第十三話 シアワセノタメニ
「二日だけ待ってほしい。」
ルディアにそう言われて一日経った。
一体何をしようとしてるのかは分からない。
だってあの後からルディアは宿に帰っていないんだもん。
「はぁ〜…このまま絶縁とかされたらどうしよう。私死んじゃうよ?」
好きなんて言い出したのは私なんだから、そうなっても仕方ない気もする。
でもやっぱり気持ちを伝えた以上、受け止めてもらいたい。
てか普通に期待してる。
期待していいよね?
「ほんとどこ行っちゃんだんだよぅ〜…」
え、私は何してるかって?
観光に決まってるじゃん。
共和国に来たのは初めてだから、一人ぶらり旅もなかなか悪くない。
本音を言えばルディアと回りたかったけど。
「あ〜…ルディア成分が不足してるよぉ〜…」
「あ、あのっ…!」
「うひゃぁ!?」
いきなり声をかけられて、飛び跳ねてしまった。
ほんとにびっくりした。
てかさっきの意味わかんない独り言聞かれてないよね?
「み、ミア・ファジェナさんですよね…?」
「そうですけど…」
あれ、この人見覚えある。
黒い髪をてっぺんで束ねた可愛い女の子だ。
えーっと、この子は確か…。
あ、あいつだ。
出来れば二度と会いたくなかったのに。
「マリアベルさんでしたっけ…?」
「ま、マリアちゃんは私の双子の姉で…。アイリーン・エイル…です…。」
「あ、もう一人の妹さん!」
さすが双子。
あまりにそっくりすぎて分からなかった。
まあ昨日会った時はほとんど喋ってなかったし、仕方ないよね。
「き、昨日はすいませんでした。マリアちゃん何嫌なことばっかり言って…。」
「あぁ、いや全然。気にしないで、大丈夫だったから。」
まあ嘘だけど。
今度から商会絡みの案件が回ってきても、何一つ許可しないつもりだったしね。
私怨と呼びたければ呼ぶといい!
「それでアイリーンさん、私に何か用事?」
「あっ…私なんかが敬称で呼ばれるなんて申し訳ないです…。どうか呼び捨てに…。」
「じゃあアイリちゃん。」
「うぐっ…すいませんすいません…。そんな風に呼ばせてしまってすいません…。」
ルディアの卑屈を究極まで拡大したみたい。
双子なのに、マリアベルとは正反対の性格なんだろうか。
さっきからずっとおどおどしてる…可愛い。
「えーっと、それで私に何か…?」
「は、はい…。私なんかが厚かましいのはわかってるんですけど…一つお願いが…。」
「お願い?」
「はい…。あの…その…ルディア兄さんをお婿さんにしてあげてもらえませんか?」
おっと、斜め上のお願いが飛んできた。
なんて言った?
お婿さん?
「ルディア兄さんは優しいんです…!ずっと家でいじめられてても頑張ってて、いつでも褒めてくれて、それで…!」
「ちょ、ちょいちょい!ちょっと落ち着いて…!」
ルディアの話になった瞬間、アイリちゃんの口数が増えた。
しかもこの感じ…。
さてはこの子、お兄ちゃん大好きかな?
「兄さんなら絶対ミアさんを幸せにできるはずなんです!だから…!」
「分かった、分かったから。一旦落ち着こ?」
「あっ…はい…すいません…。」
なんだか意外だった。
聞いていた話では、アイリちゃんもルディアを嫌っている。
でも今実際に見てみると、完全にお兄ちゃん大好きな妹って感じがする。
「アイリちゃんはルディアのこと嫌いじゃないの?」
「だ、大好きです!だって兄さんは誰よりも…!」
「うん、分かってる。ルディアは誰よりもいい人だよ。」
「私…兄さんがこのまま死んじゃうなんて嫌なんです!いっぱい苦しんだのなら、それ以上に幸せにならないと…」
どうやら私はエイル家の人間に対して、強い偏見を持っていたらしい。
みんな揃ってルディアを迫害しているものだと思ってた。
でもアイリちゃんは違った。
純粋に兄の幸せを願っている。
とってもいい子だ。
「私ね、昨日ルディアに好きって言ったの。」
「え…?」
「そしたらルディアがね、二日間まってくれって言うから。だからアイリちゃんのお願いはルディア次第だね。」
「そ、そうだったんですね…」
力が抜けたらしく、アイリちゃんはぺたんと座り込んでしまった。
その顔には安堵のような表情が浮かんでいた。
なーんだ、ルディアのやつ。
いい家族もいるじゃん。
「だからね、ルディアが私を受け入れてくれたら…その時はお姉ちゃんって呼んでね。」
「そ、そんな…私なんかが妹なんておこがましいです…」
「あ、そのスタンスは変わらないんだ。」
昨日からずっと心に残ってたモヤモヤが少し晴れたような気がする。
こんなに面白くて、優しくて、可愛い子が妹になるかもしれない…そうなったらめちゃくちゃ嬉しい。
でもそれと同時に、私の中で期待がどんどん大きくなってしまってる。
これでフラれたら私どうすればいいんだろう。




