5 隣国からの嫌がらせ
王様から相談事があると知らせを受けて、王城に転移してきた。
「キラ、隣国からの嫌がらせを受けている。賢者がいない時を狙ったのでは無いかと考えているのだが。」
賢者は今、異界の門へ行っていて不在だ。以前にも、隣国は魔物をこちらに押しつけて来た事があった。あの時は騎士団や騎士学校の生徒まで出張って行ったのだった。勿論賢者もだ。
隣国ドランはカマドランの西南に国境を接している。カマドランよりも国土は大きい国だ。カマドランはドラン国から別れて出来た国だそうだ。
元は同じ国だった。三百年前は大国ドランとして君臨したと言う。
丁度元の賢者の師匠がカマドランへ来た頃だ。
魔法使いが増え始めたカマドランの領主が力を付けて、ドラン国から独立して建国したらしい。
ドラン国はその時から苦々しく思って、敵意を感じているのかも知れない。
「今は騎士団と飛竜隊がなんとか押さえているが、膠着状態が続いている。魔物がこちらに溢れてくれば、辺境伯の領地が壊滅するかも知れない。」
「僕が行ってきます。」
「以前よりも多いと言うことだが、君一人で大丈夫だろうか。賢者を呼び戻さなくても良いのか?」
実はキラはグランドヴァレーヘは入ったことが無い。ゼロがいない今、転移では行けないだろう。キラが一人で走って賢者を呼びに行っている時間は無いと思った。
「まずは遣らせてください。何とか出来るかもしれません。」
「・・そうか。では気を付けて行ってきてくれ。頼んだぞ。」
キラが現地に入ると、そこには魔物が今にも溢れそうになっていた。騎士団には怪我人が多く、飛竜隊が頑張って押しとどめている状態だった。
魔物自体は大して強くは無いが数がとんでもなく多かった。一体この魔物をどうやってここまで押し込んできたのだろう。隣国は何か新しい魔法を開発したのかも知れない。隣国の魔法使いを探ってみなければならないだろう。
キラは新たな決意を持って考えた。
「皆さん、一旦引いてください。大魔法を使います。」
飛竜隊が降りてきて、後方ヘ皆が避難したことを確認したキラは光の魔法を広範囲に放った。多くの魔物達は立ち止まり逃げ惑った。
周りには森が広がっているため、見通しが悪い。木の陰に隠れてしまった魔物は見付けることが難しい。キラは、火魔法で木々を焼き払った。国境は瞬く間に荒野になって仕舞った。轟々と音を立てて燃え広がる姿はこの世の終わりの光景のようだ。後ろでその様子を見ていた騎士達は、余りの光景に戦慄が走った。
キラは、そんなこととは知らずに更に魔法を放つ。大きな水球を浮かべ燃え広がった火を一瞬で消し去り、今度は風の竜巻で、生き残った魔物を巻き上げ上空から魔物をたたき落とす。ボトボトと魔物達のバラバラになった体が周りに散乱した。更に、キラは見通しの良くなった国境に土魔法で、高い石塀を築いて行った。ゴゴゴ、ゴゴゴッと地響きを立て巨大な石壁が迫り上がって行く。広範にわたるそれは、以前テレビで見た万里の長城がモデルだ。
「これで、今後魔物が来ても遣りやすいだろう。」
やっと作業を終わらせて振り返ったキラが見た物は、キラを恐れる騎士達の姿だった。
キラはやり過ぎたのだと悟った。皆がキラから離れようと後ずさる姿を見て、不味かったかなと思った。
「あの、怪我人がいれば、治癒を掛けますが・・」
誰も助けて欲しいとも言わない。一刻も早くキラがここから居なくなれば良いと思っているのが手に取るように分かった。
「・・では、僕はこれで帰ります。」帰り際そっと広範囲に治癒魔法を放っておいた。重傷の怪我は軽くなっただろう。
キラは転移で、師匠の神殿に飛んだ。