第三話:「ストーカー先輩」
「はい、という事でね、
今からね、新しい仲間のきゃわいいきゃわいい
新入生の部員の自己紹介してもらおうと、
思いまーす。」
夜の校舎。
カーテンが開いた窓から差し込む街の光は
教室内を照らす蛍光灯の無機質な光に遮られている。
・・・今日は新聞部の新メンバー歓迎会の日である。
この部には部員が殆どおらず、
学校の掲示板で部員を募集していたので、
少し気になって早速足を運んだのだ。
学校の事を詳しく知るいいチャンスだ。
ホワイトボードの前には、いかにも典型的なギャル・・・
ウェーブをかけ染め上げている金髪ロングヘアで
派手なアクセサリーをジャラジャラしている女子。
「えっとね~誠に残念ながらね~。
今年も新入生の部員は殆ど居なかったのよね~。
っていうか真面目に来た子達がそこの二人だけで、
後の人は今日の歓迎会すらバックレちゃったんだけどねぇ。
この部も徐々に消滅の危機に突入しちゃったかな~。
・・・と思ってんのね~。
・・・ってゆーかさ~、フツーさ、
部員が4人だけってあり得なくね?
と思ってんだけどねぇ~・・・寂し~ね~。」
「みりあさん、そろそろ彼らの紹介を。」
真面目で気の強そうな黒髪ロングの先輩から
みりあと呼ばれたギャルはどこか気の抜けた甘ったるい声で
何か色々とぼやきながらホワイトボードに
マーカーペンで可愛い文字を書く。
「あ、さーせん。よっし。え~っと、
どのコから自己紹介してもらおっかな~」
ジロジロと二人を交互に見据えるギャル。
数秒の間この状態が続いたが、漸くギャルが片方の・・・
茶髪のショートボブの女子をペンで指す。
「じゃ、そこのプリチーなバンビーナから
自己紹介してもらおーかな。」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
茶髪の女子高校生は、ギャルに手を取られ、
ホワイトボードの前に立った。
どこか幼さを残しつつも活発な彼女は、
目の前の3人に向かいお辞儀をする。
「初めまして!
私は1年の『桜井 巴』といいます。
普段はカメラで風景や資料を撮影しています!
・・・まだまだ様々な面で未熟な私ですが、
全力を尽くし、この部に貢献していこうと思っています。
よろしくお願いします!」
丁寧にハキハキと自己紹介する
明るく真面目な印象の女子だ。
・・・初めて教室で自己紹介してた時も
こんな感じだったなぁ。
愛らしく、様々な人から好かれそうだ。
「いや~、トモエちゃんありがと~!
初めてなのに人見知りせず、
めっちゃハキハキしてて元気でイイね~。
可愛いね~。ウサちゃんみたい。
じゃ、次、そこの男の子。お願いしてもらおうかな。」
「あ。はい、よろしく。」
次は僕の番だ。
みりあ先輩に強烈な眼差しで見つめられながら、
丁寧な足取りでホワイトボードの前に立つ。
・・・僕以外全員女子だ。
女子にはまあまあ慣れてる上に、
別に女性恐怖症って訳ではないのだが、
こんな女三人の閉鎖された空間に男が一人だけとなると、
流石の僕でも少し緊張するというものだ。
「あ、ども、こんばんは。初めまして。
僕は『朧塚 幻』といいます。
これからこの部にお世話になりますが、
よろしくお願いします。以上です。」
少し早口で、単調な内容になってしまった。
「ちょっとォ~、ゲンく~ん。
何か趣味についてとか無いの~?
音楽聞く~?アニメとか映画とか見る~??
普段何してんの~?????」
「ん・・・え~っと・・・」
ここで先輩のダル絡み癖が発動した。
僕は別に趣味が少ないという訳ではないが、
これからこの部での活動が比較的安定したら
その事について色々話すつもりでいる。
初対面の僕に対し色々と問い詰めるみりあ先輩を
黒髪の先輩が制止し、フォローしてくれた。
「みりあさん・・・彼、新入生よ?
色々と気になる気持ちは分からなくはないけど、
彼もまだ分からない事多いから、程々にしなさいね。」
「あ。ゲン君ごめんね。また後で話そーね。」
みりあ先輩を説得した黒髪の先輩が優雅に僕に近づく。
「ごめんなさい。自己紹介が遅れました。
私の名前は『藤河原 沙苗』です。
この新聞部の部長を担当しているわ。
・・・あの人、初対面の人間でもダル絡みする癖があるの。
もし迷惑だったらごめんなさい。」
頭を下げる沙苗先輩。
反射的に僕も頭を下げた。
「あ、僕の方は全然迷惑になってないし大丈夫ですよ。
僕もこれからこの学校でいろんな人に
慣れていかなきゃと思ってるんで・・・」
沙苗先輩はみりあ先輩を見つめる。
「あの人は『葉月 みりあ』さんよ。
ちょっとヤンチャで適当そうな子だけど、
根は普通にいい子だから、仲良くしてあげてね。」
「どーも。みりあで~す。
トモエちゃんもゲンくんもヨロピクね~。」
みりあ先輩はピースサインしていた。
「はい、僕もこれから頑張っていきます。
改めましてよろしくお願いします。」
「そうかしこまらなくても大丈夫よ。
ところで、後ろにいる人は幻君の知り合い?
なのかしら?」
「あ、どうも。3年の清水ですぅ。」
声に反応して咄嗟に振り向くと、
そこにはウェンディがいた。
「ちょ!!!!お姉ちゃ・・・」
しまった・・・あまりに突然の出来事に
あくまで留学生であって姉でもないのに、
彼女の事をお姉ちゃん呼びしてしまった・・・
「どうもどうも・・・
ウチの幻クンがお世話になっておりますぅ・・・」
「いえいえ、こちらこそ。
ところで、何故この部室にいらしてくれたの?」
ウェンディに事情を尋ねる沙苗先輩。
「うっわ!!!!すっげーデカい女の人じゃん!!!
ゲン君の姉ちゃんだったりすんの!?!?!?
うお~よく見たら結構美人じゃん!!!!!
どんなに食ったりトレーニングしたら
そんな身長とかデカくなれんの!?
あーし超気になんだけどぉ~!!!!!」
みりあ先輩も驚愕と興奮で饒舌になっている。
「えぇっとぉ・・・幻クンが気になってぇ・・・
帰りが遅いからぁ・・・迎えに来たんですぅ。」
しまった。彼女に今日は新聞部の歓迎会があって
帰宅時間が遅くなる事を伝え忘れていた。
とにかく、彼女に問題を起こされたくない。
まさかウェンディにストーカー癖があったとは・・・
「あっ・・・ちょっと失礼します。」
僕はウェンディを連れて部室の外へ出た。
「幻さん、もう帰るの?」
「あっ、ごめん。また今度ね・・・」
巴さんが尋ねるが僕は軽く挨拶だけすると、
廊下をウェンディと共に歩いていった。
部活初日にやらかしたなと思ったが、
今はウェンディ先輩を移動させなければならなかった。
・・・・・
校舎を繋ぐ連絡通路で話すウェンディと僕。
「ウェンディ先輩・・・アポ取って無いのに、
いきなり部員の目の前に現れるの止めてください・・・」
「えっえっ・・・?
でも、私はぁ。
こんな夜遅くに帰ってこない幻クンが心配でぇ・・・」
確かに、
彼女に心配かけてしまった僕にも非があるのかもしれないが、
それでも突然背後から忍び寄って目の前に現れるのは
本当にビックリするから止めてほしいなと思った。
「幻クゥン・・・」
バッ・・・ムギュ・・・
「!?!?!?」
すると彼女は、唐突に僕の体をハグし包み込んできた。
やばい・・・苦しみと僅かな興奮、軽い恐怖の中で、
僕は複雑な感覚を抱いていた。
「ちょ・・・!!!!
先輩!!話してください・・・」
「嫌ですよぅ・・・
お姉ちゃんを心配させた罰だと思って、
大人しくこのボディプレスを受け取ってくださいぃ・・・」
その後、僕は彼女からしばらくプロレス技を食らっていた。
夜の闇の中。
彼女と僕の少々不健全なミックスファイトは続いた。
・・・彼女ならその内、一線を越える危険性があると感じた。
・・・・・・
校門では執事が車を出して待機している。
「・・・幻様はウェンディ様と仲がよろしいですね。」
夜の帳の中を走る車の中でセバスチャンが一言。
・・・僕にはそれが嫌味に聞こえた。
助手席に座るウェンディ先輩は、
恍惚とした表情で顔を赤らめ、呼吸が乱れていた。
少し興奮した僕も人の事を言えないのだろうが、
相変わらずちょっとキモイなと思った。
車は僕の家に向けて走行していた。
・・・まるでブライダルカーだ。
ウェンディ先輩みたいな空気読めない女とは
申し訳ないがなるべく結婚したくない・・・