ふぉー
「ヴィオレット。話がある。」
父様がボクのことを愛称じゃなくてちゃんとした名前で呼ぶ時は、本当に本当に大事な話。
「はい。父様。」
ボクは居住まいを正して、父様に向き直る。
「ヴィオレット。お前は人の子だ。
僕の子ではない。」
はい、はい。父様。ボクは知っています。
「はい、存じておりました。」
ボクが父様の目を、___ボクと同じ真っ赤な目を___まっすぐ見ていうと少し驚いたようだった。
「そうか。」
ふ、と表情を緩めた父様はとびきりの優しい声でそう一言声に出した。
「それでだ。僕は、、、お前に人の子として生きてほしいのだ。」
それはずっと父様が頭を悩ませてきたことですよね。
えぇ、知っていますとも。
だからこの話をいつかされるだろうことを知っていた。
だから心づもりはしてきたつもりだった。
でも、お前は僕の子じゃないと言われてるみたいで、やっぱり…やっぱりちょっと辛い。
涙を浮かべそうになったが、グッと堪えて父様を正面から見据える。
「はい。陛下がそうおっしゃるのなら、この私めは
あなたのために…あなただけのために、この身を使います。」
ボクは父様の執務室で向かい合っていた父様から目を離し、
膝をついて首を垂れた。
「ヴィオ。僕はお前を家臣として使うつもりはないぞ。」
ヒヤリと冷気が首を撫でる。
あぁ、怒ってくれるんだ。
その冷気は冷たいはずなのに、暖かくて、ボクの心を真綿で包みこんだ。
「ふふ、父様。ありがとうございます。
…嬉しい。」
ボクは父様も城のみんなもボクに優しくしてくれること。大事に大事に育ててくれたことをよく知っている。
父様が人を殺せというのならボクは殺せる。
父様が死ねというのならボクは死ねる。
だって父様はボクの恩人だから。
どこかで下働きの人たちが話してるのを聞いた。
ボクが側使えの侍女と追いかけっこ__多分厨房にあったお菓子をつまみ食いした時だったと思う__していた時のこと、洗濯場の近くの物陰に隠れてやり過ごそうと思っていたのだ。
「聞いた?」
「なあに」
鬼のツノとコウモリの翼を生やした下働きだった。
「姫様の事。あのかた、実は人間らしいのよ。」
「そうなの?でも言われてみれば確かに、魔の匂いが薄かったような気がする。この前すれ違った時。」
「何でも赤い目をしているから…人間の中では忌み子っていうらしいけど、だから魔の森に捨てられてたところを陛下が拾われたらしいわ。慈悲深い陛下のことだから、捨てられてるのがたとえ人間の子でも拾ったのよ。」
「そうなのね。でも赤い目はとっても高貴な色よ。
男なら魔族の女性にモテモテでしょうねぇ。」
「それはそうね。まぁ人間だからって邪険にする人はこの城にはいないでしょうけど、邪神教の人が知ればどうなることかと心配で心配で。」
「あんなに小さくてお可愛らしいものね」
「そうなの!乱暴な邪神教の人に見つかれば一握りで殺されちゃうわ!!」
と肩を抱きさすっていた。
その時ボクは知ったんだ。ボクは人間で、父様の子じゃ無いって。
「でも、ボクは父様のためなら何だってできますよ。
父様のためなら、神すらも殺して見せましょう。」
ボクは父様の真似をして、ニヤリと口の端をあげ
いつも父様がかけるプレッシャーをボクも真似てみた。
すると、父様の後ろに控えてたイオとヘレナとヴァンの肩がピクリと動き、私に牙を向いた。
「よせ。イオ、ヘレナ、ヴァン。」
父様がそういうとハッとして居心地悪そうに居住まいを正した。
「僕の真似か。」
「はい!父様。どうですか?うまくやれましたか?」
ボクは褒めてもらえることを期待してニコニコが止められなくなった。
「ふふ、ああ。上手だ。さすが…僕の子だ。」
「っ…!」
ボクは自然と涙が出た。
父様の子。だ。
「おい!なぜ泣くんだ!ヴィオ!!」
父様は慌てて立ち上がり、ボクの元まで瞬間移動できた。
ふふ、ボクは愛されてる。やっぱり愛されてる。
それでもやっぱりボクはこの人の本当の子供でないことがたまに喉に引っかかる。
本当に血が繋がってたらなぁ。
なーんて、不可能なことを考えてしまう。
「何とか言え!馬鹿者!ヴィオ!僕の可愛い可愛いヴィオ!」
ボクが思考に耽って涙を流していると父様は柄にも無いことを口走る。
「ふ、ふふ!」
「なんだ?!泣いてるのか、笑ってるのか?!」
「ふふ、どちらもです。父様。
すみません。はい、そうです。ボクは父様の可愛い可愛いヴィオです。望むならボクはいつまでも父様の可愛いヴィオでいます。
それで、父様。話はまだ___終わっていませんよね。」
ボクは父様に静かに問いかけた。
「あぁ、すまない。僕も取り乱してしまった。
本当は、お前を外に出したく無いんだ。かすり傷ひとつ、つけたく無い。」
父様は壊れ物を扱うかのような手つきでボクの頬に触れてそっと額にキスを落とした。
「でも、お前が希望なんだ。
今、聖教会と邪神教の歪み合いが増しているのを知っているか。」
「はい。父様」
ボクは城下にお忍びでよく遊びに行くけど(いつも父様に怒られる)
みんな言ってる。
魔族は寿命が人より長いから、魔族と人族の争いを体験した人が近くにいる。
5000年も前のことだが、生きてる人もいる。
何より目の前のこのお方こそが、そうなのだ。
「僕は、人族との争いを望まない。
もう、血は十分だ。」
悲しい色に染まった瞳をそっと伏せた父様の手は
ひどく震えていた。
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ブックマークありがとうございます!
しばらくは1日1話は必ず投稿していく予定です!
とりあえず一章はこの世界を知ってもらうための導入章となっております。
最初は都合がいいので第三者目線で進みますが、途中からはずっとヴィオ目線で進む予定です。
ヴィオレット可愛くて可愛くてしょうがないです。目に入れても痛くない。魔王にも負けない愛は持ってる。