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異界は今日も群青色  作者: 新月 乙夜
篝火

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「ところで一つ聞いておきたいことがあるんですけど……」


 聞き取り調査が終わると、颯谷はすぐに退席せず、おもむろにそう切り出した。担当官が「なんだい?」と聞き返すと、彼はこう続ける。


「今回いろいろと仙具、まあつまり武器を手に入れたわけなんですけど、それってどうやって持ち帰ればいいでしょうかね?」


「ああ、そうか……。桐島君は東北だもんね」


「飛行機は、やっぱりマズいですよね」


「難しいかもしれないねぇ」


 担当官にそう言われ、颯谷は難しい顔をした。これが九州なら自分で運ぶなりいくらでも手はある。だが東北となると、少なくとも自分で運ぶのは無理だろう。となると誰かに運んでもらうことになるわけだが、一般の輸送業者に頼んで良いモノなのか。彼にはちょっと分からなかった。


「桐島君は、これからもう帰宅するつもり?」


「いえ。今日は基地に一泊して、明日帰るつもりです」


「なら、それまでにちょっと上の方に問い合わせてみるよ」


 担当官がそう請け負ってくれたので、颯谷は彼に頭を下げて礼を言った。聞き取り調査が行われた部屋をあとにすると、颯谷は最初にあてがわれた宿舎へ向かう。そして部屋でゴロゴロしながら明日の飛行機の予定を確認したりしていたのだが、そんなときに外からノックの音が響く。ドアを開けてみると、そこにいたのは岩城浩司だった。彼は少し言いにくそうにしながらこう切り出した。


「桐島、少し相談したいことがある。その、仙具のことで」


 ともかく颯谷は彼を部屋に入れた。そしてイスを勧めて話を聞く。彼の相談というのは、要するに仙具を譲ってくれないか、ということだった。ただし仙具を欲しがっているのは彼ではなく征伐隊の他のメンバー。どうやら浩司は彼らを代表してこの話を持ってきた、もしくはリーダーとしてこの役を押し付けられたらしい。


「もちろん相応の金額を支払う。虫のいい話だとは思うが、何本か考えてくれないか」


「虫のいい話なんですか、これって?」


「……一級の仙具、特に武器が金銭で売り買いされることはあまりない。次にいつ手に入るか分からないし、そもそもお金で買えるものではないからだ。だから仮に金銭で手に入れるとしたら、よほどのコネが必要だ」


 一番可能性が高いのは親戚関係だろう。武門同士の繋がりというのは、こういう時のためにもあるのだ。別のケースだと、例えば長らく交流のある流門や同じ地域の武門。いずれにしても十数年単位で付き合いがあることが前提になる。


 だが今回、颯谷と征伐隊のメンバーの間にそういう繋がりはない。そもそもホームグラウンドが違うわけで、「彼らの戦力を強化することが、巡り巡って颯谷の利益になる」と考えるのもちょっと無理がある。ただ肝心の本人は首をかしげてさらにこう尋ねた。


「でも同じ異界を征伐したわけですし、こういう調整はあり得ると思ってたんですけど」


「調整はするが、それでも親しい武門や流門同士でやるんだ。ある種の貸し借りだしな、コレは。そもそもこの業界は狭い。全く縁のないヤツなんていないんだよ、普通はな」


 浩司が苦笑しながらそう言うと、颯谷は肩をすくめて答えた。今回の件で言えば、征伐隊に加わっているのは九州や中国地方、四国の能力者たち。颯谷の場合、彼らに貸しを作ってもそれを返してもらうアテがない。貸し倒れになる可能性が高いわけで、だからこそ浩司も「虫のいい話」と言ったのだ。


「なるほど……。ところで貸し借りってことは、お金じゃなくて何か頼み事でもいいんですか?」


「構わないぞ。もちろん『できる範囲で』になるが。……東北の征伐に協力してくれというのは、ちょっと無理な範囲かもしれんが……」


「いやさすがにそこまでは……。ちょっと待っててもらえますか?」


 そう言って颯谷はスマホを片手に部屋の外に出た。そして連絡帳を開いて電話をかける。相手はすぐに出た。駿河剛である。彼は開口一番にこう言った。


『颯谷か!? 無事か!?』


「タケさん。はい、無事です」


 心配してくれる剛をなだめつつ、颯谷は今さっき思いついた提案について彼に相談する。彼は少し考えてからこう答えた。


『……ウチとしてはありがたい限りだが。颯谷はそれで良いのか?』


「はい。質のいい防具をお金で買えるようになるなら、そっちの方が興味あります」


『分かった。では頼む。こちらも受け入れの準備をしておこう』


「お願いします」


 そう言って颯谷は電話を切った。剛と、いや駿河家と話をつけると、彼は部屋に戻る。そして待たせていた浩司にある提案をした。


「……それは、こちらとしては助かるが。しかし君にメリットがあるのか?」


「ヌシが持っていた分は譲りませんよ。でも、それだけあれば十分ですから」


「分かった。ではそうさせてもらおう」


 話をまとめると、浩司は颯谷を連れて基地内の車両格納庫へ向かう。そこに今回の異界で征伐隊が手に入れた仙具が一時保管されているのだ。国防軍に預けた颯谷の分もここに保管されている。


 車両格納庫には征伐隊のメンバーも集まっていて、和やかに話している者たちもいれば、真剣な表情で何やら交渉している者たちもいる。浩司はパンパンと手を叩いて彼らの注意を引いてからこう話し始めた。


「桐島君が手に入れた分の仙具だが、彼の厚意で幾つか譲ってもらえることになった。ただ金銭ではなく頼みたいことがあるそうだ」


 そう言って浩司は颯谷に視線を送る。彼は一歩前に出て、こう話し始めた。


「ええっとですね、仙樹を回収して欲しいんです」


「仙樹?」


「はい。異界のフィールドが解除されてもう枯れているでしょうけど、幹なんかはまだ無事なはず。それを回収して静岡県の駿河家のところまで送ってください」


 それが彼の腹案だった。それを思いついたきっかけは、いうまでもなく仙樹由来のセルロースナノファイバーを使った防具である。剛が用意してくれたその防具は、試作品とはいえ大いに役立った。特にヌシ戦では、これがなかったらどうなっていたか分からない。


 今回は試作品でボロボロになってしまったが、だからこそ彼が正式な製品を欲しいと思ったのは当然だろう。ただそのためには大きな問題がある。仙樹を素材としている関係上、作ろうと思ってすぐに作れるようなシロモノではないのだ。作るためにはまず素材を調達しなければならない。


 そして実際にやろうと思うと、これはなかなか面倒である。今回のケースで言えば、異界はすでに征伐済み。しかも巻き込まれたのは市街地なので、仙樹が生えたのはほとんどが私有地だ。つまり枯れてしまっているとはいえ、それら仙樹の所有権はそれらの土地所有者にある。


 要するに、勝手に持っていくわけにはいかないのだ。一軒ずつ回り、一本ずつ話をつけて伐採し、輸送の手はずを整える。考えただけで面倒くさい。というか颯谷にはそれをやっている時間がない。ただでさえ、これから勉強の遅れを取り戻さなければならないのだから。


 だが質のいい防具は欲しい。それで、颯谷は仙具を譲る対価としてそれをやってもらおうと考えたのだ。そして駿河家にその仙樹を送り、セルロースナノファイバー化した上で防具を作ってもらうのだ。


 ただそれだけだと颯谷のいわば持ち出し分が非常に大きくなる。それで単純に防具を作ってもらうだけでなく、事業そのものに一枚噛む形になった。これは剛の提案だ。新事業の会社が設立されたあかつきには、その株式の何割かが颯谷の持ち分となる。


 もっとも会社の設立どころか事業が成立するのかさえ、現時点では不透明。だから言ってみれば、これは投資だ。そして投資であるから、もしかしたらお金(仙具)をドブに捨てるような結果になってしまうかもしれない。


 とはいえ、そもそも仙具はたくさんあってもどうせ使わない。死蔵することになるのなら、こういう形で有効活用しようと思ったのだ。ただもちろん、手に入れたすべての仙具を対象にするつもりはない。


「ヌシがドロップした分以外は、相談に応じますよ。武器一本につき、仙樹二本でどうですか?」


 颯谷がそう提案すると、「おお」とどよめきが上がった。格安と判断されたらしい。むしろ「貰いすぎだ」と言われ、ならばと武器以外の仙具を幾つかつけてもらうことにする。


「それでもまだ貰いすぎだなぁ……」


「本当に良いのか? モノによるが、一振り一億なんてことも珍しくないんだぞ?」


「んぐ……っ、だ、大丈夫です。男に二言はなしです。……貰いすぎだと思うなら、そのまま貸しにしときます。いつか利子付きで返してもらうんで、覚悟しといてください」


「そいつはおっかねぇなぁ」


 苦笑の混じったざわめきが広がる。ともかくこれで話はまとまった。誰がどの仙具を選ぶのかは、武門や流門の都合もあるということで、颯谷はノータッチにしてそれぞれで相談してもらうことにする。その間に彼は武器以外の仙具を選ぶことにした。


「コレとコレと、あ、コレも……」


 茶釜、荒縄、巻物、屏風、簪、脇息、矢筒(矢無し)などなど。目についたモノを選んでいく。駿河家でも色々と見せてもらったが、なるほどこうして手に入れたものらしい。ただ疑問なのは仙具とは言え当面使い道のないモノをどうしてわざわざ回収してくるのか。それを浩司に尋ねてみると、彼は首をかしげながらこう答えた。


「君も、こうして使い道のない仙具を選んでいるじゃないか」


「……なるほど、そうですね」


 颯谷は大いに納得した。役に立つかはともかく、欲しくなっちゃうものなのだろう。そして彼は今まで気づかないフリをしていた問題に触れる。


「……ところでアレはいいんですか?」


 そう言って颯谷が窺うように視線を向けた先では、征伐隊のメンバーたちが譲ってもらう仙具を巡って喧々囂々にやり合っている。まだ誰も手は出していないが、それでも何かきっかけがあれば大乱闘が始まってしまうのではないかと思える雰囲気だ。だが浩司は肩をすくめてこう答える。


「言っただろう、武門や流門の都合でいろいろある、と。つまり征伐隊としての問題じゃない。管轄外だ」


 そうシレッと、彼は無関係を宣言した。颯谷は「ええ~」と思ったが、かといって彼もあそこに割って入って仕切ろうとは思わない。というかモンスターと戦っている時より殺気立っているってどういうことだ。彼はそっと目をそらして武器以外の仙具の物色を続けた。ただ後ろからはいろいろと聞こえてくる。


「イヤだ、この太刀は俺んのだ! この長さと重さと反りがオレの体形にジャストフィットなんだ!」


「オレのほうが身長が二センチ高い! よってオレの方が似合う!」


「あ、こら、人の槍を勝手に持っていくんじゃない! 唾も付けるな!」


「てめぇ、小太刀なら許されると思うなよ!?」


「本家に一本取られたんだ! いやまあ返しただけなんだけど……。だから俺に二本くれ!」


 冷静な立場だとツッコミたい発言が多々あったが、断固ノータッチである。幸い、殴り合いには発展せず、時間がかかると思われた話し合いは三十分ほどでまとまった。意外と早かったな、というのが颯谷の感想である。


 今回彼が提供することにした武器の仙具は全部で十七本。仙具を手にした十七人から、颯谷は名前と住所と連絡先を教えてもらう。あとでリスト化し、駿河家に送るのだ。誰が仙樹を送ってきたのか、その確認に使ってもらえるだろう。


「ところで桐島君。聞いておきたいことがあるのだが」


「なんでしょうか?」


「仙樹を送るのは分かったが、一本丸ごとの状態で送るのかね? それとも適当な大きさに切ってしまっていいのかな?」


「ちゃんと二本分だと証明できるなら、適当な大きさに切り分けても大丈夫ですよ」


「なるほど。了解した」


 その後さらにいくつかの質問に答え、颯谷が選んだ武器以外の仙具を確認してもらい了承を得る。それで異界内で得た仙具の割り振り調整が終わったのだった。


 今回、颯谷が手に入れたのは、ヌシがドロップした武器が八つと、武器以外の仙具が全部で十個。矢が四本あったのだが、これは誰も持って行かなかったようで、そのまま彼の取り分となった。


「ちょうどいいから矢筒に入れておこう」


 空だった矢筒に矢を入れる。「見栄えがするようになった」と思い、颯谷は一つ頷いた。弓がないことに気付いたのは、家に帰ってからのことだった。


 ちなみにどうやって持ち帰るかだが、これは国防軍が手配してくれることになった。木箱にまとめて梱包して発送してくれるという。輸送自体は民間企業に頼むそうだが、送料は着払いと言われた。


「いや~、良かった良かった。これで明日は帰るだけだな」


 懸念が解消され、颯谷は笑顔を浮かべる。そして翌日、彼は飛行機で東北へと飛ぶのだった。


剛「ところで颯谷のヤツ、木蓮には連絡したんだろうな」

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― 新着の感想 ―
戦闘記録を動画に収めたら後々役にたつと思うのですが、そういうのはまだ未発達な時代なのでしょうか
正直木蓮は影が薄い……というか今の所トロフィーでしかないというかだから忘れられても仕方ないw ヒロイン枠なんだけどいなくても本筋にあんま関係ないからなぁ オンリーワンの何かを持つかヒーラー覚醒して征伐…
[一言] やべえ木蓮に連絡してないじゃん。木蓮泣いちゃうんじゃね。
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