第二話 あなたなんて、もう知らない
「まぁ……取り敢えず言いたいことは分かりました。」
と言いつつ、本当のところよく分かっていないんだけど、あんまりグダグダしていても無駄に時間が過ぎてしまうし、さっさと次にいかないとね。
「では次に、私を愛さない理由をお聞かせいただけますか?」
「は?」
途端に、夫の瞳が驚いたかのように見開かれる。
いやいや、なんでそこで予想外のことを聞かれた──みたいな顔して驚くのよ。
結婚したばかりの新妻を愛さないなんて言うからには、理由を聞かれるのが当然でしょ。
婚約者時代の夫の私への対応は完璧といっても差し支えないものだったから、好きだの愛してるだのといった直接的な言葉を言われたことはなかったけれど、そう思われていると信じてしまうぐらいには、彼からの愛情を日々の態度から感じていたのよ?
なのにどうして今になって? と尋ねたくなるのは当然といえば当然でしょう。
逆にどうしてそれを聞かれないと思ったのか、此方が質問したいぐらいよ。
夫がこんなに頓珍漢な人だったと結婚前に知れていたら、絶対に結婚なんてしなかったのに。今となっては完全に手遅れで、私はため息を吐くしかない。
仕方なくもう一度同じ質問を繰り返すと、夫は何故か迷う素振りを見せ、暫く考え込んだ後、やがて自棄になったように声をあげた。
「俺は貴族として、結婚後は愛妾を持つつもりだったんだ。相手は既に決まっている。君の完璧な婚約者を演じ続けている間、疲弊した俺の心を常に癒してくれた女性だ。彼女がいなければ、俺達の結婚は途中で破談になっていたかもしれない。つまり、君にとっても恩人だ。だから俺は彼女を愛妾に迎え、君を愛するつもりはないと決めた!」
へえ~……なるほどね。
つまり私達がこうして結婚まで無事に辿り着くことができたのは、あなたの心を癒やし続けた彼女のお陰と言いたいのね。
その彼女がいなければ破談になるような縁談だったら、いっそ破談になってた方が良かったような気がするんだけど。
だってつまりそれって……私と結婚する前から、夫と彼女は繋がりがあったということを示しているのだから。
まさか、身体の関係はないと思いたいけれど……さすがに聞く勇気はない。
せめて初夜の後にこの話をしてくれていたら、まだ救われたのに。
たとえ夫に私を愛するつもりがなくとも、今後夫婦としてやっていく気があるということは、当然ながら私と子作りをしないといけないわけで──だったら幸せの絶頂である筈の結婚初夜を、こんな話で台無しにする必要はこれっぽっちもなかったと思うのよ。
君を愛せないから、白い結婚を……とか何とか言うつもりだったら、このタイミングで良かったと思う。寧ろこの時しかないと思うぐらいベストなタイミングだ。
でも、これから子作りをしなければならないというのに、しかも初めてで緊張しているこの時に、そんなこと言って台無しにしなくても良くない?
これはもう一般常識に欠けるというより、デリカシーの問題よ。
なんでこんなデリカシーのないやつに、初恋を捧げちゃったのよ、私!
とはいえ、だからといって簡単に冷めるような気持ちでもないのが心底腹立たしい。なんといっても年季が入ってるから。私の気持ちには。
気付いた時には彼のことを好きになっていたから、何年越しかは分からないけれど。
冷めるものなら冷めて欲しい。その方が割り切れる。
でも、現実はそう上手い具合にいってはくれない。
「だからつまり、なんで今こんなことを言い出したのかと言うと、今日は初夜だけど取り敢えず──」
夫が未だに何か喋っているけど、もう彼の言葉に耳を貸す気のない私は、彼の声を意識から遮断していた。
貴族は愛のない政略結婚が普通と言われる中、数少ない恋愛結婚としてお友達に羨まれていた私の気持ちを台無しにする、あなたなんて。
子作りは義務だと分かっていながら、わざわざ初夜に問題発言をして私を傷付けるデリカシーのない、あなたなんて。
もう、知らない──。