第十六話 遊びに来ました
「アイリちゃんすごかったなぁ…。」
「はぁ…それは分かったからいい加減離れてくれないか?」
アイリは来た時と同様、風のように去っていった。
何やら用事があるらしい。
また会うとは思っていなかったが、この調子だとこの先も遭遇することがあるかも知れない。
ところでミアはと言うと、僕の腰のあたりに抱きついて仕事に戻るのを拒否している。
いい年した大人が何をしているのやら。
「アイリも帰ったんだから、さっさと仕事に戻ってくれないかな。僕もいい加減店を開けないと。」
「いやだぁ〜。今日はルディアから離れませ〜ん。」
「本当に今日の夕飯は抜き…」
そう言いかけた瞬間、扉が開いた。
まだ開店してないんだけどな。
いや、出来てないの間違いか。
「あれ…まだ開いてなかった?」
「いやいや、もう開けますよ…ってアイラさん?」
「二ヶ月ぶりぐらいだね、店長さん。それで…これはどう言う状況?」
いきなり腰にしがみついていたミアの手がするりと落ちた。
振り返ってみてみると、ミアが店の奥へ逃げようとしている。
本当に何をやってるんだ。
「…ふーん、また仕事サボって店長さんに迷惑かけてるんだ。」
「うぐっ…か、家族だから迷惑ぐらいかけてもいいでしょ!」
「意味わかんないこと言わないでよ。それに家族って…」
アイラの視線がミアの左手に落ちる。
ミアもそれに気づいたらしく、自信満々に左手を掲げた。
「ふふーん!これなーんだ?」
「よくミアみたいなダメ人間が結婚できたね。」
「ちょいちょい、さすがに酷くありません?私をなんだと思ってるの?」
「サボり魔、怠惰の神、不器用の極み。」
「ルディア〜、アイラがいじめてくる〜!」
「自業自得だね。」
確か隣国には働かざるもの食うべからず、と言う言葉があるらしい。
ミアに100回ほど聞かせた方が良さそうだ。
「まあ…いつまでも意味わかんない惚気見せられてるよりマシかな。もっと早く結婚すればよかったのに。」
「今日のアイラ、なんか怒ってない?」
「怒ってない。うるさい、仕事行け。」
どうやら機嫌はあまりよろしくないようだ。
さあどうしたものか…。
とりあえず要件は聞いておこう。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「別に用はないよ。仕事が今日は入ってないから遊びに来ただけ。」
「じゃあ私と遊ぶ?」
「仕事に行け。」
「アイラちゃんそんなこと言わないでよぉ。」
「次その呼び方したら殺すから。」
ミアが僕の後ろに隠れた。
いや、今のは自分が悪いだろう。
あと僕を盾にするのはやめてほしい。
「まあともかく…おめでとう、店長さん。前よりずっといい表情してるね。」
「ありがとう。毎日忙しくて落ち込む暇もなくてね。」
「心中お察しするよ。それで…こんな時ってお酒送るんだっけ?」
僕とミアが今暮らしているクーゲル王国には、新婚夫婦にお酒を送るという文化がある。
なんでも、建国した初代国王が酒豪だったそうだ。
「送ってあげたいのは山々なんだけど、私お酒買えないんだよね。」
「え?アイラって何歳?」
「19だけど。」
「年…下…?しかも…未成年…!?」
王国では20歳以上を成人としていて、未成年は飲酒を禁じられている。
もちろん買うのも禁止だ。
まさかアイラが未成年だとは思わなかったが。
「気にしないでいいよ。気持ちだけ受け取っておく。」
「ごめんね、あと一年遅ければ買ってあげれたのに。」
「年下…私より二つも…?なのに何あの胸…おかしくない…?私なんてぺったんこ…」
ミアが何やら意味のわからないことを呟いているが、まあ無視してもいいだろう。
毎回気にしていると、日が暮れてしまう。
「じゃあ私はそろそろ行こうかな。」
「もう行くのかい?せっかく来てくれたのに。」
「うん。このサボり魔を仕事場に押し込んでこようと思って。」
「え…?」
ミア、くるっと回って全力疾走。
しかし逃げられるはずもなく、あっという間にアイラが首根っこを掴んだ。
「助かるよ。今度何かお礼でもさせてほしい。」
「気にしないで。それじゃ、またね。」
「ちょちょちょちょ!可愛い妻が攫われてますよー!おーい、ルディアくーん!」
必死の抵抗虚しく、ミアは引きずられていく。
これでやっと店を開けることができる。
朝から二人も来客があって、どっと疲れた。
が、今日は始まったばかりだ。
ここから頑張るとしよう。




