表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

第十九話 傷つけるのはいつだって

「おい兄ちゃん、大変だ!」


店をそろそろ閉めようとしていた時、常連の冒険者が一人大慌てで店に入ってきた。

その表情から察するに、かなりまずい状況らしい。


「なにがあったんだい?」

「と、とにかく役所まで来てくれ!早くいかねぇと!」


役所、と聞いて嫌な予感がした。

普段この街の役所には王国兵が常駐している。

だからそんな場所で問題が起こるはずもない。

だが僕をわざわざ呼びに来たということは…。


「分かった、すぐに行く。」

「急いでくれ!俺は先に戻るからよぉ!」


冒険者が走り去っていったすぐ後に、店の戸締りをして走り出す。

走るのはあまり得意ではない。

でも今は全力で走らなければならない…そんな気がした。

しばらく走っていると、役所が見えてきた。

しかし役所は悲惨な有様だった。


「何があったんだ…!?」


地面のいたる所が抉れている。

周囲の建物の多くが損壊して、煙が出ている。

あちこちに怪我をした人がいる。

そして役所の前には、にらみ合った瓜二つの女。

それを見てすべてを理解した。


「…何をしてるんだ。」

「に、兄様…!」

「兄さん、私…」


二人は僕が近づくと、目を逸らした。

この騒動の原因が二人であることは一目瞭然だ。

でなければここまで酷くはならない。


「ま、マリアが言うこときかないから…!」

「は、はぁ!?仕掛けてきたのはそっちでしょ!」

「ちゃんときいてくれたらこんなことにはなってない!」

「何をふざけたことを…」


二人が身構える。

このままではまた衝突が起こってしまう。


「いい加減にしろ。」

「兄様は関係ないでしょ!」

「マリアベル、いい加減にしろといったのが聞こえないのか?」


自分でも驚くほど冷たい声が出た。

それにマリアとアイリも驚いたらしく、二人とも一歩下がった。


「二人は一体何を…」

「兄ちゃん、こっち来てくれ!」


問い詰めようとした途端、さっきの冒険者が僕を呼んだ。

ぱっと見ただけで、地面が赤く染まっていることに気づいた。

そして走っていくと、僕にとって最悪の光景が広がっていた。


「…冗談にしては嗤えないな。」


そこにはぐったりとしたミア、そして彼女を抱きかかえている血だらけのアイラがいた。

見るからに、ミアの意識はない。


「ごめん、店主さん。防ぎ切れなかった。」

「なんでこんなことに…」

「私が来た時にはあそこの二人が大暴れで…。魔法が飛んでいった先にミアがいた。」


それをアイラが庇ってくれたらしい。

でもその魔法はマリア…稀代の天才が放ったものだ。

いかに戦姫といえど、防ぎきれなかったらしい。


「あの二人を収めてくれたのも君かい?」

「おかげでこの有様だけどね。久しぶりに命の危機を感じたかな。」

「あとでしっかりお礼と賠償はする。」

「そんなことより今はミアだよ。このまま放置すれば死ぬ。」


一見ミアの体には致命傷はない。

でも明らかに出血しすぎている。

ミアは体が小さいから、この出血量でも十分致命的だ。


「このあたりに腕のいい回復術師はいないの?」

「すぐに連れてくる。」


迷っている暇はない。

僕は急いで立ち上がり、マリアのいる場所へ走った。


「マリア、ミアを治せ。」

「は、はぁ?私に向かって命令しな…」

「何度も言わせるな、治せ。」


この場で回復魔法が使えるのはおそらくマリアだけだ。

街はずれには老人の回復術師がいるが、彼の到着までミアが持ちこたえる保証はない。

今この場で応急処置だけでもする必要がある。


「聞こえなかったのか?治せ。」

「わ、分かったわよ…。」


マリアがミアの方に走っていく。

そして僕はこの場に残されたアイリを睨みつけた。


「お前、あの契約を知らないわけじゃないだろうな。」

「に、兄さん…私…その…」

()が何のためにあの契約を取り付けたと思ってる?」


アイリが目を逸らした。

いつものことだが、今はそれがどうしようもなく腹立たしい。


「契約違反だ。()はお前らを許さない。」

「ご、ごめんなさい…」


アイリが膝から崩れ落ちた。

その目からは涙がこぼれている。

だが泣きたいのはこっちだ。

僕の大切なものは、どれだけ防ごうとしても傷つけられる。

そしてそれはいつだって、僕の家族によって傷つけられてきた。

なんともまあ、舐めた真似をしやがって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ