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最終話 愛するつもりがないだけで、結果として愛されました

 それから三年の時が経ち──。


 私とアストル様は今や『仲睦まじい夫婦の見本』として、社交界で羨望の的となっていた。


 特に何かをしたわけではないのだけれど、ただ日常的にお互いの想いを伝え合い、尊重し合い、慈しみ合って過ごしていたら、いつの間にか私達のことが噂になって、そんな風に呼ばれるようになっていたのだ。


 結婚当初は「君を愛するつもりはない」と言われていたのに、人生ほんと何があるか分からない。


 アストル様によれば、あの時のあの科白も「君を愛する()()()()()と言い切るのは嫌だったから、愛する()()()()()()と言って誤魔化した」と言っていた。


 自分だけが私を好きなのだということが悔しくて、せめてもの抵抗のつもりだったらしいけれど、そんな小さな違いなんて本人以外分かるわけないのに。


 でもその小さな違いが、実際には大きな違いとなって私の心を傷付けていたかもしれないから、そんなところもアストル様の優しさなんだろうと思う。


「……ディーヌ、ここに居たのか」


 二歳になった娘を抱っこしたアストル様が、ゆっくり此方へと近付いてくる。


「おかーしゃん、おかーしゃん」


 アストル様の腕の中でジタバタしている可愛い娘は、『泣く子も黙る』と言われるお父様の表情を唯一崩すことのできる強者だ。


 何事にも動じないと思っていたお父様が、孫可愛さに侯爵の座を私に襲爵しようとなさったのには心底驚いた。


 それを知ったアストル様が「子作りが落ち着くまでは絶対に襲爵しないで下さい!」と言って、お父様を拗ねさせたことは、まだ記憶に新しい。


 アストル様がお父様にあんな強気発言をするなんて、彼も父親になったことで少しは精神的に鍛えられたということなのかしら?


 だけどそのせいで「早いとこ子作りを終わらせて、私を隠居させてくれよ」なんてお父様に言われてしまったのは、完全に予想外だったけれど。


 幸いにも、私のお腹の中には既に第二子が宿っていて、子作りは順調そのもの。なのだけど子供って……何人産めば子作り終了で良いのかしら?


 閨でのアストル様は人が変わったかのように情熱的でねちっこいから、私がいくら制御しようとしても止まってくれないのよね。


 そのうち『仲睦まじい大家族の見本』なんてことになりそうで怖い。


 流石にそれは嫌だから、適当なところで我慢してもらおう、うん。


「おかーしゃん!」


 抱きついてきた娘を抱きしめ返し、空いた手で小さな頭を優しく撫でる。


「今日は確か王宮へ遊びに行くと言ってなかったかしら? 私の記憶違い?」


 私の隣に腰を下ろしたアストル様に尋ねると、彼は肩を竦めて「そうだったんだけどね」と苦笑した。


「どうやら王子様が『イヤイヤ期』に入ってしまったらしく、何を言っても『嫌!』と言うそうだよ。そんな時にリーシャと会わせて泣かせでもしたら申し訳ないからと、今日は中止にするとの連絡があったんだ」

「そうなのね……」


 ここでいう『王子様』というのは、エイミーさんが産んだ元第二王子殿下との子供のことだ。


 王宮内部の隠し部屋から助け出されたエイミーさんは後日妊娠していることに気付き、密やかに産み育てようとしていたそうだけれど、そのことを知ったご両親が王家との繋がり欲しさに連絡してしまったのだとか。


 いくら廃籍されたとはいえ、元は王族。その血を継ぐ子供であれば、王家の血が流れているわけで。


 狙った妊娠でなかったとはいえ、害される危険があるからと王宮で匿われることになったエイミーさんは、平民だったこともあり、無事に男子を出産してからは乳母として王宮内で働いている。


 彼女が私からアストル様を奪おうとしたことは、未だに許せない。


 だけど第二王子のことに関しては彼女も被害者であるし、第一アストル様に「エイミーがいなければ、俺は高確率で身を引いていたと思う」なんて言われてしまったから、それらのことを思うと何時迄も腹を立てているのは大人気ないかな、と思い、幸い子供の年齢も近いことから、最近はお互い行き来して交流するようになった。


 ただ……王子様が殊の外リーシャのことを気に入ってしまい頻繁に会いたがるので、そこのところは困ってもいる。


 第二王子とエイミーさんの子供が私達の子供と……なんて、洒落にならないわ。


 今後暫く交流は控え目にした方が良いかしら?


 そんなことを考えていると、遠くの方から甲高い声が聞こえてきた。


「……シャ、リーシャ、リーシャあああああああああああ」

「あ、おーじしゃま!」


 私の腕の中から飛び出したリーシャが、王子様に向かって駆けて行く。


「旦那様、奥様、申し訳ございません。お二人にお窺いをたてようとしたところ、足元を擦り抜けて走って行かれ……」


 私達の元へ辿り着く前に、王子様を捕まえようと奮闘したであろう家令の息は上がってしまっている。


 ゼェゼェと肩で息をする家令に「問題ないわ」と声を掛けると、私は手を取り合って喜ぶ子供達へと目を向けた。


 王子様は、顔を真っ赤にして嬉しそうにリーシャを見ている。


 リーシャは特に何も思ってはいないだろうけれど、王子様に会えて喜んでいるのは確かだ。


 この先、二人がどうなっていくのかは分からない。


 将来的に結ばれるかもしれないし、そんな関係にはならないかもしれない。


 たとえ如何なろうとも、私は自分の子供達が選ぶ道を応援してあげようと思う。

 

 愛する人と過ごしていく人生は、とても素敵なものだから……。


「……ディーヌ」 

 

 無言で肩を抱き寄せてきたアストル様に、囁くように名を呼ばれる。


 顔を上げれば大好きな顔が目の前にあり、私はゆっくり目を閉じた──。

 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて完結となります!


ここまでお読みいただきありがとうございました!


感想くださった方も、本当にありがとうございました!







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