2 異界の門 最下層
「これじゃあ、戦っていると言うより、弱いものいじめしている感じがするな。」
そうだな、サムもガンザも光の属性持ちだった。光をかざすだけで皆萎んでしまい、魔石に変わってしまう。キラは全然手を出す必要は無かった。
この異界の門は、光の属性持ち意外には難関だろうが。
吸血コウモリも、光に目をくらまして落ちてきたところを剣で一突きして終わりだった。ハーピーはやや手こずったがサムの風の魔法で、飛べなくしてしまい、ガンザが剣で切りつけた。
一週間で最下層の前まで来れてしまった。
アンデットは、悲惨だった。3人が通る度に解けて魔石になってしまう。キラ達はただ魔石を拾っているだけだ。
「へ、へ、なんだか拍子抜けだな。もっと大変だと思っていた。」
「サム、そんなことを言っていると最後に大きな落とし穴に落ちるぞ。」
ガンザが言った直ぐ後、サムが消えて仕舞った。
「っ!ガンザ、不味い!サムが飛ばされた。」
「飛ばされた?何処に。」
サムが立っていた場所にはもう転移陣が消えて仕舞って追いかけることが出来なかった。
「多分遠くの異界の門へ飛ばされたと思う。ひとつひとつ探して見なければ。」
「・・何処にあるんだ?他の門は!」
兎に角ここを踏破してしまおう。最下層からガンザに転移して貰い、地上へ帰って貰う。万が一の事を考えて、ギルドへ報告して貰わなければ成らない。
踏破の感激は全くないまま、キラはゼロと一緒にサムを探しに行った。
ゼロに、まずは北の門へ転移して貰ったが、居なかった。次はオルンスに行ったがやはり居なかった。後は2つだけだが、キラは行ったことのない場所だ。
門の外にいてくれれば、時間が掛からないのに。
【多分、異界の門の最下層前に飛ばされたはずだ。門の前にはいないと思う。】
これから行く異界の門が、階層が少ないことを祈るしかない。
サムは食料を持っていただろうか。キラに任せて持っていなかった気がする。
【階層が浅い門と、深い門どっちにする?】
キラは悩んだ。そして、
「深い方、・・いや、浅い方から行く。」
【では南の異界の門へ転移しよう。】
ここまで来るのに丸1日掛かっている。急がなければ。水がなければ、サムは弱って、魔物と戦えなくなっているかも知れない。
南の門は、カマドランの南隣にあるサウザン国の最南にあった。海に面した崖の中ほどに門がへばりつくようにしてあり門の前の、細い岩棚の上に転移していた。下は海で波が打ち付けていた。そこから直ぐに門ヘ入った。
入った瞬間、深い穴の中に落ちて行く。斜めになった穴を身体を傾けながら壁にぶつからないように頭を抱えて只管滑り落ちていった。
辿り着いたところが一階層だろうか。魔石が一杯敷き詰められた真ん中にサムが倒れていた。
『良かった。早く見付かってくれて。』
「サム!オイ、起きろ。」
サムは何故起きない?
【魔物に噛まれたかもな。治癒魔法で直してみろ。】
サムに治癒を掛けると起き上がれるようには成ったが、まだふらふらしている。
「サム、一体なにがあった?」
「ああ、半分魚の槍を持った魔物が一杯いるところに押し込められちまった。必死に遣っ付けたんだけど次々出てきて、腹は減るわ、喉は渇くわで疲れちまって。意識が飛びそうになったところで、倒し切れていなかった奴に噛まれっちまった。気付いたらキラがいた。だけど、ここは異界の門なのか?俺は最下層を踏破できたのか?」
「違う異界の門だ。サムはここに飛ばされてきて仕舞ったんだ。僕とガンザで踏破してから、サムを探しに来たんだ。」
「くそ!結局俺は踏破できなかったのか。」
ここはボス部屋しかない異界の門で良かった。サムが魔物を倒しきったお陰で、ここは安全地帯になっている。でもキラが遅く着いていたらサムは毒のせいで死んでいたかも知れなかった。
もし違う選択をしていたら、と考えてキラは今更ながら恐ろしくなった。
「さあ、サム早く帰ろう。みんな待っている。」
キラが転移で連れて帰ろうとすると、ゼロが余計なことを言った。
【この異界の門は2階層しか無いが、最下層は海の中じゃな。】
「じゃぁ、直ぐに最下層なんだな。俺はここを踏破してみたい。」
サムは何としてもやり遂げたいみたいだ。仕方がない、付き合うか。
【儂が踏破したときは潮が引いた時だった。時間は1時間しか無い。干潮まで待った方が良かろう。】
浅いダンジョンなのに一番面倒だ。キラはサムに食事を与えて、周りに散らばった魔石を回収して、干潮になるのをまった。
干潮になったとゼロが言った。2階層に降りていく。また穴の滑り台を何処までも滑り降りて行く。ポイと一時空中に投げ出され、海の中に落ちてしまった。おい!ゼロ、干潮ではなかったのか!
必死に海面に顔を出し、岩に掴まった。サムもすいすいと泳いでこちらにやってきた。
【ホッ、ホッ、満潮時には岩も海の中じゃ。ほれ、魔物が来たぞ。】
大きな蟹の魔獣だ。三体いる。すかさず土の槍を飛ばすが弾かれた。
サムは風の刃を飛ばすがこれも刃が立たない。では光はどうだ。
しかし光を打つと海の中に蟹は入ってしまった。光の槍は海の中で屈折して命中しない。
火も効果が薄い。水はもとより効かなかった。後は闇しかない。
「くそ!だったら闇に隠れて蟹の腹を突き刺してやる。」
キラは剣を逆手に構え、海に潜って蟹の影に入り蟹のふんどしを突き刺した。
腹にあるふんどしは柔らかい。簡単に刺さり、魔石を壊した。
「良いぞキラ!俺がこっちに引きつけている。同じように遣っ付けろ!」
一旦息継ぎをしてそれを繰り返す。三体倒し終わったときには、息が上がり疲労困憊になっていた。
倒し終わった後、海の水が引き転移陣が現れた。そこには宝箱が置かれていた。キラ達は蟹の本体と宝箱を収納し転移陣に乗った。
【珍しい。宝箱がでたか。】
ゼロでも出たことがない珍しいことだそうだ。でも、もう二度と来たくない異界の門だ。