第十四話 君と
あれから二日経った。
できる限り力を尽くしたつもりだ。
ミアは気に入ってくれるだろうか。
これまでこんなことをした経験がないから、不安と緊張が僕の中で膨れ上がってるのがわかる。
それでももう逃げるわけにはいかない。
そう決めたんだから。
「…ただいま、ミア。」
「やーっと帰ってきたぁ。ほんと二日もどこをほっつき歩いてたんだよぅ!」
宿の部屋に戻ると、頬をぷくーっと膨らませたミアがいた。
怒っている顔が全く怖くない。
まさにミアらしい表情だ。
「ごめんごめん。ちょっと色々と用意が必要だったんだよ。」
「まあいいけどさぁ…それで、この前の話に戻る?」
「ああ。まずは見せたいものが二つあるんだ。」
まずは一つ目。
一枚の皮羊紙を取り出して、ミアに手渡す。
この一枚をものにするのに随分骨を折った。
「何これ。手紙が何か?」
「読めばわかるよ。」
「えーっと…」
ミアは黙って皮羊紙に書いてあるものを読み始めた。
最初はぽかんとしたような表情を浮かべていたが、どんどん驚きに変わっていく。
その皮羊紙にはこう書かれている。
『ギルヴァーン・エイルの名の下に、以下の契約を履行する。
一つ。ルディアラス・エイルはイベル商会評議員の職を辞し、エイル家における一切の権限を放棄する。
一つ。イベル商会評議会及び、エイル家はルディアラス・エイルに対し課した全ての制約を放棄し、今後干渉することを禁ずる。
一つ。ルディアラス・エイルの死後、当人の遺産は全てミア・ファジェナに帰属するものとし、何人たりともそれを揺るがすことを禁ずる。
以上の契約は遵守すべきものであり、何人たりとも破ることを禁ずる。
イベル商会会長及びエイル家当主
ギルヴァーン・エイル 』
この文書を得るために、兄と評議会…そして母に頭を下げた。
もちろん兄以外からは罵詈雑言の嵐だった。
それでもなんとか押し通してくれた兄には、いくら感謝してもし足りない。
「え、ルディアって評議員だったの?」
「ああ。まあ名前だけで、発言権すらなかったけどね。」
「本当に辞めちゃっていいの?それになんで私なんかに遺産を…」
「それは今から渡す二つ目のものをみれば分かるよ。」
そう言って小さな箱を取り出す。
真っ黒で、手のひらに乗るサイズの箱だ。
ミアの顔を見ながら、それを手渡した。
「開けてみてほしい。気に入ってくれると嬉しいんだけど…。」
「ルディア、これって…指輪!?」
「ああ。こんな経験がないから、選ぶのに少し時間がかかってしまってね。」
「ふーん…ルディアって意外と可愛いんだね。」
いや、本当に迷った。
自分のセンスの無さに絶望するくらいには迷った。
結局とある友人に手伝ってもらってなんとかなったが。
「ミア、僕はあと2年もしない内に死ぬ。」
「…うん。」
「それでも僕はその2年を君のために使いたい。こんな僕でも愛してくれた君に。」
「それってつまり…?」
「実際に口に出そうとすると変な感じだけど…結婚してくれるかい?」
「…。」
おっと…失敗したか?
ここまできて失敗となると、なかなかしんどいが…。
「ぷっ…」
「ミア…?」
「あははははは!あのルディアが告白してるぅ!待って待って、お腹痛い!あははははは!」
笑い転げている…。
いや仕方ないだろう、初めてする事なんだ。
多少おかしくなるのは必然だ。
自分でも相当恥ずかしいことを口に出した自覚はある。
でもここまでおかしいものだろうか。
「はーっ、いやぁごめんごめん。あまりに面白くて。」
「ミア…この恨みは死ぬまで持っていくからね。」
「あー、いじけちゃってさぁ。ほら、これつけさせてよ。」
ミアが指輪と左手を差し出してきた。
ということは…。
「ほらほら、早くしてよ。旦那様?」
「その呼び方は金輪際禁止させてもらうよ。」
「照れてるぅ〜!じゃあ…あなた?」
「それも禁止。」
そう言ってからミアの手を取り、薬指に指輪をはめる。
自分の手と比べるとかなり小さく、指も細い。
何かの拍子に折れてしまいそうだ。
「こんな時に変なこと考えてるのやめてくれない?」
「君は他人の思考が読めるのかい?」
「ルディアの考えてることぐらいわかりますぅ!どーせ私の手が貧弱だとか思ってたんでしょ。」
「触ったら折れそうだな、と思っただけだよ。」
「はい、私怒ったから。今日から3日間旦那様って呼びまーす。」
全く、肝心な時に締まらない。
でも僕たちらしくていいと思う。
僕が死ぬその時まで、彼女がこんな風にずっと笑っていられるように。
そしてこのくだらない日常を守れるように。
それだけが僕の使命だ。
「ちゃんと幸せにしてね?」
「ああ。約束するよ。」




