1 新王の方針
師匠に言われて、新王に挨拶に行くことになった。
新しい王様は、まだ十六歳の若さだった。質の高い魔石を右手の甲に同化させていた。しっかりとした落ち着いた雰囲気の青年だった。
「其方が、賢者の弟子か。まだ若いのう。私も、つい最近魔法使いになった。これから研鑽してゆかねば成らない。お互いに精進しよう。」
「はい、これからも新しい技術を発見してこの国に尽くして参ります。」
堅苦しい挨拶は早々に終わり、若い王には無礼講だからと言われて愉しく話し込んだキラだった。
師匠の言う通り、この国は若い王様によって変わってゆくだろう。魔法使いは、力が有る。生まれつきの魔石持ちは更に力が有るのだ。これまで貴族の特権だった魔法は、サミア国によって平民でも使うことが出来る様になった。
魔石持ちが一般に増えれば、魔石を持って生れてきた子供も嫌われずに、生きて行けるようになるだろう。だが、それはまだ先の話だ。
今、苦しんでいる子供を救いたいとキラは考えている。まだ子供を殺してしまう親が居るのだ。何とか、それだけは辞めさせたい。
「何!私でも転移が出来るというのか?」若い王様は歓喜した。
「はい、まだ完成していませんが、転移陣を敷いた場所から場所へ移動出来るようになれます。この小さな妖精の魔石があれば、転移が出来る様に加工できます。」
オルンス国にある異界の門から、獲ってきた妖精の魔石は魔法使いなら転移が出来る様に加工できる。かなりの個数を使うが、固定式の魔方陣が設置できそうだ。この小さな魔石に魔力がかなり蓄えることが出来る。魔方陣の中に魔石を三十個程入れ込めば可能だった。
転移は莫大な魔力を使っていることが分かった。キラの場合感じられないが、ゼロが教えてくれたのだ。異界の門は魔力が溢れるほどあるから出来たのだ。師匠の異界の門は、ゼロの魂を原動力にしていた。これでは一般の魔法使いでは魔力が足りない。だが、妖精の魔石を使えば何とかなりそうだ。
ただ、この魔石を獲ってこれるのは、今のところキラだけだ。
飛竜隊でも無理だろう。かなり高価な物になるが、王様は絶対に作ってくれと言った。
王様にしてみればお金は関係ないのだろう。それよりも転移によって時間が短縮される方が何倍も重要だ。
キラはオルンスの異界の門の妖精を刈り尽くす勢いで大量に魔石を持ってきたのだ。そして魔力の補給には、北の異界の門から持ってくることになった。
「私はサミア国と国交を結ぶ。離れた処と簡単に行き来できれば素晴らしい事ではないか。」
この大陸は真ん中が竜達の住処になっていて、北側と中央には国が全くない。大陸の外周に沿って国があるのだ。サミア国に行くには、竜の住む大森林を迂回して行くか、飛竜に載って飛び越えるしか無い。それが転移で一瞬に移動出来ることになるのだ。
設置場所は神殿になった。魔方陣には暗唱言語を登録して決められた魔法使いしか使えないようにした。万が一の事を考えての処置だ。どちらにしても魔力を補充しなければ、使う事が出来ないので、王様にしか使えないだろう。キラは王様と賢者にしか予備の魔力の瓶を渡さない。
キラのように自前の魔力で転移出来る魔法使いはこの世界には滅多にいないだろう。
サミア国との国交を樹立するために、キラは何度も行き来することになった。キラの転移は皆にバレてしまった。これからは、王にメッセンジャーをさせられることだろう。
キラは自分一人だけしか転移出来ないと言う事にしている。そうしないと大変な事になって仕舞うと恐れたのだ。代わりに転移陣を開発してなんとかこれ以上王様のところに呼び出されないようにしたかった。
「キラよ、君はいつでもこの王宮に来てもいいぞ。君のための転移の場所を用意しよう。」
周りの側近達は大慌てだ。勝手に王宮の中に転移出来る権利を王様がキラに与えてしまったからだ。
「王様、それは危のうございます。万が一キラ様が・・・」
「馬鹿な。キラが私を滅しようと思えば誰にも止めることなど出来ない。その様な無駄な用心をするよりも、キラと仲良くして貰えばどれほど安心か。其方らも考えを改めよ。」
以前の王とは違い考え方が柔軟だ。
キラは、こっそり「王様は僕を使い勝手の良い伝書鳩のように考えているのでは?」と訝しんでいた。どちらにしても、キラは呼ばれなければ、王宮には来るつもりは無かった。
「へえ、キラも偉くなっちまったんだな。もう俺らとはつるんでくれなくなっちまうのか。つまんねぇ。」
ダイダロスに久し振りに来て、ギルドの食堂でサムと話し込んだ。今のキラの立場は、サミア国との国交を樹立するための特使の一員だ。無事に決まればサミア国の神殿に転移陣を敷く事になる。それが終わるまではこの国に滞在する。他の特使は後で飛竜に乗って到着するのだろう。
キラはサミア国の王都に宿は取ったが、王都に仕事がないときは、殆どダイダロスの冒険者ギルドに転移してきて入り浸っている。
偶にオイビーの様子も見ないとならないし。
オイビーは愉しくやっているようだ。つい先日ダイダロスの近くの村で魔石持ちが見付かり神殿で保護したと言う事だった。ここも異界の門があるため、魔石持ちが生れるようだ。オルンス国ほどではないが、今までも稀にいたらしい。が、殆どは影に屠られていた。だが、その子の親が神殿へ連れてきたと言う事は、この頃魔法使いが平民に増えて、魔石持ちの事も周知されてきたお陰だろう。
「偉くなんか成っていないよ。自前の転移が仕えるのが僕しかいないからさ。殆どがメッセンジャー役だよ。今は締結に向けて、話合いが設けられていて、一ヶ月は閑なんだ。」
「じゃぁ、俺と一緒に異界の門へ行こうぜ。約束してただろ。」
「そうだな。行ってみるか。」
「まて、私も行く。」
ガンザも付いてくるようだ。側で寂しそうにギルド長が見て居た。ギルド長には、ここをしっかり監督していて貰わないとダメだから一緒には来ることは出来ないだろう。
異界の門はある程度力が有る冒険者で無いと、危険だ。その為ここには冒険者は滅多に来ない。余程お金に困って一攫千金を狙う人以外は態々ここへは来ないのだ。森や草原に行けば、十分魔物を狩る事が出来るからだ。
「最初から行こう!転移なんか使わないでずっと潜ってさ。それで最下層まで行って見ようか。」
「キラ、誰も踏破してないんだぞ。無理に決まっている。」
「いや、昔はいたらしいぞ。最下層は五十六階だと記録が残っている。」
五十六階か。丁度良い時間つぶしになる。無限収納には前もって食料が入れてあるし三週間くらいなら時間が掛かっても平気だ。
キラ達は最初の階はどんどん走り抜けて、下の階を目指す。
今まで下りたことがある処まで三人で降りていった。
「ここを抜ければ未知の階だな。」ガンザは、三十二階で立ち止まった。
「ここはガーゴイルのボス部屋か。」
「そうだ何時も魔石を獲って引き返してるんだ。先へ行くには勇気が要る。キラがいるからいける気がする。」
「そうだったのか、じゃあ行きますか。」
キラは三人に結界を張っている役だ。彼等のレベルがかなり上がっていた。魔物はサムとガンザに任せて2人の戦い方を見ながらゼロに話しかけてみる。
「ゼロ、この先はどうなっている?」
【この先か。ガーゴイルも沢山出るし、吸血コウモリ、ハーピー、バンパイア、その次はアンデッドが沢山居たな。キラには簡単だろう。光で倒してしまえるからな。だが、途中で罠があった。そこは気を付けた方が良い。どこかの異界の門へ飛ばされる。】
それは、ゼロがいるから大丈夫だろうが、普通の冒険者には難しいな。確かにここは難易度が高い異界の門だ。
ゼロと話している間に、どうやら終わったようだ。
「今日は、ここで泊まって明日から新しい階に挑戦しよう。」
サムは初めての異界の門踏破に鼻息が荒い。
「俺はここを踏破できたら、レベルがもっと上がる気がする。頑張るぞ!」