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第一話:「追憶と出会い」

「あああ・・・と、父さん・・・母さん・・・

・・・・・姉さん・・・!!!!」


土煙の中・・・

飛び散る血とガラス片・・・何処か分からない肉体の一部・・・

残骸と転がったタイヤ。冷たくなった顔。

鉄の不快な匂い・・・


周囲の悲鳴、喧噪・・・・・

遠くから聞こえてくるサイレン音・・・


ブラックアウト。


そして沈黙。


・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・


「・・・!!」


気が付くと、僕はベットの上。

とんでもない寝相で寝ていたみたいだ。


「・・・また、あの夢を見てしまった・・・」


僕は棚の上の写真に自然と目線を合わせる。

写真立ての中・・・微笑む家族の顔。

父と母と僕と・・・


・・・写真は既に色あせているようだ。

日差しの下にあるなら、当然の変化だろう。


部屋に朝の日差しが差し込む。

眠い目をこする僕。

起き上がり、ただただ空しい思いに耽る。


「・・・・・姉さん・・・」


・・・・・・・・

・・・・・

・・・


「皆さん、ご入学おめでとうございます。」


登壇し、大きな声で、しかし淡々と話す校長先生。

女性の方だ。


「皆さんが、新たに入ったこの学校で

新たなる門出を迎えられることを嬉しく思います。」


・・・・


「この学校で皆さんの将来が輝きに満ちたものになる事を

わたくしは切に願います。」


・・・・・・・・


「それではこれより、各教員の指示通り、

指定の場所に移動してください。」


・・・・・・・・・・・


学校への初登校が終わった。

違和感を感じる制服。オシャレでどこかシック。


エリート校の「市立天沢高校」に入学できたことは嬉しいが、

どこか心に空白の部分がある。

素直に喜べない僕は捻くれているのだろうか?


何人かは中学生の頃の知り合いや親しかった友人がいた。

彼らと少し会話を交わしながら、帰路についた。


だけど、心のどこかに未だしこりがある感覚だ。


僕は・・・とても大切なモノを失った事だけ分かる。


・・・高層ビルの森は夕陽の光を受け、きらきらと輝く。

周囲にはタワマンがある。


大通りにはバスやタクシー、車が行き交う。

何気なくコンビニの中に入る。


ピロリロリロ~

入店音。


ブラブラする僕。いかがわしい雑誌の前。


パンの棚。


菓子パンと飲み物を選ぶ。

苺ホイップのコッペパン。


冷えた棚の中に並ぶドリンク達。

小っちゃいボトルの麦茶を手に取る。


レジの上の小銭。


「あざした~」


店員の声。

チャラそうな若い男だった。大学生くらいだろうか?


・・・・・


ただただ、僕は歩き続ける。あてもなく。

高架下を潜り抜けると、そこには駅前の公園。


目の前には輝く橙色ヴァーミリオンの太陽


ガタンガタンガタンガタンガタンガタン


通りかかる電車の音。

子供達の無邪気な声。幼い影が芝生に写る。

モデルとか情勢の話題・・・主婦の会話。


気が付くと僕はベンチに座っていた。

陽はただただ沈んでいく。


有名な夜景スポットの公園。

絶景のデートスポットでもある。

遠くの摩天楼。白い光と瞬く赤い光。


僕はリュックを前に出す。

ビニール袋の中から取り出す少し潰れた菓子パン。


キャップを回し、麦茶を一口。

喉を流れる液体。香ばしい香り。


袋を破り、苺ホイップのコッペパンを一口。

無機質な甘みと苺の酸味のミックス。

一瞬、味が無いように感じた。


「・・・あの日もこんなんだったっけ。」


隣のベンチに座る煌びやかな男女のカップル。

何か互いに囁いていた。

幸せな愛の言葉だといいな・・・と思った。


・・・・・・・


高級住宅街。


自宅の前。

豪邸。


玄関のドアを開ける。


一人の中性的な美しい執事。


「・・・お帰りなさいませ、ゲン様。

書斎の準備は整っております。」


「ただいま。いつもありがとう。執事セバスチャン。」


洗面所。手洗いうがい。

そしてなんとなく洗顔。

目が覚めた。


制服を丁寧に畳み、クローゼットの中へ。

リュックの中から色々取り出す。

学校の資料を机の上に置き、一通り確認した後

クリアファイルの中に仕分けて入れる。


ノートパソコンで、学校のホームページにアクセス。

アカウントの確認とメール確認。


色々他にも整理する。


・・・部屋着に着替えると下の階から声。


「幻様。夕食の準備が出来ました。」


今日のディナーは、

ビーフシチューとパン。サラダ。

執事が入学祝いに腕によりをかけて作ったとの事。


「・・・ねえ、セバスチャン。」


「どうされましたか?幻様。」


「・・・セバスチャンは、寂しくない?」


「・・・いいえ。幻様さえお元気なら、

わたくしは十分満足ですよ。

・・・突然どうされたのですか?」


「・・・そう・・・

この家には、僕達二人だけだから、

何となく聞いただけだよ・・・」


食事が終わり、リビングのソファーでくつろぐ。


新学期のグッズがどうだの新生活がどうだの、

ニュースでやっていた。

CMに入る。


ピーンポーン。


玄関からチャイム。


「・・・どうやら、いらしたようですね。」


執事の声。


「幻様。私と共に迎え入れましょう。」


意味深な事を言う執事。

二人で玄関に向かう。


・・・


「あ、あの。こんばんは。」


そこには一人の・・・女性。


眼鏡をかけており、金髪に近い茶髪の前髪ぱっつんのおさげ。

そばかすがある。


・・・大きい。


それは、胸的な意味でも、そして身長的な意味でも言えた。


でかい。あまりにも。


「ご紹介いたします。

『留学生』の『清水シミズ ウェンディ』様です。」


無表情なセバスチャン。嫌そうだ。


ニタニタいやらしく笑う清水ウェンディとかいう巨大女。


僕はあんぐりしていた。


・・・まさか、これが後に運命の出会いになるなんて、

その時は夢にも思わなかった・・・

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