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異界は今日も群青色  作者: 新月 乙夜
皇亀後の日常

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検品と依頼


 国防軍が仁科刀剣に製作を依頼した刀は全部で七振り。仁科刀剣は颯谷に協力を依頼し、彼らは二日かけてそれらを打ち上げた。それからおよそ十日後。完成品となった刀が仁科刀剣に戻って来た。


 その連絡を貰い、颯谷は大学が終わってから仁科刀剣に向かった。依頼品を国防軍に引き渡す前の、「検品」に協力するためである。まあほとんど建前で、好奇心が先行しているのは否定しないが。とはいえちゃんと妖狐の眼帯も持ってきている。


 車を停め、仁科刀剣の母屋のベルを鳴らす。迎えに出て来てくれたのは宏由だった。俊はまだ学校から帰ってきていないという。颯谷は一つ頷いてから、彼に案内されて客間へ向かう。客間にはすでに七振りの刀が並べられていた。


「来たか。よろしく頼む」


「こちらこそ。楽しみにしてきました。……清嗣さんは、もう一通り氣を通してみたんですよね。どうでしたか?」


「かなり良い、と思う」


 颯谷の問いかけに、清嗣はそう答えた。彼の言葉には自負が浮かぶ。きっと氣の通り具合だけでなく、刀そのものの出来も上々だったのだろう。ハンマーを振るった人間として、颯谷はちょっとホッとした。


 清嗣に一つ頷きを返してから、颯谷は改めて並べられた刀に視線を向けた。刀はそれぞれ長細い袋に収められている。そしてメモ用紙だろうか、1~7の番号が書かれた紙が貼りつけられていた。


「この番号は何なんですか?」


「ああ、それはね、仕事を受ける時に素材に番号がついていたんだ。その番号だね。たぶん向こうでいつどこで手に入れたドロップなのか、管理しているんじゃないかな」


 お茶を淹れて来てくれた宏由の説明を聞いて、颯谷は「なるほど」と納得する。確かに皇亀のドロップを使って刀を打っても、納品される時に他と混じってそれと分からなくなってしまっては国防軍としても困る、ということなのだろう。


「さて」と呟くと、颯谷は懐紙を噛む代わりにマスクを付けた。目元には妖狐の眼帯も装着する。絵面的には立派な不審者だが、それはそれとして。“検品”の準備を整えると、颯谷はまず一番の刀から手に取った。


 長細い袋から取り出し、ゆっくりと鯉口を切る。そしてスルリと鞘から刀を引き抜いた。刃文は書道家が勢いよく筆を走らせたかのようで、真っ直ぐだが豪快だ。優美な反り、切っ先の鋭さも含めて、ゾッとしつつも目を離せない。


(さすが……)


 颯谷は心の中でそう呟いた。自分がコレを打つ作業に関わったということが、我が事ながらちょっと信じられない。彼は決して刀剣類の専門家ではないが、これが名品であることははっきり分かる。


 とはいえ、今日見るべきポイントはそこではない。鑑賞はほどほどにして、颯谷は刀にゆっくりと氣を流し始めた。滑らかな手応えで、氣はスルスルと流れていく。その塩梅はもう二級の域には収まらないように思えた。


「どうだ?」


「一級相当、と言って良いと思います」


 颯谷がそう答えると、清嗣は「うむ」と呟いて大きく頷いた。彼の体感も同じ評価だったのだろう。そしてそれは妖狐の眼帯を介して可視化した氣の流れる様子からしても妥当に思えた。


 ただし一級の中でも上の方、というわけではない。むしろ真ん中より下に思える。例えば阿修羅武者のドロップと比べると、その差ははっきりとしている。同じ一級品ではあっても、やはり格の差というのがあるのだ。


(でもまあ、十分スゴイだろ、これ……)


 颯谷は心の中でそう呟いた。少し前まで、一級仙具を素材にして人が作った仙具というのは二級が限界だった。つまりどうやっても一級には届かなかったのだ。それがこうして一級へ届くようになったのだから、これはもうブレイクスルーと言って良い。


(それに……)


 それに、先ほども言ったように同じ一級仙具であっても格の差は存在する。つまり今回のケースで言えば、土塊人形ゴーレムのドロップと皇亀のドロップでは格が違うはずなのだ。今回、皇亀のドロップを使ったのかは分からない。だが皇亀がドロップした天鋼、これはさらに格が違うはず。打ってみたい、と颯谷は思った。


 それから颯谷は妖狐の眼帯を清嗣に渡し、彼も氣が流れる様子を確認した。そうやって一番の「検品」が終わると、颯谷は刀を長細い袋に戻す。そして次に二番の刀を手に取って、同じように「検品」を行った。


 七振りの中に、阿修羅武者のドロップに比肩できるような品質の物はない。それでも七振り中六振りは文句なく一級相当と言って良い。残る一振りは颯谷と清嗣で意見が分かれた。颯谷は迷った末に「一級に近い二級」と評価し、清嗣は「ぎりぎり一級」と評価した。


「ふむ……。一振りは評価が分かれたが、それでも出来が悪いわけじゃない。依頼主にも十分満足してもらえるだろう」


 最後に清嗣がそうまとめる。颯谷も頷いて同意した。「満足してもらえる」ということは、いい仕事をしたということ。清嗣からそれを認めて貰えて、彼は嬉しかった。それに、これは次に繋がる仕事だ。


 今回、仁科刀剣に任された素材の量は、国防軍が入手したドロップの全体量からすればほんの一部のはず。もしかしたら二度目、三度目の依頼があるかもしれない。そう思うと、颯谷は少し腕がうずいた。


「あ、そうだ。仁科刀剣って、前に大学との共同研究で天鋼の合金を作ったって話あったじゃないですか」


「ああ、そんなこともやったね。それがどうかしたのかい?」


「混ぜるのが普通の金属じゃなくて、それこそ一級仙具だったらどうなるのかなって、ちょっと思ったんですよ」


「それは確かに気になるけど……。まさか……」


「近々オークションがあるので。目星をつける参考に、実験結果をまとめた資料みたいなのがあったら見せてもらいたいな、と」


「う~ん、ウチが協力したのはあくまでも作刀作業に関してだからなぁ……」


 宏由は苦笑を浮かべながらそう答えてから、清嗣のほうへ視線を向ける。それを受けて彼はこう続けた。


「前にも見せたが、サンプルは残っている。ただ我々が気にしていたのは氣の通り具合だし、それは数値化できないからな。あくまで私の体感だ。資料がないわけではないが、すでに見せた以上の物はないな」


「合金の、金属としての評価は大学のほうでやっていたから。そっちに関してはウチにはないなぁ」


「ああ、なるほど……」


「共同研究していた大学と研究室の名前なら教えられるけど、どうする?」


 宏由がそう言ってくれたので、颯谷はありがたく教えてもらった。ちょうどそのタイミングで俊が学校から帰ってくる。颯谷は冷えてしまったお茶を飲み干して立ち上がり、俊と入れ替わりで仁科刀剣を後にした。


 家に帰ってから、颯谷は教えてもらった大学を検索してみる。大学のホームページはすぐに出てきたし、その中には仁科刀剣と共同研究を行った研究室の紹介ページもある。ただその中に颯谷が知りたいと思っている実験の資料はなかった。


 予想はしていた。ただその一方で「面倒だな」とも彼は思った。連絡先も教えてもらったから、連絡を取ることはできる。ただ見ず知らずの相手にいきなり電話をかけるのはちょっと躊躇われた。「諏訪部に聞いてみて、面識があるならそっちのルートから」とも思ったが、それでも一つ大きな問題がある。


「事情を話せば、コレ絶対『共同研究で』って話になるよなぁ……」


 むしろ大学側としては、やらない理由がないだろう。ただ颯谷としては、そこまできっちり枠組みができてしまう流れだと、面倒臭さが先に立つ。いや、自分でやろうと思えば設備だのなんだの必要になることは分かるのだが。要するに彼の場合、興味はあれども熱量はまだそれほどでもないのだ。


 そんなわけで踏ん切りがつかないまま数日が経ったある日の事。剛から電話があった。「この時期だから用件はオークションのことかな?」と思いつつ、颯谷は応答する。用件は確かにオークションのことだったが、ただその内容は彼が思うより込み入っていた。


「オークションは二部制という話だが、颯谷は両方とも出るのか?」


 挨拶を簡単に済ませると、剛はそう用件を切り出した。彼の言う通りオークションは二部制になっていて、第一部は征伐隊に参加した者だけが、第二部はそれに加えて事前登録した希望者が出席できることになっている。


「そのつもりですけど」


「そうか。実は仙樹林業のほうからちょっとした頼まれごとをしてな……」


「頼まれごと?」と颯谷が聞き返すと、剛は「うむ」と答える。彼の口調はやや苦いように聞こえた。そして彼はこう続ける。


「インゴットを代理で落札してほしい、と言われてな」


「はあ……、いや、なんでそんなことを……?」


 仙樹林業は仙樹の確保を目的に設立された会社である。その会社がなぜドロップインゴットを欲しがるのか。スマホを耳に当てながら、颯谷は首を傾げた。そんな彼に剛はこう事情を説明する。


「仙樹林業も頼まれた側だ。大元の依頼主は出資者である銃器メーカーで、彼らを動かしたのは国防軍だ」


「銃器メーカーと国防軍ってことは……」


「うむ。つまり弾頭に使いたい、ということだ」


「やっぱりそう言うことか」と颯谷は内心で呟いた。今回のオークションに出品される金属インゴットは全て一級仙具。普通に加工したとして、その弾頭は二級相当の仙具と言える。そして氣を込めることができる銃弾があれば、異界内での銃器の有用性は跳ね上がる。


 氣を込められる銃弾と言えば、すでに仙樹鋼を用いた弾頭がある。だが十分な量が供給されているとは言い難く、国防軍としては不満なのだろう。そこで目を付けたのが今回のドロップ、というわけだ。ただ話を聞いた颯谷は、少し釈然としない感じがした。


「確かに鉛もありましたけど……」


 やや戸惑いながら、颯谷はそう答えた。銃弾のことを「鉛玉」などというように、弾頭には鉛が使われる。少なくとも颯谷はそう理解している。だから「弾頭に使いたい」というのであれば、それは「鉛のインゴットを代理で落札してくれ」ということなのだろうと彼は思ったのだ。


 だが今回のオークションに出品される鉛の量からして、作れる弾頭の数は決して多くない。国防軍が手をまわしてまで確保したがるほどのモノには、颯谷には思えなかった。だが剛は「そうではない」という。


「鉛以外でも、『比較的安く落札できるならどんな金属でも良い』、だそうだ」


「えっと、つまり銅とか、アルミとか?」


「そうなるな」


「……大丈夫なんですか?」


「別にダメということはないだろう。一般に鉛が使われるのにはもちろん理由があるが、今回はまた別の理由がある。ただそれだけのことだ」


 実際、特殊な弾頭でもない限り、何かの金属を弾頭に加工するのは技術的に難しいことではない。そして一度銃弾になってしまえば、あとは氣を込めて撃つだけだ。氣を込められる銃器はすでにある。


「……何でもいいことは分かりました。それでええっと、その話がオレに来るってことは、つまり『第一部でも確保してくれ』ってことですよね?」


「そうなるな」


「……自分たちでやれば良くないですか? こんな回りくどいことしなくても」


「征伐隊、いや民間の能力者と波風を立てたくないと思ったんだろう」


 今回のオークションに参加するのは、主に国内の武門や流門だ。つまり民間人であり、比較的裕福とはいえ、そう何億円も使えるわけではないだろう。そういう予算規模のところに国防軍が割り込んだらどうなるのか。


 出品されたインゴットをごっそりと落札してしまうことは十分可能だ。だがそれをすれば武門や流門が反発するのは目に見えている。実際にやらないとしても、それが可能だというだけで彼らはピリピリするに違いない。


「だから代理で、ですか」


「そうなるな」


「一応、自分で買おうかと思っていたんですけど……」


「我々が落札した品のうち、回してもよい物を仙樹林業が後で買い取るという形にするそうだ。だから回したくない物はそのまま自分で持っておけばいい」


「なるほど……」


「予算は一億。それ以上は要相談で、できれば数を優先して欲しいそうだが、予算の範囲内なら基本的には何を落札しても良いそうだ。もちろん後で買い取ってもらう物に限るがな」


 剛の話を聞き、颯谷はもう一度「なるほど」と呟いた。そして少し考え込む。彼が今回のオークションで何かしらのインゴットを落札しようと考えていたのは、端的に言っていずれ実験で使えるかもと思ったからだ。つまりどうしても必要と考えているわけではない。


 そのうえで、より切実に必要としている人たちがいるのなら、「そっちに回した方が良いのでは?」とも思う。実験それ自体についても、実のところそれほどの熱量があるわけではない。教えてもらった研究室にまだ連絡していないのがその証拠だ。そんなこともあり、彼も自分の用件を後回しにすることにそれほどの抵抗はなかった。


「分かりました。じゃあ、安く狙えそうなのを狙ってみます」


「そうか。では先方にはそう伝えておく。じゃあ、当日に」


「はい。当日に」


 最後にそう言葉を交わして、颯谷は通話を終えた。スマホを机の上に置き、彼は「さてさて」と呟く。これでオークションに参加する大きな理由ができた。予算も十分。ただその一方で相場がどれくらいになるのか、まったく予想がつかない。とはいえそれも含めて、彼はオークションが楽しみになってきた。


颯谷「いろんな金属で弾頭を作るなら、シルバーブレットもあり?」

剛「人狼に特攻性能ならありかもな」

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― 新着の感想 ―
予算1億って決まってるなら別に代理立てなくても良くないか? それ以上の予算で根こそぎ落とすなら角が立つけど… そもそも周りに睨まれなくするために個人の代理て その個人が周りに疎まれても自分たちじ…
外国勢力が裏にいそうだなって思った。
異界で思い切り鍛冶ってみたいな
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