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第四十話 第二王子の失態

 次期侯爵邸から王宮へと帰ってきた僕は、鼻歌でも歌おうかと思うぐらいに上機嫌で歩いていた。


 クロディーヌに今日会った時の感触が悪くなかったからだ。


 僕を見て明らかに動揺していたし、恥ずかしくて直視できないという感じが其処彼処に見受けられた。


 以前アストルに言われた通り、男の色気を全開に漂わせて行ったのが良かったのかもしれない。


 作戦が見事に功を奏したというわけだな。


 あんな童貞丸出しのアストルみたいな男には、僕のように男の色気を武器にするようなことは到底真似出来まい。


 これで最早クロディーヌは僕のものになったも同然。


 後は父上に話して臣籍降下の準備を始めなければ……。


 いや、その前にあの二人を離婚させるのが先か?


 などと考えながら歩いていたら、父上付きの従僕が現れ、至急謁見室へ来るようにと言付けてきた。


 なんだ? 何かあったのか? 僕は特に父上に呼び出されるようなことをした覚えはないぞ?


 呼び出された理由に首を傾げながら、足早に謁見室へと向かう。


 その時の僕は、自分が大きな過ちを犯しているということに、全く気付いてはいなかった。


「陛下、お呼びだと伺いましたが……」


 公的な場では父上のことを陛下と呼ぶように言われているため、敢えて陛下呼びして跪く。


 もし何か叱られることがあったとしても、まずここを押さえておけば、火に油を注ぐことはないからだ。


 だが、何故だか今日はいつもと様相が違った。


 父上の纏うオーラが、普段と明らかに違っているのだ。


 まるで噴き出しそうになる怒りを押し込めているかのような、限界まで我慢して堪えているような、そんな感じがする。


 一体どうしたと言うんだ?


 内心で首を傾げ、父上の側に立つ宰相に視線だけで問おうとすると──。


「フェオフィル貴様! その格好はなんだ!? 貴様には恥というものがないのか!」


 もの凄い声量で怒鳴られた。


 僕は今まで一度だって父上に怒鳴られたことはない。


 悪いことはバレないよう巧妙に隠していたし、表面上は品行方正な第二王子を完璧に装ってきた。


 だから父上が怒鳴ったり叱責したりするのはいつも他人で、僕はいつも後ろからそれを眺めているだけだった。


 時には叱責されている相手に対し「ざまあみろ」とすら思ったこともある。


 いつでも当事者でなかった僕は、父上に怒鳴られて萎縮する者達を見て(何をそんなに怯えているんだ? そこまで怖いか?)と、不思議に思ったものだ。


 それがまさか当事者になった途端、ここまで恐ろしく感じるものだとは思いもしていなかった。


 怖くて顔が上げられない。父上の顔が見られない。


 僕を怒鳴った際に見た父上の顔は、閻魔大王もかくやと思えるほど恐ろしかった。


 でも、何故だ?


 父上に怒鳴られるようなことをした覚えはない。


 僕はいつも通り完璧だった筈──。


「貴様は今の自分の格好を見て、なんとも思わぬのか?」


 今度は怒鳴るのではなく地を這うような低い声で言われ、ハッとして自分の着崩した服装を見やる。


 しまった!


「も、申し訳ございません! これには少しばかり事情がありまして……」


 まずいまずいまずい!


 父上の所に来る前に、服装を整えておくべきだった。というか扉の前にいた近衛! それぐらい教えろよ!


 謁見室の扉を守る近衛騎士に内心で悪態を吐きながら、慌てて服装を整える。


 思わぬことで火に油を注いでしまった。


 臣籍降下の件で父上と話をしたいと思っていたが……これは後日にせねばならないな。


「……王子たるものがそのような格好をして出歩く理由など聞きたくもないが、貴様にはどうしても他に聞かねばならんことがある」


 父上がそう言うと同時に、大量の書類が目の前に投げ捨てられた。


 なんだ……?


 それを手に取り、内容に目を走らせた途端──その場に凍りついたかのように固まる。


「ど、どうして……」

「どうしてだと? それを言いたいのは余の方だ! 王族の権力を笠にきて人を脅し、やりたい放題しおって! 王宮魔術師が嘆いておったぞ。本来なら人を救う魔術である筈が、貴様に悪用されたせいで被害女性が逆に増えているとな!」

「…………」


 父上の言葉に、全く反論することができない。


 王宮魔術師め、余計なことを言いやがって……。


「他にもあるぞ。……あの娘をここへ」 

「かしこまりました」


 あの娘?


 父上の言った言葉を脳内で反芻し、或る可能性に辿り着いた瞬間、僕はその場から逃げ出した。


「何処へ行く!」


 が、当然逃げられる筈もなく、アッサリ衛兵達に捕まり、その場に押さえつけられる。


「離せ! 僕は王子だぞ! こんなことをして許されると思っているのか!? 不敬罪で全員処刑してやる!」


 喚きながら死に物狂いで抵抗するも、身体を鍛えたことすらない僕が、屈強な騎士達の腕を振り払える筈もなく。


 嫌だ、こんなのは嫌だ。


 こんなことあっていい筈がない、許されるべきじゃない。


 高貴な王子たる僕が、こんな目に遭うなどあり得ないんだ──!


「離せぇぇぇぇ! 貴様ら全員処刑されたいのか!? 死にたくなくば僕の言うことを──」

「黙らせろ」


 父上が一言発しただけで、僕の口には問答無用で猿轡が噛まされ、両手を後ろ手に縛り上げられる。


 屈辱だ。僕がこのような辱めを受けるなど。


 ここにいる全員、後日必ず処刑してやるからな!


 そのまま床の上へと転がされ、屈辱と怒りに塗れた瞳で父上を睨みつけた。


 許さない……例え父上といえども、僕にこのような屈辱を味あわせるなど、許されるべきではないんだ。


 その時、父上の横に女がいることに気付いた僕は、其方へと目を向けて──刹那、息を呑んだ。




 

 


 


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