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第一話 あと2年

「お気の毒ですが、待ってあと二年ほどかと。」


そう言われた時、不思議と動揺しなかった。

むしろこれまで22年も生きてこられたのが奇跡だ。

ヘアツ病という魔力総量が生まれつき極端に少ない人間がかかる難病。

ヘアツ病にかかった人間は内臓がダメになる。

僕…ルディア・エイルが発病してから15年が経つ。

いつ死ぬかも分からない生活の終着点が、今日ようやく見えた。


「そろそろ店も畳まないとな…。」


死んだ親父から受け継いだ道具屋で小物を売って日銭を稼ぐ。

この数年は割と儲かったものの、体調は最悪だった。

でもそんな生活もあと2年もしないうちに終わりだ。


「どうせ今日はもう客も来ないか…。よし、店じまいだな。」


今日は激しい雨が降っているから、冒険者たちはクエストを受けようとしない。

だから誰も道具を買いに来ないのだ。

さっさと閉めて寝てしまおう。


「おじゃま〜!ルディアいる〜?」


突然扉が大きな音を立てながら開き、ずぶ濡れの女が入ってきた。

炎のように真っ赤な髪と目、少し小柄な体格…ここ数年仕事をサボって店に入り浸っている、ミア・ファジェナだ。

ミアは文官であるから、本来はこんな場所にいてはならない人物のはずだが…


「いらっしゃい、ミア。とりあえず僕の店を水浸しにするのは勘弁してほしいね。」

「えー、仕方ないじゃん!雨降ってたんだし!」

「外套はどうしたんだい?」

「仕事抜け出してきてるのに、そんなもの持ってるわけなくない?」


何を言っているのだろう。

まず仕事を抜け出さないでほしい。

仮にも文官なのだから、職務を放棄するのはどうなのかと思う。

いやまあ、文官に限らず何だけれども。


「で、今日は何の用?」

「えへへ〜サボり!」

「お客様、店に入ったからには何かお買い上げいただきますよ。」

「えー、ケチぃ!別にルディアの邪魔しないんだしよくない?」

「よくない。現に僕はこれから君のせいでできた水たまりを何とかしないといけない。仕事増やしたんだから、収入に貢献してもらうよ。」

「ルディアのケチ!」


とか言いつつ、ミアは鼻歌を歌いながら店の商品を物色し始める。

ここから店の気になるものを全部買って帰る所までがお約束だ。


「あ、このランタン綺麗。へいますたー、これお買い上げ!」

「はいはい、毎度あり。」

「あ、こっちのローブも!」

「どうせ使いもしないのに…。」

「売上に貢献してるんだからいいじゃん!」


ミアが頬をぷくーっと膨らませる。

まるで子供だ。

こんなのがよく文官になれたと、心底思う。


「あー、今失礼なこと考えてたでしょ!」

「さぁいったい何のことやら。」

「どうせこんなやつが何で文官にー、とか考えてたんでしょ?」

「サァイッタイナンノコトヤラ。」


こういう時だけミアはやけに察しがいい。

さすが文官様。


「これでも文官の中では仕事できる方なんだよ?」

「寝言は寝ていってほしいね。」

「ひどぉ〜。そんなこと言ってるともう来てあげないよ?」

「いや来なくていいよ。仕事抜け出してほしくないし。」

「うぐっ…」


最近聞いた噂によれば、サボりすぎて見習いに戻されそうなんだとか。

さっさと戻した方がいいと思う。

お国のために。


「私のことなんてどうでもいいの!お給料分の仕事はしてるし。それよりもルディアの体の方が心配だよ。」

「…それこそどうでもいいことだよ。治ることはないんだし。」

「ほらまたそんなこと言ってぇ!卑屈男め!」

「…あと2年だってさ。」


ミアの顔から表情が消えた。

でも隠しておく方が良くない気がした。


「昨日言われたんだ。持ってあと2年が限界だって。」

「…。」

「そんな顔しないで欲しいな。いつかはこうなるって分かってたろ?それにまだ2年もあるし…。」


そう。

分かってたことだ。

子供の頃からずっと。


「そっか。2年かぁ…短いね。」

「どうせ毎日来るんだから2年でも十分長いと思うんだけど。」

「…まぁね!」


ミアの顔に笑顔が戻る。

やっぱりしんみりした顔は似合わないな。

ミアは笑顔でいる時が一番だ。


「それじゃ帰るね。そろそろ戻らないと本当に見習いになっちゃう。」

「僕は見習いに一度戻るべきだと思うけどね。」

「ふんだ!そんなこと言ってると来てあげないからね!」


とか言いつつ毎日来るのだから、困ったものだ。

まあ一番の収入源になっているから、助かると言えば助かるのだけれど。


「それじゃ、また明日。気をつけて帰るんだよ。」

「はいは〜い!!


来た時と同様に、大きな音を立てながらミアは帰っていく。

これが僕の日常。

きっとあと2年続く、くだらなくも楽しい日常だ。

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