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この世の隙間で百物語

タイムマシン・パラドックス

作者: 一飼 安美

「タイムトラベラーさん、いらっしゃ〜い!」


 ……下手な冗談のような主題のホームパーティーは、論理証明の手段として実際に用いられたものだ。宇宙物理学者スティーブン・ホーキンスは、現代から人類の存在可能な未来において人為的なタイムトラベルが実現するなら、誰かが現れるはずだと考えた。このホームパーティーが歴史に記録されているのなら、興味を示す者が誰かいるはずだ。だがホームパーティーにはついに明らかな未来人が現れることはなく、ホーキンスはこのように実験結果を括った。


「タイムトラベルは不可能なのだ。そうでなければ、自分のような高名な科学者に会いたいと思う者が、誰かいるはずだ」



 ……半ば博士のジョークとして語られたこの言葉は、半ば核心に迫る。未来人がタイムトラベルで見てみたい過去の候補の一角に、このホームパーティーは必ず入る。これがどこぞの学生の考えたことなら未来人どころか友人も来ないかもしれないが、ホーキンスが世界的物理学者であることは紛れもない事実なのだ。何を思ったのだろう。誰でも来れるなら、誰かが思うであろう。だが、ホーキンスが思慮に入れていたかどうか定かではない範囲の可能性に、この世界線が立入禁止区域なのではないか、というケースをここに示したい。この世界は誰かが作った、モルモットの小屋なのではないか?と。


 未来におけるタイムトラベルが誰にでも可能なら、大量のタイム・パラドックスが発生している。そのパラドックスは、はたからどう観測するものなのか定かではないが……「どんなパラドックスだ?」こう考えたものがいれば、やってみる。一つの世界線を新たに作り、これは実験用の世界であれば何をしてもよい。そこに住まう者は、その事実を何も知らず世界とはこうだと考えている。人道云々の話をするなら眉を顰める話だが、実験室の水槽にいるタニシのような生き物を保護しようなどという権利思想があるはずもなく、作られて放置され、いずれは処分される。この世界は実験の、真っ最中なのではないか。ならば誰かが管理しており、それを咎める者がいれば排除する。相当に過激なやり方だが、実験とはそういうものだ。材料にされた人間がどれだけ泣き喚こうとも、仮想空間におけるシミュレーションの一つのようなもの、窓の向こうの異世界はそれを眺めて記録するだけ。この世界は、意図的に干渉がないように隔絶されているのではないか。そんな可能性だ。


 ……まあ、そんなことをしてどうするんだと言われたら特に考えはない。歴史上いくらでも行われてきた人体実験が、特に目標も成果もないままに闇に葬られたことを考えれば、珍しい話でもない。これは俺の思う、一つの妄想と思って聞いてくれればいい。さあ、蝋燭は一本消した。未来のヤツはまだ来ないから、次の話を始めようぜ。

そこそこデタラメに書いた。

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