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第三十四話 第二王子の企み

「──というわけで、そなたの娘エイミーは僕が貰い受ける。代わりと言ってはなんだが、貴家には王家御用達の看板を掲げることを許可しよう」

「は、はいっ! ありがとうございます。光栄の極みです!」


 ヒースメイル侯爵家の入り婿であるアストルの愛妾候補であったエイミーを自分の物とした次の日、僕は早速彼女の父親を王宮へと呼び出し、エイミーを自分の妾として娶ることを了承させた。


 最初のうちこそ父親は「はて? エイミーは公爵家三男様の愛妾となるのでは……?」と首を傾げていたが、「この僕と運命的な出逢いをし、此方へ鞍替えすることになった」と告げれば、驚愕の表情となった後、満面の笑みでもって頷いた。


 エイミーにとって僕とアストル、どちらの妾になるのがより幸せなのかは分からないが、彼女の父親にとっては『王家御用達』の看板を掲げることができる分、第二王子である僕との繋がりを持つ方が絶対に得だからな。


 商売を生業とする者として、その辺りの計算が早いのは流石だ。


「とはいえ、僕はまだ正妃を迎える前ということもある。このことは僕とお前だけの秘密にして欲しい」


 もしこれが僕の父親である国王にバレたら「正妃を娶る前に妾を迎えるなど、どういうつもりだ!」と拳が飛んできてもおかしくはない。


 父上も兄上も頭は良いのだが、すぐに手が出るのが玉に瑕なんだよな。


 まぁ誰しも欠点というものはあるし、僕も甘んじて殴られる気はないので、三回のうち二回ぐらいは躱しているが。


「それでですね、あのぅ……大変申し上げにくいのですが、持参金の用意がなく……」


 エイミーの父親が、恐る恐るといった態でそんなことを口にしてくる。


 ああ、そうか。


 相手が平民だったから、アストルは持参金を免除していたんだな。


 入り婿のくせに持参金なしで愛妾を迎えるなど、どこまでクロディーヌを馬鹿にするつもりなんだと憤るが、最終的に迎え入れを拒否したとなると……最初からそうするつもりだったのか? とも思う。


 結婚してから愛妾として迎え入れることを約束し、持参金まで用意させたとなると──いくら相手が平民とはいえ、拒否した時の外聞が悪すぎるからな。


 最悪、弄んだと騒がれかねない。


 だが持参金の用意をしていなかったのなら、結婚前の火遊びとしてギリギリ言い逃れもできる。


 だとしたら、何故あいつは初夜の前に愛妾宣言などをしたのか。


 最初から愛妾を迎える気がなかったのならば、わざわざ余計なことを言って初夜を遠ざけなくとも良かったような気もするが。


「こればっかりは、本人でないとハッキリしないな……」


 エイミーも、次期侯爵邸に潜ませた影も同じことを言っていたから、アストルがクロディーヌに愛妾宣言をしたことは間違いない。


 そして、それにより二人の間には、今までに一番深いといっても過言ではないほどの溝ができていることも知っている。


 付け入るなら、今が絶好の機会だ。


「……よし!」


 気合いを入れ、僕は立ち上がった。


 そのまま応接室を出ようとすると、何者かに足元へと縋り付かれた。


「お、お待ち下さい! 持参金の話がまだ……」


 縋り付いて来たものを振り払おうとした僕の視線の先にいたのは、エイミーの父親だった。


 そうだ、エイミーの父親の存在をすっかり忘れていた。


 一つの考えに集中しだすと、つい周りが見えなくなるのが僕の悪い癖だな。


「持参金は必要ない。お前は速やかに家へと帰り、後日御用達の看板が届くのを楽しみに待て」


 臣籍降下のことを考えると、金は有るに越したことはないが、今は極力怪しまれるような行動は慎まなければならない。


 故に、この話は一旦保留だ。


「ありがとうございます! そうさせていただきます!」


 嬉しそうに言うと、エイミーの父親はさっと僕の足から離れ、足早に部屋から出て行く。


 勝手に娘の嫁ぎ先をすり替えてしまったが、王家御用達の看板一つで頷いてくれて良かった。


 此方としても事を荒立てたくはないし、もう既に処女を奪ってしまった後だから、返せと言われて返せるものでもないし。


 今までに味見をした何人かの令嬢は、事を為した後魔術師の元へ連れて行き、処女の証を修復させて家に帰らせたが、エイミーの身体は僕の見立て通り過去最高だったから、自分の腕の中へ囲い込むことに決めたのだ。


 あとはクロディーヌさえアストルと別れさせ、ヒースメイル次期侯爵家にエイミーを連れて臣籍降下すれば、一先ず僕の目的は達成される。


 チラ、と部屋に備え付けられた時計に目をやり時間を確認すると、僕は行き先を次期侯爵邸ではなく、自らの自室へと変更した。


 女を抱いた後は男の色気が滲み出るというから、エイミーを存分に可愛がってからクロディーヌのところへ行った方が良いかもしれない。


 僕が醸し出す男の色気にクロディーヌがメロメロになれば儲けものだ。


 そんなことを考えながらエイミーの待つ私室へと向かう僕の足取りは、羽根のように軽かった。


 


 


 


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