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7 隣国ドラン

 キラはこの間石壁を作った国境に来ていた。

石壁の上に浮遊魔法で上がり国境を越えた。闇の魔法でずっと影を渡り歩いている。誰にも見付かることはなかった。闇の魔法を使えるのは、生まれ持った魔石持ち以外殆ど居ない。人間には光の属性よりも少ないのだ。魔物に近いと言われれば納得する属性だ。

闇に飲まれると言うことは、魔物になることなのだろうか。深く考える事は今はしないでおこう。

今まで、闇の属性を使う事は稀だった。だが、転移陣や魔法鞄には闇の属性が多く含まれている。闇がなければ、有益な魔道具は作れない。転移陣は特に妖精の魔石に闇の属性を多く入れている。

若しかして魔物の中には転移が出来る物がいるかも知れない。今まで異界の門でしか強い魔物と戦った事がなかった為、知らないだけかも知れない。

ドラン国の中心に向かい早駆けをしながら進んで行くが、広い国土ではなかなか王都には着けないでいる。頭の中の地図を見ながら進み2日後、王都の手前の領地に着いた。

ここは南に位置する国だけあって、冬なのに暖かい。

ここではキラのことを知っている人はいないだろう。冒険者の格好をして、鉢金をつけて、領都の門番に挨拶をし冒険者のタグを出して見せた。

「サミア国のダイダロスの冒険者か。随分遠くから来たんだな。」

「はい、あちこち廻ってみようと思いまして旅をしています。」

「自由で良いな冒険者は。問題ないようだ入って良いぞ。」

入街料が掛かったが、無事門を通れた。ここでは魔道具での検査はしないようだ。あの魔道具はカマドランだけの技術だった。


 伯爵領だという事だが、王都に近いせいか人が多く行き交って、賑わいがある街だ。昔は大陸でも力が有った国だ。古い歴史を感じさせる建物が多い。

取り敢えず宿を取って一休みしよう。冒険者ギルドには行かないつもりだ。キラの名前は冒険者の中では知れ渡っているかも知れない。冒険者は、今のキラのように国を渡り歩いている物が多く居るのだ。

宿は冒険者が来ないような宿を取った。要するに高そうな宿だ。

部屋は綺麗で、ベッドは大きく食事は美味しかった。ここのレストランで窓の外を見て街の雰囲気を見ている。この宿は貴族が多く利用しているようだ。二十代の貴族がこの宿に入ってきた。片腕の貴族だ。若しかして、カマドランでの同化に失敗したのだろうか。貴族は食事のためにこの宿に入ったようだ。片腕の貴族は、キラの隣のテーブルに通された。

貴族はキラを見て少し嫌な顔をした。そりゃそうだよな。こんな高級なレストランに冒険者の格好をした男がいるのだから。

いくら冒険者でも高級レストランに来るときは着替えてくる物だ。キラの場合、鉢金を付けていなければダメなので、態とこの恰好のままでいる。

「君は何処の冒険者だ?」片腕の貴族がしかめっ面のままキラに聞いてきた。

「サミアの冒険者です。こんな格好で気分を害されましたか?」

意外に丁寧な返しをされて片腕の貴族派少し面食らったようだ。眉間のしわがなくなった。

「あ、いや、サミアから態々?ずいぶん離れた処から来たな。何か欲しい魔物がいるのか?この国では海に行けばかなり手強い魔物が沢山居るから。この領には他国の冒険者は余り来ないのでね。少し気になったのだ。」

そうか、確か海の異界の門はこの領の最南だった。あの近辺に強い魔物がいるのか。

「そうですか。参考になりました。暫くここの観光をしてから、行って見ます。教えてくださって、ありがとうございます。」

「いや、君は冒険者の割りに、物腰が優雅だ。若しかして貴族だったのか?」

「いえ、まあ・・」

「そうか、いや、失礼した。深くは聞かない。皆それぞれ事情を抱えている物さ。私とて、この有様だ。見て居て分かっているだろう。私の腕がないのは。」

「いえ・・大変な怪我をされたのかなと思って居りました。」

「フ、怪我なもんか。カマドランでの同化の失敗さ。私の国では何故か失敗が多いのさ。今では魔法使いの同化を受けない貴族が大半だ。この国には年老いた魔法使いばかりが多い。若い魔法使いは極少数になって仕舞ったんだよ。」

「そうでしたか。聞いた話ではサミアでは平民の魔法使いが増えているそうですよ。失敗は全くしないそうです。」

「そうなのか?サミアが独自に開発したのだろうか。今度確かめてみるよ。教えてくれてありがとう。」

キラは貴族と別れて自室に帰った。

 魔物の嫌がらせは、この国の昔の遺恨では無く、先王の嫌がらせに対抗していたのではないかと考えた。先王なら遣りかねないことだ。隣の国に魔法使いを増やしたくなくて態と同化を失敗させていたのではないか。

遣ろうと思えば出来るのだ。神殿での手技に光の属性持ちでない神官に遣らせれば良いだけだ。


 キラはこの領の神殿に来た。

祭壇の前で跪き、祈りを捧げて無心になる。顔を上げると傍らに年老いた神官がキラのことを驚いた顔をしてみていた。

「何か?」

「イヤ失礼しました。貴方が輝いていたように見えて・・勘違いでした。」

神官の側に、十四歳ほどの神官がいた。彼も片腕だった。

「その若い神官様は腕をなくされているようですが。」

「ああ、これは私の息子で、同化の失敗です。私は昔の同化で成功したのですが、子供には無理だったようで、この有様です。」

この老人は光の属性がある。彼ならキラの同化を教えれば何とかなるかも知れない。

「神官様、失礼します。」

そう言って、キラは若い神官の腕を再生させた。

神官は驚いていたが何かに気付いたように、ハッとした。

「もしや貴方は、サミアの聖者様ではないですか?」

キラは心を決めた。この国にカマドランは遣ってはいけないことをしていた。

ここでサミアの聖者として名乗りを上げよう。

「はい、キラと言います。他にも同化の失敗をした方が居たら、僕が元通りにします。そして希望があれば魔石の同化の方法を教えます。勿論対価は入りません。ただ、部屋を用意していただけると助かります。」

神官は急いでキラを客間に通し下へも置かない扱いをした。

その部屋で、持っていた魔石を加工し始めた。

これで、足りるだろうか。転移陣のために取り過ぎた魔石は百個程残っていた。後はガーゴイルの魔石が大量に入っている。この間の異界の門での踏破で獲った物だ。ガーゴイルの魔石をなるべく多く加工する。これなら大量に作れる。側で若い神官とその父親の神官がじっと見ていた。その周りを神殿の神官達が取り巻いている。

「丁寧に雑味を抜かないと身体に負担が掛かります。これさえ完璧に出来れば、同化は簡単に成功します。」

説明をしながら、若い神官に妖精の魔石を同化していった。

意識を持たせたまま痛みだけを与えないようにして見せた。光の属性だけを付けた最高の魔石だ。手に同化させたが、これならば力も強くなるだろう。

治癒魔法を掛け直ぐに同化は終わった。

神官達は驚きすぎて声も出ない。その次の日からは、片腕のない貴族達が続続とやってきた。10人ほど居た。死んで仕舞った物もいるのだろう。目に手技を施す物もいたはずなのだ。

キラは順番に彼等の亡くなった腕を再生して行った。その中にレストランで会った貴族もいた。彼はキラを見るなり駆け寄ってきた。

「やはり君だったか。サミアの冒険者で聖者がいると聞いて、もしやと思ったのだ。」

彼の腕も無事に再生できた。

「私の息子に魔石を同化して欲しい。今年六歳の子だが。」

「はい、大丈夫ですが魔法使いにするには、やはりカマドランで教育した方が良いです。ここには魔法使いの学校はありますか?」

「だが、我が国とは余り良い関係とは言えないのだ。」

「では、私からカマドラン国王に話してみます。きっと何か方法を考えてくれます。新しい国王は以前の王とは違いますよ。」

だが、心の中で『安請け合いをしてしまったか?』と考えた。この間の魔物討伐の余波がまだ残っているかも知れない。

ダメなら自分で教えるしかないか。何年もかかるが、それでも良いじゃないか。その方が良いかもしれない。

取り敢えず一旦師匠に伺いを立てた方が良い。

「僕に時間を下さい。掛け合ってみます。一ヶ月ほどで戻ってきますので、同化の失敗をした方に声を掛けて居てください。」

そう言って、神殿から立ち去った。

誰も居ないことを確認して、転移した。





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