ふぉーてぃ
「ヴィオ。今朝ヘリオスが来たんだが。」
「あ、父様!お願いできますか?
ボクが話に行くから大丈夫だよって言ったんだけど、話をするとすっ飛んで行っちゃって…。」
参ったというように頬をカリカリとかききまり悪そうに目をそらした。
「僕もヘリオスが近くにいてくれるなら安心だ。
変化の術を施したリングをヘリオスに渡しておいた。
魔力切れの心配はないだろう。
肩書としては、一応留学ということにしておいたから心配するな。」
「ありがとう父様!!」
「あぁ。」
抱きついたヴィオレットの頭を撫でるとおやすみのキスをしてそれぞれの部屋へ向かった。
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「ヴィオレット様。」
部屋に帰ると侍女のメアリーが立っていた。
魔族的特徴が少ない従者達をヴィオレットの側近くに置いているルシファーは、半魔のメアリーをヴィオレットの専属侍女に置いた。
「あ!メアリー!聞いてよ!」
ヴィオレットはメアリーのことを姉のように慕っていた。
大好きなメアリーにはいつも救われていたのだ。
不安な時は抱きしめて頭を撫でてくれた。
悲しい時は慰めてくれた。
ヴィオレットがルシファーの子ではないと知った時も何も言わずに側にいてくれた。
ただただ暖かかった。
ヴィオレットは今日のあった事を、まるで母親に語るかのように身振り手振りで懸命に伝えた。
メアリーにはそれが微笑ましくて愛おしくて、ヴィオレットに母性を抱くほどだった。
メアリーが幼い頃は、半魔だと罵られ除け者にされていた。
そんな自分に価値を見出し、誇れる仕事を与えてくれたルシファーに深い感謝をしていた。
______私は一生をこの人に捧げるわ。
「______それでねー!ラウルが怒ったんだ!
あの人が人間の王子だって正直信じられないけど、あれだけ強いなら納得もするかも!」
少し頬を膨らませ、怒るヴィオレットの頭をメアリーが撫でた。
「ん?メアリー?」
「ヴィオレット様。
今日もとても楽しかったのですね。なんだか、嬉しいはずなのに、少し寂しい気がしますわ。」
困ったように眉を下げたメアリーにヴィオレットはキョトンとした。
「メアリー?」
ヴィオレットは鏡越しにメアリーの瞳を見る。
その瞳は慈愛に満ちていて、確かに寂しさが滲んでいる気がした。
「いいえ、なんでもありません。
不敬かもしれませんが、なんだか妹が手を繋いでくれなくなった時のような…そんなちょっとした寂しさを感じました。
ヴィオレット様はご立派になられました」
メアリーは微笑むと支度が終わりましたよ。
と声をかけベッドへ誘導する。
「さ、明日もお早いのでしょう?
早くお休みになった方がよろしいですわ。
少し、慣れない生活だったので疲れもみえます。」
ベッドへヴィオレットを入れ、布団をかけて頭を撫でた。
「おやすみなさいませ。」
そう言ってメアリーが燭台へ手を触れる直前にヴィオレットが声を上げた。
「メアリー!メアリーはずっとずーーーっと!ボクのお姉ちゃんだよ!大好きだしボクの帰ってくる場所はこの城なんだから!どこにいようとメアリーのことは忘れないよ!
そうだ!今度久しぶりに城下で買い物しよう!
学園で足りないものが結構あって…。」
ヴィオレットは思いついた事を次々と伝えた。
話は急に飛ぶし、違う話になったかと思うと戻って、
聞いてる方も話してる方も頭はこんがらがった。
「ふふ。すみません。ヴィオレット様。気を使わせてしまいましたね。
約束ですわ。今度のお暇があれば、ぜひ、私と城下でお買い物しましょう!」
メアリーが小指を差し出した。
「うん!約束!
今日もありがとう!メアリー。大好きだよ!」
小指を絡めメアリーを引き寄せて頬へキスをした。
「ふ、ふふふ。ありがとうございます。
私は幸せ者です。こんな素敵で可愛らしい主人をもてて。本当に。」
そう吐露したメアリーは、今度こそおやすみなさいませ。
と挨拶をして、燭台の火を消した。
今日はいい夢が見られそうだ。と足が軽やかに弾んだ。
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