のこと。ミア何歳?」
「に、にじゅういっさい…」
「もう子供じゃないんだから。いい加減仕事しなさい。」
「ふぁい…」
珍しくミアが萎れている。
まあ僕の言うことは全く聞かないから、こういう時に厳しくされる方がいいだろう。
「私一人サボった所で、特になにも変わらないのに…」
「そういう問題じゃない。」
「痛っ!」
アイラの手刀がミアの顔に直撃。
あれは痛いだろうな。
想像もしたくない。
「これに懲りたらしっかり働くこと。わかった?」
「はーい…。」
説教終了らしい。
まあこっちもちょうどいい外套を見繕ったところだから、いいタイミングだ。
黒い生地の外套を手にカウンターの方へ行き、アイラにその外套を手渡す。
「これとかどうだい?黒だから、夜に目立たない。」
「いいね、気に入った。さすがは店長さん。」
「お気に召したなら何よりだよ。」
アイラから代金を受け取ろうてした瞬間、彼女がずいっと顔を寄せてきた。
近すぎると思うのだが…。
「あ、アイラさん?僕の顔に何かついてた?」
「…。悪いけど、私気を遣うの苦手だからはっきり言うね。店長さん、もう消えかけてるよ。」
「な、なに言ってるの!?ルディアの何が消えてるっていうわけ?」
消えかけてる、か。
さすがと言うべきだろうか。
どうやって判断したのかは知らないが、どうやら僕の寿命がないことに気づいたらしい。
「もともと少ない魔力がほとんど残ってない。これじゃ持ってもあと…」
「2年だよ。僕はあと2年で死ぬ。」
「…自分で気づいてたんだね。」
「医者に言われたんだ。治す方法もない。」
「店長さんはそれでいいの?」
予想外の質問だ。
思考が一瞬止まる。
いいも何も、これは元々決まっていた僕の運命だ。
今更死にたくない、なんて考えるわけがない。
どうせ人はいつか死ぬんだから。
「ああ、2年もあれば十分だよ。」
「…そう。」
アイラが顔を離す。
何やら納得していない様子だ。
が、くるっと回ってミアに向き合った。
「ミア、時間は待ってくれないよ。」
「…へ?」
「それじゃ、またね店長さん。」
そう言ってアイラは店を出ていった。
何やら怒らせてしまったのだろうか。
ミアと顔を見合わせて首をかしげる。
「僕なにかまずいこと言ったかな。」
「さぁ?でも…時間は待ってくれない、か。」
時間は待ってくれない。
確かに時間は止まってほしくても、自然に流れていく。
それでも僕は今の日常を崩すつもりはない。
もうほとんど時間が残っていないとしても。




