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第十五話 会いに来ました

あれから一ヶ月経った。

が、結婚したからと言って僕の生活はそこまで変わらなかった。

いつも通り店を開けて、冒険者相手に商売をする。

仕入れ、修繕、その他諸々。

忙しいけれど、充実した日々だ。

変わったことといえば…。


「ルディア〜、どうしても行かないとダメ?」

「行かないのなら、今日の夕飯は抜きだ。」

「ちぇ、ルディアのけち!」


毎朝このサボり魔を起こさないといけなくなった。

ミアは寝相が悪く、寝起きも悪く、往生際も悪い。

毎朝仕事を休む口実を考えているらしい。

お腹が痛いだとか、頭が痛いだとか、毎日言い訳の嵐だ。

ちなみに、その言い訳は今日で19種類になった。


「ほら、もう出ないと遅刻するんだろう?」

「いぎだぐない。」

「変な声出せるくらい元気なら大丈夫だよ。ほら、頑張って。」

「私もっといちゃいちゃする新婚生活想像してたんだけどぉ?」

「文句なら帰ってから聞くよ。行ってらっしゃい。」


今日もなんとかミアを送り出せた。

これがなかなか大変な作業だ。

ここまで駄々こねられると、もはや赤子のように見えてくる。

本当に彼女は21歳なのだろうか。


「はぁ…やっと行った。さてと、店をそろそろ開けないと。」

「あ、あの…」


店の中に戻ろうとした瞬間、後ろから声をかけられた。

誰かと思いつつ振り向くと、見知った顔の人間が立っていた。


「…アイリ?」

「お久し…ぶり…です…。」


アイリとは一ヶ月前、商館で会ったきりだ。

あの時は一言も言葉を交わさなかったような気がする。


「こんな所まで一人でどうしたんだい?兄さんからの伝言か?」

「い、いえ…その…少し用事で近くまで来ていたので…」

「そうか、よく来たね。上がっていくかい?」

「は、はい。ではお言葉に甘えて…」


アイリを店の中に招き入れる。

今考えると、アイリと二人きりで話したことはほとんどない。

何を話せばいいのか。

そもそも僕はアイリに嫌われていると思うのだが。


「あ、あの…兄さん、ご結婚…おめでとうござい…ます…。」

「え、ああ…ありがとう。まさかアイリに祝ってもらえるとは思わなかったよ。」

「す、すいません…私なんかに祝われても嬉しくないですよね…」

「そんなことないよ。祝ってくれてありがとう。」


昔からアイリは引っ込み思案だ。

双子のマリアとは正反対の性格…いや、性格以外も綺麗に正反対かもしれない。

得意なこと、苦手なこと、好きなこと…その全てで二人は対照的になっている。

似ている箇所といえば、見た目だろうか。


「式はしないんですか…?」

「ああ。変に目立つことをすれば兄さんに迷惑がかかるからね。」

「そう…ですか…」


会話が続かない。

かなり気まずい状況だ。

どうすればいいか…。

と思っていると、勢いよくとびらが開いた。


「あーっ!アイリちゃんだぁ!」

「…ミア、なんで帰ってきたんだい?仕事は?」

「えへ⭐︎」


これは本格的に夕飯を抜くべきかもしれない。

少しは反省してもらわないと。

でも…今に関しては少し助かった。

このままアイラと二人で過ごすのは少し難易度が高い。


「あ…ミアさん…お久しぶり…です…」

「ん〜?そうじゃないでしょ?」

「え…?」

「なんで呼ぶんだっけ?」

「お、おねえ…ちゃん…」

「良くできました!」


なんだこの誘導尋問は。

それに二人はいつの間に知り合っていたんだ。


「ミア、うちの妹をいじめるのは勘弁してもらえるかい?」

「だって私お姉ちゃんだもーん。事実は変えられないのだ!」

「はぁ…とりあえず君の趣向がどんなものか理解が深まったよ。」

「やっぱりアイリちゃんかわい〜!ほらルディア、お茶でも出してよね!」


なんともまあ旦那使いが荒い。

まあわざわざ来てくれたのにもてなさない、というのも失礼な話だ。

とにかくお茶とお菓子くらいは出してあげよう。


「それで、アイリちゃんはなんでここに?」

「よ、用事で近くまできたので…」

「そっかそっかぁ~。よく来たねぇ~。」

「え、えへへ…」


仲が良さそうで何よりだ。

だからこの際、アイリが犬みたいに撫でられていることは見ないことにしよう。

それにアイリがここまで誰かに懐いているのは初めてだ。

ミアとアイリは相性がいいのかもしれない。


「いやぁ、それにしても可愛いなぁ…守ってあげたくなる…」

「言っておくけど、アイリは共和国で一、二を争うくらい強いよ。」

「はひ…?」

「アイリと真っ向からやり合えるのなんて、パンドラぐらいだろうね。」

「パンドラって…あの?」

「ああ。共和国最強の冒険者のことだよ。」


ミアの顔によくわからない表情が浮かんでいる。

多分信じていないんだろう。

アイラは一見強そうに見えないし、性格も弱気だ。

だから信じられないのも無理はない。


「あ、あの…少し見せましょうか…?」

「そうしてくれると助かるかな。」

「じ、じゃあちょっとだけ…。」


アイリがすっと立ち上がるのと同時に、ミアも立ち上がって僕の方に寄ってきた。

さて、この後の反応が楽しみだ。


「一体何をする気なの?」

「まあ見てれば分かるよ。」

「そ、それじゃ…私をしっかり見ておいてください…。」


そう言われて、ミアはじーっとアイリを見つめる。

しかし次の瞬間、アイリの姿は一瞬にして消えてしまった。


「うあああああああああああ!!!アイリちゃんが消えちゃったぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、あの…私はここです…。」

「うわあああああああああああ!!!いつの間に後ろにぃぃぃぃぃ!!!」


全く、予想以上に面白い反応が見られた。

完全に腰を抜かして尻もちをついているミアを見られたのは、なかなかいい収穫だ。


「これでわかったろう?アイリより強い人間はほとんどいない。」

「もう私アイリちゃんに嫁入りしようかな…。守ってほしい…。」

「う、浮気はだめです…。」

「二人とも変なこと言ってないで、そろそろ椅子に座ったらどうだい?」


いい加減この混沌とした状況をなんとかしないと。

せっかく沸かしたお湯が冷めてしまう前に、さっさとお茶を淹れてしまおう。

さもなければ、ミアがこれ以上に意味の分からないことを言い出すだろう。

これ以上混沌と化すのは勘弁してほしい。

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