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第三十二話 エイミーの苛立ち

 一体どうなってるの? 本当に信じられない!


 何が何でも愛妾として侯爵家に入り込んでやろうと直接押しかけてやったのに、追い出されるってどういうことなの?


 これじゃあ昨日私がわざわざ王宮まで行って、第二王子に告げ口した意味がないじゃない!


 怒りに任せて足を踏み鳴らしながら、私は王宮へ向かって歩く。


 侯爵家から王宮までは距離があるけど、我が家はそれなりにお金持ちだから辻馬車を拾うことだってできるし、なんなら家に帰れば専用の馬車もある。


 ただ、お金に困ったことがないだけで贅沢とは無縁な暮らしをしてきたから、贅沢三昧な貴族の暮らしっていうやつにもの凄く憧れてはいるのよね。


 自分の世話は全てメイドがやってくれて、毎日美味しいものを食べて、茶会や夜会でお喋り三昧──なんて素敵なんだろう。


 しかも、働く必要は全くなくて、やる事といえば教会のバザーに出すハンカチを刺繍するだとか、読書をするだとか、そんな楽なことばっかりで。


「生まれが平民なのか貴族なのかが違うだけなのに、不公平よね……」


 いくら貴族に生まれたとしても、アストルみたいに家を継げずに平民となったり、どうしようもないやらかしをして廃嫡、勘当、平民まっしぐらとなる人達も当然いるけど。


「それでも子供のうちは楽して生きられるんだから、やっぱり不公平だわ」


 私のような平民が楽しようと思ったら、お貴族様に養子として引き取ってもらうか、愛妾にしてもらって貴族へと引き上げてもらうしかない。


 貴族の仲間入りをするうえで絶対に必要となるのは礼儀やマナーといったものらしいのだけど、平民は普通そういった教育は受けないから、どんなにお貴族様と愛し合ったとしても、正妻にはなれないんだって。


 代わりに『お飾りの妻』というものがあるらしいから、クロディーヌさんには、それになってもらう予定だったんだけど……。


「今更『やっぱり妻を愛しているから、愛妾の話は無かったことにして欲しい』ですって!? あんたがクロディーヌさんを愛してるなんてこと、最初っから分かってるのよ! だから第二王子を焚き付けてアストル様を怯ませようと思ったのに……なんで余計に燃え上がってるわけ? 第二王子は何を余計なことしてるのよ!」


 脳裏に浮かぶのは、侯爵家の奥へと押し入った時に見た、アストルがクロディーヌさんを抱きしめている姿。


 好きな人を逃がさないよう懸命に縋り付いているかのようで、あれを見た瞬間、怒りが爆発した。


「冗談じゃないわ。何の為に私が今まで可愛こぶってアストルの側にいたと思ってるの? アストルに狙いを定めたから、他の貴族令息の誘いは全て断ったっていうのに……」 


 こんなことなら、一人や二人残しておけば良かった。


 アストルに執心し、彼の愛妾になれると確信した時点で、私は一応キープしていた他の令息達に別れを告げてしまっていたから。


 だってアストルの愛妾になるとしたら、私に対して何らかの調査が入る──腐っても公爵家三男だから──と思ったし、その時に他の男性との付き合いがあれば、愛妾として失格の烙印を押される危険があると思って。


 なのにまさか『妻を愛しているから』なんてふざけた理由で愛妾になるのを断られるなんてあり得ない!


 どこぞの令息なんて「妻は離れに追いやるから、本邸で僕と一緒に暮らそう」とまで言ってくれたのよ!?


 なのにどうして!? 


 本命のアストルだけが思い通りにならないのは、なんでなの!?


 仲良くなり始めた際の手応えは、彼が一番ハッキリと感じられたのに。


 辻馬車を拾い王宮まで行くように告げると、私は座席に深く腰掛けて目を閉じた。


 もうこれ以上私一人じゃどうにもならない。


 悔しいけど、もう一度第二王子のところへ行くしかないわ。


 一昨日話した感じだと、彼はかなりクロディーヌさんに執着しているようだった。


 ただ、クロディーヌさん本人に執着しているのか、彼女が継ぐ爵位に執着しているのかまでは判断がつかなかったけど。


 どちらにしろ、平民の私ではできることが限られてるし、あとは第二王子に頑張ってもらうしかないわね。


 せっかく私があの二人の結婚について情報提供してあげたっていうのに、あの男、何をグズグズしてるのかしら。


 そういえば、今日はなんとなくクロディーヌさんの歩き方がおかしくて、気怠げだった。


 まさかあいつ、クロディーヌさんに嫌がらせをして風邪を引かせたとか言わないわよね?


 流石にそれはないか……と思うものの、彼女が寝込んだら、それはそれで好都合だとも思う。


 気弱なアストルじゃ強気な第二王子の口撃に勝てるわけないし、いっそのこと彼女が寝込んでるうちに、アストルをやり込めてもらおうか。


 そして、あわよくば離縁まで……。


 アストルが独り身になったら私が彼の愛妾になることはできなくなってしまうけど、そうしたらもう彼を私の家に引き取ってしまおう。


 ストライナ公爵家だって、自分の家の息子が嫁いだ家ならば商会として贔屓してくれるだろうし、それならきっとお父さんも満足する筈。


 貴族としての贅沢三昧な暮らしはできなくなってしまうけど、私の分までアストルに働いてもらえば、それなりに楽はできそうだし。


 馬車の中で自分の将来設計を組み直し、第二王子になんて文句を言ってやろうかと考えながら、私はひっそりとほくそ笑んだ。


 






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