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12 最後の異界の門

 キラは今異界の門の前で竜を倒しまくっていた。

心は捻れ、頭の中は冷え切っていた。キラは神殿長の言ったことに怒ったのでは無い。余りにも言われ慣れた言葉だったので今更驚きはしない。

あの時キラには、神殿長の心の中が見えてしまったのだ。

初めてのことだった。人の心の中の何と醜いことか。ドロドロで、今にも腐臭がしそうだった。自分の保身、恐れ、傲慢、欺瞞、欲望、強欲。それらがキラに押し寄せてきて、まるで自分まで穢されて行くようで、とてもでは無いがあの神殿にいることは出来無かった。

可哀想な竜を倒しながら、このドロドロを自分から振り払おうと力を使いまくる。兎に角魔力を使い切りたかった。

だが魔力はいくら使ってもちっとも減らなかった。

【キラよ、竜が居なくなったら騎士達が困るのでは無いか?】

「・・・・・・・」

【キラよ、可哀想な竜を殺しても、人間の醜さは消えないぞ。一度見えてしまった物はこれからも見える様になる。人間は皆、似たようなものだ。清廉潔白な人間はいない。】

「・・・・・・」

【キラよ、いい加減にせい。お前だって同じだ。竜を殺してそれで気持ちか休まるのは人間の残酷さだ!ただの八つ当たりだ!】

「・・そうだ。僕も人間だった。聖者などでは無い。只の人間だ。醜い人間だ。」

キラはガックリとその場に倒れて、そして眠ってしまった。キラの周りには沢山の竜達の死骸が散らばっていた。


キラが目覚めたとき、側に誰かがいた。

ハットして起き上がる。

「君は誰だ?」

「私はガイアです。貴方はなんて酷いことをしたのですか。ここは竜の里として代々守ってきたのに。これではまた一から竜を育てなければ成りません。」

キラは、身の置き場も無くなって仕舞った。自分の八つ当たりで竜が殆ど居なくなってしまった。

「ごめんなさい。私を使って竜を復活させて下さい。多分元に戻るはずです。」

「貴方の命を使う?何故そんなことをしなければ成らないのですか?竜はゆっくりでもまた増えるでしょう。貴方の命など使わずとも自然と復活します。」

「僕は生きる価値が無くなった人間です。僕はいない方がこの世界のためになるんです。」

「随分傲慢ですね。貴方一人のせいでこの世界がダメになるとお考えでか?」

「・・・」

「貴方には力が感じられます。大きな力は何為に貴方に宿ったのでしょうね。貴方が精一杯生きれば、きっと最後に答えが出ると思いませんか?」

「・・そうでしょうか。僕は今まで一生懸命生きてきたのに、何時も誰かを傷つけている気がします。」

「生きていれば何かを傷つけることになります。でも自分を傷つけるのは良くないですよ。貴方はまだ生れて間もない。これからもっと他の物を傷つけるでしょうが、それは故意にしたことでは無いでしょう。生きるには仕方のないことでしょう?それでは生きて行けません。犠牲になった命の分も生きなければ。」

キラは夢の中から目覚めた。

「あれは、彼女は夢だったのか?」

周りには竜が居たが殆どが死んでいた。しかしまだ生きている物もあった。

キラは急いで治癒を掛けた。半分ほどが生き残ったようだった。

「御免な。竜達。僕が馬鹿なせいで死んで仕舞った。」

【やっと気がついたか。馬鹿者が。2日も寝ていたぞ。竜の素材が悪くなってしまう。勿体ないでは無いか。早く仕舞え。】

キラは死んで仕舞った竜を無限収納に総て納めた。自分が殺してしまって申し訳ない。だが大事に使わせて貰う。せめてもの償いだ。傲慢な考えだとは思ったが、キラは所詮人間だ。聖者などでは無いのだ。


【早く異界の門へ入らぬか。折角ここまで来て門の前で終わってしまうのはつまらんぞ。】

そうだ、ダンジョンに入って、楽しもう。ダンジョンは、不思議と生命が感じられない作り物の雰囲気がある。死んでもまた復活する魔物。罪悪感を抱くこと無く倒せる。まるでゲームのようだ。

【面倒くさいことを考えるなよ。お前はお前だ。白だろうが黒だろうが最後に審判を受けるのはお前自身だ。誰に遠慮は要らない。精一杯生きれば良い。それだけだ。】

「そうだ、愉しいことをしてスッキリしよう。また、帰って遣ることが沢山ある。」

キラは異界の門をくぐり沢山の魔物を倒し、楽しみ尽くしていった。

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