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あなたなんて、もう知らない  作者: 迦陵れん


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第二十三話 第二王子の望む未来

「くそっ、くそっ、くそっ!」


 王宮へ帰るためクロディーヌの邸から出た僕は、怒りのままに汚い言葉を連発しながら馬車へと向かい歩いていた。


 第二王子たるこの僕に、あんな態度をとるなんて信じられない。


 見た目も中身も家格も、構成する全てにおいて僕の方があの男より勝ってるのに、クロディーヌの夫であるというだけで、あんなにも偉そうな態度をとりやがって。


「絶対に後悔させてやるからな……」


 どんな嫌がらせをしてやろう? と、考えを巡らせながら馬車に乗り込む。


 そもそもクロディーヌとの初顔合わせの場で、あの男が選ばれた時からあいつのことは気に食わなかったんだ。


 たかが公爵家三男というだけの分際で、王子たる僕を差し置いてクロディーヌの婚約者に選ばれるなんて!


 それでも最初は、選んだのが八歳の女の子であることだし、王族は政治的な意味合いから選ばないよう親に言われていたのかも? などと考え、選ばれなくても仕方ない。元々そんなに好みの顔じゃなかったし。なんて考えたりもしていた。


 だが。だがしかし。


 僕の産まれた年が悪かったのか、いざ僕が自分の進路を決めた時、臣籍降下するのに見合う家格の家は、ヒースメイル侯爵家しかないのだと父上に知らされた。


 その他の公爵家や侯爵家にはどこも後継となる嫡男がいて、女当主となるのはクロディーヌのみ。


 それ以外なら家格を落とすか、十歳下まで結婚相手の年齢を広げるかしかないと言われた僕は、絶望するしかなかった。


 無論自らが公爵となることも考えなかったわけではない。


 しかし、領地経営の仕方など学んだこともない僕が、ポッと出の公爵になったところで領地を治めていける筈もないし、僕に適した伴侶を迎えるとなると……熾烈な争奪戦が繰り広げられるであろうことは想像に難くなく。


 ただでさえ超絶美形である僕が、公爵の地位を引っ提げて嫁取りをするのだ。


 既に婚約者がいる、いないに関わらず適齢期である令嬢はもれなく目を血走らせるだろうし、もしかしたら婚姻している令嬢達まで参戦してくるかもしれない。最悪、離婚をしてまでも……。


 そんなことをされても責任なんか取れないし、そのような不毛な争いに巻き込まれるのはごめん被りたかった。


 かといって、公爵となって独り身というわけにはいかないため、その案は即却下したのだが。


 そうなると、残るは成人してからも王子として王宮に残り、兄上の補佐として仕事をしながら生きていく道しかなくて。


 幼い頃より誰よりも何よりも優先され、可愛がられてきた僕が。父上、母上は勿論のこと、兄上にさえ叱られたことのない僕が、今更兄上の補佐として生きていくなど、何の冗談だと思えるぐらいに無理な話で。故にそちらも当然の如く却下となり。


 だからといって降下先が伯爵家では、夜会や舞踏会など様々な場面で他の貴族家に舐められるだろうし、十歳も下の少女と婚約したところで、その子が成人となる十年先までの長い間、婚約関係を続けなければならない。


 父上などは「十歳も歳下の嫁を貰うなど、周りに羨まれて大変だぞ」と仰っていたが、十年あれば人の見た目は変わるのだ。


 十年の歳月で僕などは益々見た目に磨きがかかったが、ストライナ公爵家のアストルは、十年の間に益々冴えない、野暮ったい男となった。


 そして、大して可愛くもないと思っていたクロディーヌは……十年でとても美しく成長した。


 言わせてもらえば、女性として最も大切な()()()()が発展途上なのは、非常に残念であるけれども。


 そういったことを鑑みると、今可愛くても、十年後も可愛いままという保証はどこにもない。反対に、今不細工でも十年後に可愛くなっている可能性もないとはいえない──が、そのまま不細工な場合も当然あるわけで。


 僕としては、そんな一か八かで伴侶を決めるのは嫌であったし、何より僕は……僕は……年頃の男だった。


 男女の営みというやつに、当然ながら少なくはない興味を持っている。


 とはいえ僕は王族だし、権力に釣られるような尻軽を相手にするわけにはいかない。


 今まで被り続けてきた『品行方正』の仮面を、間違っても剥がされるわけにはいかないのだから。


 そういうわけで、成人すると同時に都合の良い遊び相手を探して続けてきたのだが……未だその相手すらも見つけられずに。


 だがまぁ仕方ない。


 王族と繋がりを持ちたくない貴族なんて普通はいない。


 だからどんなに「勘違いするな」と言い聞かせても、ほんのちょっと優しくしてやっただけで「第二王子は私に気がある」だの、「見初められた」だの、酷い時には親まで連れて王宮へと押しかけてくる。


 そんな令嬢ばかりしかいないのに、火遊びなんてしようがないのだ。


 かといって、王子の僕が娼館へ行くなどありえないし、王宮にそういった女を呼ぶのも『清廉潔白』な僕のイメージが壊れるだろうしで、どうにもしようがなく。


 悩みに悩んだ僕は、結局クロディーヌで妥協することにしたのだ。


 家格、性格、見た目、その殆どにおいて文句の付けようのないクロディーヌ。


 彼女であれば、何の問題もなく、安泰の未来を手に入れられる。


 ただ一つ、絶壁のような胸だけはどうにも受け入れ難く、そのせいで無駄に悩む羽目になったが。


 実は押さえつけて小さく見せてるとか、成長期がまだ来ていないとか……前向きな可能性を懸命に考えてみたが、現状を変えられない以上、そこは涙を飲んで諦めた。


 僕が望む未来を手に入れるためには、クロディーヌの婿となるのが絶対条件なのだから。









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