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第十七話 ニガテナアノコ

今すぐ帰りたい。

この数日仕事がすっごい忙しい。

なんせ収穫祭が来週に迫っている。

場所の使用許可だとか、人員の確保だとか、色々と処理しないといけない案件がいっぱい。

今日も今日とて書類の山とにらめっこ。

もう嫌になっちゃう。

だから逃げたのに…アイラ許すまじ。

ちなみにアイラは容赦なく私を仕事場まで投げ入れてどっか行っちゃった。

今度会ったらただじゃおかないから。



「ファジェナさん、次はイベル商会との打ち合わせです。応接間までいらしてください。」

「だからファジェナじゃないって言ってるじゃないですかぁ。ミア・エイルですぅ~!」


同僚にそう言いつつ、全力ダッシュ。

商会のお偉いさんを待たせるわけにもいかない。

だって怒られたくないもん。

なんとか時間通りに着いて、応接間に入る。

本音を言えばここに入りたくなかったんだけどな。


「お待たせいたしました。本日担当いたします、ミア・エイルと申します。」

「…あら、あなたが担当者だったのね。」


ほら、言わんこっちゃない。

聞き覚えのある声だ。

ていうか見覚えがある。

いや忘れられるわけがない。

一番会いたくなかった人が来てしまったみたい。


「知ってると思うけど、一応名乗っておくわ。マリアベル・エイル、商会を代表させてもらうわ。」

「お、お久しぶりです…。」

「何その顔、私に何か文句でもあるわけ?」

「そ、そんなことありませんけど…。」


いや文句しかないけどね。

旦那を侮辱されたのに、何も思うところがないわけないじゃん。

いや当時は旦那じゃなかったんだけどさ。


「兄様のことを引きずってるんでしょうけど、今はどうでもいいわ。さっさと仕事の話をしてちょうだい。」

「あ、はい。それじゃあ収支についてですが…」


話を進めながら思う。

この子可愛げない。

見た目はアイリちゃんにそっくりなのに、雰囲気が全然違う。

なんというか、刺々しい。

凄くにらまれてる。

双子なのに、すごい違いだなぁ。


「…という感じでいかがでしょうか?」

「ええ、それでいいわ。あとは場所の手配だけしておいて。」

「招致いたしました。では本日は以上となりますので、私は失礼いたしま…」

「ちょっと待ちなさいよ。」


仕事の話が終わったから逃げようとしたのに。

今から私の非難大会とかじゃないよね?


「な、なにかありました…?」

「商会の代表としての話は終わり。ここからは個人的な話よ。」


すっごい睨んできてる、怖い。

結婚したのが気に入らないのかな…。

それとも挨拶に行かなかったから?


「あなた、兄様の遺産目当てで結婚したんじゃないでしょうね?」

「…は?」


私の中の何かがプチンと切れた。

遺産目当てで結婚した?

それは私に対する最大の侮辱だ。


「いますぐ撤回して。私は遺産なんてどうでもいい。」

「口では何とでも言えるわ。エイル家の人間の結婚がどれほどの意味を持ってるかわかる?」

「そんなの関係な…」

「関係あるわ。エイル家に嫁ぐこと、それすなわちイベル商会への参入…いえ、商売の世界で一番の地位を手に入れることを意味するの。」


マリアベルが立ち上がって私に詰め寄ってくる。

それだけじゃない。

魔術に疎い私でもわかるくらい、魔力が収束してる。

でもここで退いたら負けだ。

私の思いを否定されるわけにはいかない。

いや、されたくない。


「エイル家とか、商売とか、そんなのどうだっていい。私はルディアが好きだから一緒にいるの。」

「だから口では何とでも…」

「私のこと、何も知らないくせによく言えるね。商会の程度が知れるよ。」

「へぇ、言ってくれるじゃない。」

「あ、当たり前でしょ!言っとくけど、ルディアを侮辱したこと、ずっと怒ってるから。」

「…そう。」


すっごい睨んでる。

言い過ぎたかもしれない。

このまま魔法で吹っ飛ばされるのかもしれない。

遺言残してくるべきだったなぁ。

でもそんな私の予想とは裏腹に、マリアベルの魔力がどんどん小さくなっていく。

てことは許された?


「まあいいわ。あなたが本気で言ってるのは分かった。」

「ふん!あなたに分かってもらう必要なんてないもん!」

「なんとでも言うといいわ。でも…兄様を蔑ろにすることがあれば殺しに行くから。」

「はぁ〜?どの口が言ってるの?蔑ろにしてるのはあなたの方でしょ!」

「…。」


あ、魔力が跳ね上がった。

余計なこと言わなければよかった。

なんかマリアベルの肩が震えてる気がする。

本当に勘弁してほしい。


「…まあ、今日は、見逃して、あげる。感謝、しなさい。」

「あ、はい…どうもです…。」


すっごい顔。

女の子のこんなに怖い顔は見たことがない。

なんかもう悪魔みたい。

もう疲れたからさっさと退散しよう。


「そ、それじゃお疲れ様でしたぁ〜…」

「ええ。また今度、お義姉様。」


何やらお義姉様にすんごい恨みが籠ってる気がするけど、知らないふりをしよう。

ルディア直伝、都合の悪い事は知らないフリ。

素晴らしい技だと思う。

さて、次にするべき事は…今この場から逃げる事。

私はマリアベルに背を向けて、全力疾走した。

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