11 キラの行方
「キラは何処へ消えた!」
賢者は吠えた。王も厳しい顔で神殿長を見て居る。
「神殿長、其方は聖者様にしっかりお仕えすると言っていなかったか?何故この様な事態になるのだ。」
「私は、きちんと管理しておりました。かの者はあろうことか同僚に人体実験を施したのです。その者は今意識不明となっております。この様な悪魔の所業を見逃しては置けません。何という恐ろしい。あれは聖者ではござらん。闇に穢れた魔物です。」
賢者は顔を青くして気を失ってしまった。
スタントンは今意識を戻した。
「俺は一体どうしてこんな処に寝ている?」
手足は縛られ、地下深くに閉じ込められている。周りは石の壁で天井に丸い穴が開いているだけだ。
キラが消えたことを神殿長に知らせに行って、王に進言しに行くというと神殿長の魔法がスタントンを直撃したのだった。対処する間もなかった。まさか神殿長に攻撃されるとは思いもしなかった。
キラには言わなかったが、スタントンはキラの監視を任されていたのだ。何故監視を?とは考えたが、神殿の中では下っ端のスタントンには聞き返す事は許されない。黙って指示に従うしか無いのだ。キラはそんなことは気にしていないように愉しそうにしていたから、スタントンも、そんなことは忘れて昔に戻って二人で過ごして居たが。神殿のためになる素晴らしい発見をしたと一緒に喜んでいたのに、神殿長は何に対してあんなに怒ったのだろう。
然も自分は何故ここに縛られていなければならないのか。
まるで牢のようでは無いか。起き上がり手足の拘束を自分で解く。縛られていた紐を見れば魔力の防御が掛かっている。本来であれば、スタントンではこの拘束は解くことが出来なかったはずだった。
だが、キラの手技によって魔力が格段に上がった今、簡単に解くことが出来る様になったのだ。
「俺は、キラを裏切ったことになったのか?」
何も悪いことをしたわけでも無い同僚、いや聖者だ。あの時キラの目は、黒く悲しげに曇っていた。魔物などと言われて苦しかったに違いない。
「これは、神殿長が指示したことなのか?」
何故キラを虐げた。キラの何を恐れている?
こうしては居られない。スタントンは、地下の牢から抜け出した。
誰も彼が抜け出せるとは考えていないようだった。監視さえも居ない。
このまま見殺しにするつもりだったに違いない。あのままだったら食事も水も与えられずに涸れて死んでいただろう。
地下牢と言っても只の洞窟だ。
スタントンの土魔法は簡単に石に穴を開け、穴を伝って天井まで登ることができた。「卒業してから、滅多に使わなかった土魔法が役に立ったぜ。」
スタントンは光の属性持ちで重宝に使われていたのでまさか他の属性まであるとは考えていなかったのだろう。
スタントンは賢者のところへ行ったが、賢者は今伏せっているという。王の処へは行けるはずも無い。下っ端の神官では相手にされないだろう。
「どうすれば良いんだ。」
途方に暮れてしまった。王都の中を当てもなく歩いていると、
「あら、スタントンじゃない?こんな処でなにをしているの?」
「え、?」
「イヤね、忘れちゃったの?私フェリーヌよ。一緒のグループだったでしょ。」
「ああ、そうだ。随分大人っぽくなった。分からなかったよ。」
「ふふ、そうお?で、何してるの?貴方神殿にいなくて良いの?」
「いや、チョット王に伝手のある人はいないかなって考えていて・・」
「じゃあ、私がつなぎを付けてあげようか。わたし、ルシアーヌ様のお付きをしているのよ。」
「!」
「今の話は本当の事だろうな。スタントンとやら。」
無事に王に進言できたが、今度は王によって拘束されそうだ。怖い顔で睨み付けられ首が縮こまる。
「はい、お、私は神殿長に攻撃されて拘束されていました。なんとか抜け出せました。キラに対しての扱いは決して聖者にする扱いではありませんでした。下っ端のする仕事ばかりで、他の神官からは隔離されていました。そして俺を、いや、私を、監視にして見張らせていました。」
王はこの話を聞いて理解した。神殿長は先王の命を受けてドラン国にした仕打ちを知っていたに違いない。若しかしたら、自ら進んで手技をしていたかも知れない。今まで黙っていたのは自分が罰せられるのを恐れたためだったと。
それをしていた神官がいたことは感じていたが、王は罰するつもりは無かった。先王に言われてしたことは仕方がないと感じていたのだ。誰しも王にな逆らえない。逆らえば待っているのは死だ。
ただその後に、正直に話してくれればこんなに拗れることも無かったと苦々しく思っていたのだ。
だが今回のことは許されない。余りにも陰湿だ。王は決断した。
「スタントン。君に特命を言い渡す。」
スタントンは王の側近と一緒に神殿の大掃除を任されてしまった。
『何で俺にこんな事をさせる?俺に出来るのは普通の掃除だけなのに。』




