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第四十二話 被害者エイミー

「ねぇ王子様。私、王子様ってみんな頭が良いと思っていましたけど、実はそうでもなかったんですね」

「むがっ……!」


 猿轡のせいで満足に喋ることのできない第二王子を見下ろし、私は愉悦の表情を浮かべる。


 こいつが馬鹿で本当に助かった。


 でなければ私は、一生あの閉じられた部屋から出られなかったかもしれない。


 ほんの何日間か閉じ込められただけで、気が狂いそうになったんだもの。


 あと数日続いていたら、絶対に頭がおかしくなっていたわ。


「私を抱いた後、そのままの格好で王宮内を歩いていたら怪しまれると思わなかったんですか? 普通気になりますよね? 結婚もしていないあなたが、王宮内の()()()()()致したのか? って」 

「ぐっ……!」


 ふふふ。悔しがってる、悔しがってる。


 あんたのせいで私はアストル様の愛妾になる道を閉ざされ、大切に守ってきた純潔まで奪われたんだから、簡単に許されると思わないでね。


 第二王子がクロディーヌさんの邸へ行くため、私を閉じ込めた部屋から出て行った後暫くして、急に外が騒がしくなったと思ったら、何人もの人達が部屋の中へと雪崩れ込んできた。


 驚く私を一目見るなり、彼らは一斉に目を逸らしたけど──なんせ私は薄い夜着一枚で室内に放置されていたから──数人の騎士達は、チラチラこっちを見ていたわ。


 それからお風呂に入れてもらって、お医者様の診察を受けた後、宰相様に色々と聞かれたんだけど、全部正直に話してやった。


 私とアストル様を引き離した第二王子なんて大嫌いだったし、もう二度と監禁されるのはごめんだったから。


 その後王宮魔術師とかいう人が呼ばれて来て、破瓜の証を修復するかどうか聞かれたけど、私はそれを断った。


 今更そんなもの修復されてもまた痛い思いをするだけだし、そもそも第二王子が避妊していたかどうかすらハッキリしない。


 彼の愛妾でいた期間こそ短かったけど、あまりにも濃密すぎる毎日だったから、実は今もの凄く不安だったりする。


 処女なのに妊娠してるとか洒落にならないし。


 そもそも平民は、結婚した時処女かどうかなんて、そこまで気にするもんでもないしね。


 それにしても……第二王子の性欲の強さには辟易したわ。


 今まで一体何人の女性を襲ったのよ。


 しかも私以外は全員貴族令嬢で、その人達は襲われた恐怖と純潔を奪われたショックから、漏れなく婚約を解消したと聞いた。


 そのせいで結婚する相手がいなくなった令息達は、大慌てで次の相手を探しているんだとか。


 本来なら貴族を束ねる役目にある王族が、貴族同士の繋がりを無理やり断ち切って慌てさせる……って、どう贔屓目に考えても最低よね。


「あなたのような人が何時迄も王族として偉そうにしていたら、この国は終わりよ。だから早めに罪が暴かれて良かったわ」


 私自身がその餌食になったことと、被害に遭った令嬢の数を考えると……既に手遅れって感じもするけど。


 取り敢えずこれ以上の被害者が出ないなら、それで良いと思うしかないわね。


「あの……国王陛下」


 そこで私は下から睨み付けてくる男を無視し、恐れながら国王陛下へと声をかけた。


「なんだ?」


 こんな私のような平民に、陛下はとても優しい目を向けてくれる。


 今、私の足元に転がってるクソ王子と血が繋がってるなんて、とても思えないわ。


「先ほどのお約束……果たさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 第二王子のやらかしを知った後、国王陛下は謝罪の言葉と共に、私へと頭を下げてくれた。


 悪いのはどう考えても第二王子だけなのに、「親として監督不行き届きだった」と言われて……。


 陛下に謝罪されて有頂天になるほど能天気でもなかった私は、それを受け入れる代わりに一つだけお願いを聞いてもらうことにしたのだ。


 どうにも腹に据えかねる、女の敵とも呼べる男に報復をするために。


「平民の娘、エイミーよ。余に二言は無い。好きにするが良い」

「ありがとうございます!」


 満面の笑みで陛下に答えると、私は床に転がる第二王子の胸ぐらを掴む。


「むっ!?」

 

 驚愕に目を見張る王子にも笑みを向け、右手を思い切り後ろに引いた。


「悪い子には、お仕置きが必要ですよね」


 言うが早いか手を振り下ろし、スパーン! と小気味良い音を立てて第二王子の頬を打つ。


 こんなものじゃまだまだ足りないけど、やりすぎて不敬罪に問われるのは嫌だし、これで我慢するのが賢明でしょうね。


 私が罰など与えなくとも、この男はこれから地獄を見るみたいだから。


「私の我が儘を聞いていただき、ありがとうございました」


 国王陛下と宰相様にお辞儀をし、さり気なく第二王子の背中を踏みつけてから、私は王宮を後にする。


 宰相様が家まで送ると言ってくれたけど、丁重にお断りした。


 王家の馬車に乗って帰ったりしたら、大騒ぎになっちゃうし。


 ──その後何日かして、第二王子にそっくりな美形が男色向けの娼館にいるとの噂が流れた。


 かなりの美形であることと、第二王子に瓜二つであることから人気が出て、予約は既に半年先まで埋まっているとか。


 運良く彼との時間を買うことのできたお得意様に話を聞いたら、「終始怯えて嫌がって、でも身体は反応するもんだから、そのギャップが堪らなかった」んだそう。


 これで第二王子も、私や令嬢達の味わった恐怖を身に沁みて感じたことでしょう。


 しかも身分は既に平民となっているらしいから、二度と権力を振り翳すことはできないし、当然ながら逃げ出すことも許されない。


 それでも一応見張りは付けられていて、万が一にも逃げ出そうものなら、今度は鉱山労働者向けの娼館に行かされるのですって。


 噂によると、そこは『娼婦の墓場』とまで言われるぐらいに酷い所らしい。


 過酷な労働により溜まる鉱山夫の性欲処理だけを目的にしていて、娼婦の年齢、美醜などは関係なく、ただただ数をこなすだけの毎日なのだとか。


 流石にそんな所に元王子様が行ったら気が狂ってしまうだろうから、今いる場所から脱走しないことを切に願うわ。


 ──けれど、そんな私の願いも虚しく。


 人気の男娼が店から逃亡を謀り、捕まって鉱山送りになったと聞いたのは、それから一ヶ月ほど後のことだった。

 

 





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