第二話:「荒野の中で」
「えっと・・・よく分からないのですが、
留学生ってどういう事ですか・・・?」
ソファーに座る僕と執事。
その向かい側には巨大な女性、清水ウェンディ。
「えっと、しばらく幻くんのお家にですね、
ちょっとお世話になる事になってですね、
幻君の面倒みてあげる事になったのですぅ。
迷惑はかけません。大丈夫ですぅ。」
お辞儀するウェンディ。
「朧塚家は彼女の家にお世話になった過去があるのです。
今回ウェンディ様が留学するにあたって、
彼女の宿泊先が必要だと考えまして・・・」
セバスチャンが説明する。
「う、うん・・・分かりました。
まだよく分かりませんが、よろしくお願いします。
ウェンディさん。」
「クヒヒッ。よろしくですぅ。」
笑い方がキモいなと思った。
・・・・・・・
「ウェンディさん、ここが僕の部屋で・・・」
「はい。はい。」
「向かい側のこっちがリビングですね。
さっきもそこで話しましたが。」
「あぁ~金持ちの家っぽくいろいろ置いてありますねぇ~」
「そんでもってですね、
台所のここに何故かドリンクサーバーがあります。」
「良いですねぇ。最高ですねぇ。
ウブな男の子と一緒に豪邸で暮らせるなんて・・・
しかも一般家庭にドリンクバーまであるとかいいっすねェ。」
・・・今から彼女を招き入れるという現実を受け入れきれない。
今夜から部屋に鍵をかけて寝よう・・・
「ねぇねぇ幻君、
早速メロンソーダ飲んでも良い?
朝から何も飲んでなくて、喉乾いてるんですよねぇ。
後、お姉さんみたいに発達良い人は
カロリーいっぱい取らなきゃですのでぇ・・・」
・・・何だコイツは・・・
家の中に招き入れた僕にも責任はあるのかもしれんが、
急に押しかけてきといて馴れ馴れしいなと内心思った。
「あっ、はい。良いっすよ。」
「やったぁ♡ウェンディちゃん大勝利ぃ。」
この女、コップをどこからともなく取り出して、
ドリンクサーバーにセットする。
ウィーンと機械がコップに泡立つメロンソーダを注ぐ。
奴は何杯もおかわりし、ガブガブ一気飲みしやがった。
最初に「迷惑かけない」とか抜かしといて、
早速居候の特権を乱用していやがる。
ストレスが溜まっていたので、ちょっとムカついた。
メロンソーダの残り残量を確認してみたら、
見事に一滴遺さず飲みやがったのだ。
意地汚い女だと内心思った。
「ぷっは~、やっぱメロンソーダ美味しいですね~」
・・・勘違いすんなよクソアマ。
元々このドリンク共は来客用に用意してんだよ。
居候のおめー如きががぶ飲みしていいいもんじゃねェぞ。
「そ、そうっすか。良かったっすね。」
適当に返事しといてやった。
・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
朧塚幻の自室。
就寝前に明日の学校の準備をする僕。
明日から本格的に授業が始まる。
授業が始まる前にどのような授業が行われるのか、
どのようなカリキュラムが組まれるのか、
どの様にして学習に取り組むのかを研究せねばなるまい。
「幻く~ん♡何してるんですかぁ??」
ビクゥッ!!!!!
!?!?!?!?!?
こいつ、いつの間に僕の部屋に!?
鍵は閉めておいたはずだぞ!?!?
何で僕の部屋にこいつがいるんだ!?!?!?
しかも勝手に入りやがった!!!!
「あっ、な、何ですか・・・?清水さん。」
「いや?何でもぉ・・・
ちょっと幻君があまりにも集中してるから気になったんですぅ。
明日の学校の勉強の予習かなんかですかぁ?
こんな時間に勉強するとは、真面目ですねぇ・・・」
馬鹿にされたような気がして、腹立った。
そうだよおめーのお察しの通りちゃんと勉強してんだよ。
勉強に集中してることが分かるなら話しかけてくんな。
空気読めねぇ女だな。
・・・と内心思った。
「・・・ねぇ、幻君。」
ぎゅっ・・・
ムニュ。
!?!?!?!?
奴はあろうことか僕の事を急に抱きしめやがった。
しかも僕の頭に巨大なアレを押し付けてやがる!!
放せ!!!おめーの巨乳に顔が埋まって息が出来ん!!!!
学習が出来んだろうがっっっっ!!!!!
普通ならこの状況、男なら基本誰しもが羨ましいと思うだろうが、
僕にとってはいくら美人といえど見ず知らずの女に抱かれるのは
不快そのものでしかなかった・・・
「幻くぅん・・・今日から私が幻くんのお姉ちゃんですからぁ・・・
多少過激でもボディタッチくらいしなきゃあ・・・・」
おえぇっ!!!キモイキモイキモイ!!!!
盛大に吐き気がした。
こいつ自分よりかなり年下の男子が好きなのかよ!?
「私はぁ・・・幻君に家族が執事さん以外いないって聞いてぇ、
とてもかわいそうだなと思ったんですぅ。」
同情なんてすんな!!!
お前に何が分かる!!!!!
すると彼女は急に僕の事を放した。
「幻君、私はぁ。」
奴は悲しそうな顔をする。
今更どうしたんだよ?
「幻君が考えそうなこと、分かるですぅ。」
「・・・は・・・?」
思わず声が漏れた。
「幻君が初対面の私の事嫌いだって解ってますぅ。
家族は少ないかもしれませんが、
私が家族だと思ってもらって構わないですぅ。
どんなに嫌われても付いていきますぅ・・・
だって・・・だって、
迎えてくれる家族が殆ど居ないんじゃあ・・・
寂しすぎるじゃないですかぁ・・・・」
「・・・清水さん・・・?」
彼女はいつの間にか瞳に涙を浮かべていた。
意外だ。彼女は自己中心的な女だと思っていたが、
人の為に流せる涙があるとは・・・
多少キモいが、そこだけは認めてやろうと思えた。
そして、彼女の顔は姉によく似ていると感じた。
父さん、母さん・・・姉さん。
僕は偶然というにはあまりにも唐突なタイミングで、
荒野の中にオアシスを見つけてしまったのかもしれない。
命を繋げる、非常に大切な出会いだったのかもしれない・・・