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第四十一話 第二王子の罪

 いつの間にか父上の隣に立っていたのは、僕の愛妾であるエイミーだった。


「むぐ、むごご」(どうして此処に……)


 驚いて見つめる僕を、エイミーは一瞥すらしない。


 ただ無言のまま俯き、床を見つめているだけだ。


 何故エイミーが此処にいる?


 彼女は僕の秘密の小部屋に閉じ込めておいた筈だ。


 しかも彼女が王宮へ来た時は、僕の部屋へと通じる秘密の直通路を使わせたから、人目にだってついていない。


 なのに、どうしてバレたんだ?


 考えても、分からない。今まで同様の手口で何人もの女を連れ込んだが、一度としてバレたことはなかったのに。


「何故この娘が此処にいるのか……知りたいか?」


 父上からの問い掛けに、僕は未だ床に転がったままの状態で頷く。


 直接エイミーに問うてやりたいが、猿轡をされているため口をきけないから、それはできない。


 お前は僕の妾だろう? このような場所へ勝手に出て来るな!


 そう怒鳴り付けてやりたいのに、今の自分はあまりにも無力だ。


 悔しくてギリ、と猿轡を噛み締めると、噛み締めた歯が逆に痛みを訴えた。


 くそっ! エイミーさえ父上に見つからなければ、こんなことにはならなかったのに……!


 殺気の籠もる瞳でエイミーを睨み付けるも、彼女は未だに下を向いたままだ。


 何故こっちを見ない? お前の主人は僕だろう? 早く此処へ来て僕を助けろ!


「……フェオフィル、視線で人を殺せるとするならば、この娘は間違いなく死んでいるだろうが……そのように睨み付けても無意味だ。此方の調査は既に済んでいるからな」

「むぐぐ……」(何を言って……?)


 父上の言葉の意味が分からず、僕は眉間に皺を寄せる。


 調査とは一体なんだ?


 まさか先ほどの書類のことを言っているのか?


 確かに僕は今まで何人もの令嬢を囲い込んで思うまま身体を貪り、飽きたら捨て、飽きたら捨てを繰り返すことによって、多くの女と関係を持ってきた。


 だが、解放する時は毎回破瓜の証を修復させていたし、僕との関係は絶対に口外しないよう言い含めてもいたから、何かの拍子に疑われることがあったとしても、バレることはないだろうと高を括っていたのだ。


 女達を脅す時も、王宮魔術師を脅す時も、家族の命を盾にしたから裏切らないと思っていたのに、どうして今回バレたんだ?


 そういえば、エイミーにはまだ口止めをしていなかった。


 いつも小部屋から解放する時に口止めをするから、解放する気のなかったエイミーに対しては口止めの必要なしと思っていたが、まさか小部屋を見つけられるなんてな。


 エイミーから情報が漏れたことで『これ以上隠す必要なし』と判断した王宮魔術師が口を割ったんだろうが、だからなんだって言うんだ?


 例え何人もの女の純潔を奪ったとしても、全て元通りにしてやったんだから問題はない筈だろう?


 僕の何がいけなかったんだ?


「身体の傷は治せても、心の傷はそうはいかない……。貴様に言っても分からぬかもしれんがな」


 父上の表情からは怒りが消え失せ、代わりに侮蔑も露わな表情を向けられる。


 心の傷? なんだ、それは。


「むぐぅ……?」(どういうことだ?)

「貴様が傷付けた令嬢達は、そのほとんどが精神を病み、今も家に引き篭もっていると聞く。身体の傷は修復されても無理やり身体を貪られた恐怖は、そう簡単には癒えぬということだ」


 その言葉に、僕は衝撃を覚えた。


 まさか……そんなことが?


 破瓜の証を元に戻せば、何の問題もないと思っていた。


 いくら強姦に近い行為とはいえ、相手は王族である僕だ。


 選ばれて光栄でこそあれ、嫌がられる謂れはない。


 そう信じてことに及んでいたというのに、僕の勘違いだったというのか?


「貴様に犯された令嬢達は男性に対する恐怖に怯え、事情を漸く知ることのできた親達により、ほとんどの者が婚約を解消した。貴様に穢されまくった後の身体と心では、結婚などできない、男性が恐ろしくて堪らないから、と……」 


 馬鹿な。そんな筈はない。


 僕に穢されただと? 


 そこは王族の僕を受け入れられたことに感謝を感じるべきところだろう?


 慈悲をもらって喜ぶならともかく、穢されたと考えるなど不敬極まりない。


 彼女達は僕に選ばれたことを誇りに思うべきなのに。


「むがっ……むぐぐぅ」(そんなのは……納得できません)


 僕はただ女としての喜びを彼女達に教えてやっただけだ。


 結婚してつまらない男の妻などになる前に、僕が王族として慈悲を与えてやろうと……。


 言われっぱなしなのが悔しくて、猿轡を外そうと激しく頭を左右に振る。


 眩暈を感じる程に強く頭を振った結果、なんとか少しだけ猿轡を緩めることができたのだが──それをそっと元に戻す手があった。


 誰だ?


 余計なことをするなという意思を込めて、その手の持ち主を睨め上げる。


 そうして僕と目が合った人物は──黒い笑みを浮かべていた。


 

 


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