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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生王子の道中記

番外 ある転生男爵令嬢の話

作者: 葛城千尋

『転生王子の道中記 ~アラフィフ女という前世の記憶を持つ青年~』の主人公レンフィールドと特に関り合いのない同級生である転生男爵令嬢から見たグリース法王国の話。

恋愛要素なしですが、近親愛が漂っているので苦手な方はブラウザバック推奨です。

同性婚や近親婚OKの世界のため、地雷案件の方は特に御注意ください。

わたしの名前はラファエル·グリジット。

グリース法王国にたくさんある男爵家の1つグリジット家の娘よ。

家族や仲のいいお友達からはラエルと呼ばれているわ。

キラキラ輝く金髪に、明るい空色の瞳のふんわり系美少女。

そうね、10人に聞いたら8人から9人は美少女だと言ってくれるレベルかしら。

両親と可愛い弟の4人家族。

それに執事やメイドに料理人……あと、雑用担当の使用人たちが合わせて15人くらいいるの。

男爵家にしては裕福なほうね。

グリジット領がそこそこ豊かなこととママの実家であるペペ商会のおかげ。

あ、誤解の無いように伝えておくけれど、ママはパパの正妻ですからね。

もちろん、妾上がりの後妻じゃないわよ。

ママはグリース法王国王立学園に在学中、同級生だったパパと出会い恋人関係になって、卒業後結婚したんだから。

身分が違う?

大丈夫よ。

下位貴族の中には裕福な出自の平民や、優秀な平民と縁組みすることもあるから。

ママの場合は裕福で優秀だったから男爵家の人たちも反対しなかったって。

全員から祝福されたわけではなかったけれど、そんなことはどんな家でもあることよね。


ところで……誰にも言えないけれど、わたしには『前の』わたしの記憶もあるの。

10才の時、テンプレながらも転んで頭をうって目が覚めたら。

もうビックリしたわ。

剣と魔法の世界に生まれ変わるなんて!

だから色々と考えたわ。

この世界のベースはゲーム?アニメ?それとも小説なのかしら?とか。

わたしの立場って男爵令嬢ですごく可愛いから、もしかしてヒロイン?とか。

でも、全然思いつくものがないから。

オリジナルの異世界に転生したのねって思うことにしたの。

そういう設定のお話も前世の記憶にあったから。

そうなると異世界転生あるあるの、前世の記憶チートをしてお金もうけって気分になったわ。

ほら、ママの実家に頼めば商品化してくれそうじゃない?

鉄板ネタのリバーシ、トランプ、化粧水や石鹸……あとはマヨネーズ!!

色々考えて、どれから手を出そうかな?なんてニマニマしていたらママから注意されちゃった。

貴族令嬢としてのマナーを身に付けなさいって。

王立学園に通うことになったら恥をかくのはわたしだけでなく、ママやパパ、弟ばかりかグリジット男爵家に勤めている使用人たちも含まれるのよって。

だからママの実家も?って聞いたら「もちろんよ」って言われて……。

それは困る。

商品化してもらえなくなっちゃう~って、焦って勉強したわ。

何しろ王立学園は貴族の子供なら誰でも通えるものだと思っていたのに、最低限の学力とマナーは必要なんですって。

そういうものを習うための学園じゃないの?って言いたいわ!

だって前世で見たアニメや小説だと、ヒロインは貴族のマナーなんてできなくても学園に通ってイケメンたちにチヤホヤされていたじゃない。

納得できないけれど、仕方ないから頑張ったわ。

やっぱり異世界あるあるで算数に関しては問題なかったけれど、他の科目が壊滅的だったから。

ママや家庭教師に「平民なら問題ないけれど……」って何度も言われたわ。

前世の学生時代より、ずっと大変だった。

特に大変だったのが美しい文字を書くこと。

ボールペン、シャープペンどころか鉛筆すらないのよ?

羽根ペンやガラスペンにインクを吸わせて書くなんて、無理!

「美しい文字を(つづ)れない貴族令嬢などあり得ないし、見るに耐えない文字しか生み出せない指なら折って使えないことにしましょうか?」って……家庭教師に微笑まれた時はギャン泣きしたわ。

しかもママに泣きついたら「あらあら、先生は優しいのね。折れたくらいでは治癒魔法で治ってしまうじゃない。いっそのこと欠損させた方が色々と諦めがついてよろしいのではないかしら」って……。

ママはわたしの本当のママよね?

これでもっと大泣きしたわたしにトドメを刺してくれたのがパパだった。

ディナーの時に話を聞いたパパが「大丈夫だよ。どんな姿になってもラエルは私たちの可愛い娘だからね。都にはいられないから領地で暮らすことになるけれど、一生不自由しないように手配するからね」って、微笑んだの。

心の底からわたしを愛してるって表情だったけれど、わたしが欲しかった言葉じゃない。

もう声も出なくてポロポロ涙を流していたら「では、お父様。お姉様を僕のお嫁さんにします。指がなくて文字が書けなくても問題ありません。僕はお姉様が大好きですから」と、弟が庇ってくれた。


ちょっと何か違うような気がするけれど、弟が天使に見えた!


で、本当に指を折られたり欠損させられたら困るから必死に文字の書き取り練習をしたわよ。

おかげで前世の知識チートを企てる時間なんてなかったわ。


学園の入学試験を受ける時、最低限の学力とマナーが必要なのは下位貴族だけだと知って何とな~く腹立たしかったわ。

試験だってわたしたち下位貴族は合否がかかっているけれど、上位貴族は能力の把握のために受けるっていうのですもの。

しかも!

こんなルールができたのは5年前からですって!

何でよ!?ってママに聞いたら思いきり笑われてしまった。

家庭教師も一番始めに説明しましたよって、苦笑いしている。


「ラエルはおっとりしすぎですよ」


ようやく笑いのおさまったママが紅茶を口にする。


「殿下にご負担をおかけしないように、身分に応じた準備をしているのです」

「殿下?」

「そうですよ。幸運なことにラエルは殿下と同い年です。共に授業を受けることは能力的に無理でしょうけれど、順調にいけば卒業までご一緒の学舎(まなびや)に通うことになります。機会があれば言葉を交わすこともあるかもしれません」

「え……」


流れるようにママにディスられた。

それより殿下って言ったわよね?

確か殿下って、法王家の人たちのことよね?

誰かしら?

家庭教師の詰め込み授業の中にそんなの入っていたかな?


「ラエル。その顔は全く理解していませんね」


ママの微笑みが怖い。


わたしは入学式までの2ヶ月、法王家をはじめとして上位貴族や下位貴族でも有力な家についてメチャクチャ頭に叩き込まされた。

『聖魔法』って、まるで神様のようなことができるのねって言ったら、今さらですか?と家庭教師に呆れられた。


「お姉様は本当に愛らしいですね。やはり僕のお嫁さんになっていただきたいです」


反対に弟が笑顔で求婚してくる。

ちなみにこれが本気だと知ったのも最近だ。

姉弟で結婚はできないのよって言ったら、家庭教師に簡単な法律も勉強させられた。

この国では異性婚だけでなく同性婚も普通にできる。

これは知っていた。

でも跡継ぎ問題を回避するために兄弟姉妹婚も可能なのは知らなかった。

思わず、子供は大丈夫なの?って言ったら……通じなかった。

貴重な魔法師の家系だと、より魔力の強い子供を求めて近親婚を重ねるのが普通らしい。

ぶっちゃけ、法王家のことだ。

前の法王が死んでから今の法王が生まれるまでの150年くらいの間、『聖魔法』の遣い手が1人も生まれなかった。そんな国の危機に法王家の人たちは手当たり次第に子供をつくったそうだ。

その中では時に父娘、母息子間ですらつくったらしい。

わたしには気持ち悪いことにしか思えない。

そんなことを続けて、よく生まれてくる子供に影響が出なかったものだ。

顔色を変えたわたしに家庭教師だけでなく、ママも不思議そうな顔をしたのが怖かった。


『聖魔法』のおかげでこの国は世界で最も安全な暮らしができるのよ。

法王猊下がご不在の時代は他の国と同じように天候に左右されるから食料の安定供給も望めなかったし、魔物の氾濫(スタンピード)や流行り病で多くの人が亡くなり毎日が不安だったって歴史書にも書いてあるでしょう?

法王猊下に感謝を忘れてはいけませんよ。


ママの言葉が当たり前の世界。

きっとわたしの気持ちを口にしたら、美しい文字を書けない令嬢どころじゃない扱いをされるだろう。


だからわたしは……

この世界は魔法があるのよ、前の世界と違うのは普通のことなの。

そう考えることにした。












そうよ。

そうやって、わたしはわたしを誤魔化していたのに。


入学式の日。

信じられないほど美しい人に心を奪われ、そして納得したの。


レンフィールド·アレスティラ·ヴェーゼ·グリエス殿下。


わたしだけじゃない。

新入生も在校生も先生たちも、式典のために参列していた保護者の貴族たちも、皆みんな、神様に選ばれた存在というものを知ったわ。


『聖魔法』の遣い手は神様のような存在。


今の法王が人前に殆ど姿を見せないこともあって、わたしたちが美しい彼にこの国そのものを見るようになるのも当たり前だった。


学園内で彼の姿を見かけては、仲良くなったお友達と興奮しながら語り合う。

憧れの人ってスゴいわ。

もう毎日が楽しいの。

そして不思議なことに、わたしの中にあった前世の知識チートを使って商品化したいという考えが消えてしまったのよ。

元々、不自由するほど困ることがあったわけじゃなかったし。

だって魔法があるのだもの。

わたしも少しだけど魔法を使えるようになったからなのかしら?

前世の知識チートじゃなくて、この世界の知識をもっともっと知ろうと思うようになったわ。

家を繋ぐために血族婚をすることも当たり前だと受け入れるくらいにね。


本当に不思議ね。






「ねぇラエル。聞いたかしら? 異世界から聖女様がいらしたってお話」


ある日、いつものようにお友達の一人に話しかけられた。


「知らないわ。聖女様って……」


頭の中に忘れかけていた前世の記憶がよみがえる。

異世界から聖女が現れて、イケメン貴族たちが次々と好意を抱いていく物語を。


「そうよね、ラエルだもの。噂に疎いことを忘れていたわ」


なにげに失礼なことを言われているが、スマホのないこの世界での情報はこうした噂話から拾っていくしかない。

コミュ力のない者は大変なのだ。


「意地悪なことを言わないでよ」


素直に教えてって顔をすれば、お友達は早く話したかったのだろう。

聖女の話をしてくれた。

どうやら数ヶ月も前に聖女召喚の儀式が行われていて、異世界から『聖魔法』の力を持った少女がやって来たそうだ。

この国では『聖魔法』の力を持つ女性を聖女と呼ぶことから、少女は聖女様と呼ばれるようになったそう。

知らなかったなぁ。

だって法王家にはヴィリジアン王女という『聖魔法』の力を持った少女がいるけれど、聖女なんて呼ばれてないじゃない。

それにしても異世界からやって来た……かぁ。

どこからなんだろ?

もしも日本だったら、少しだけ話してみたい気もする。


って……。

サラ·ウチダなんて、思いきり日本人でしょ!


中途入学してきた聖女様は日本人だった。

但し小柄なのに胸が大きいけれど……。

この国というか、この世界の人族女性の平均身長は165センチから170センチ。

男性が180センチから185センチだからバランスは悪くない。

わたしの身長は162センチと平均より低いけれど、まだ14歳だし。もう少し伸びると期待しているわ。このままの身長だとドレスの着こなしが格好つかないのよね。

それに……低い身長は特殊な性癖持ちに目をつけられる。

聖女様は150センチはあるみたいだけど……低すぎるわね。

それなのにあんな立派な胸を持っていたら……大変そう……。

前世で言うところの、合法ロリ巨乳ってカテゴリーね。


まぁ聖女様だからなのかな?

いつもイケメン3人に守られている。

殿下の側近候補たち。

殿下の従兄弟で侯爵家の嫡男、殿下の婚約者の異母弟、そして聖騎士団団長の息子。

うわぁ~、まさかまさかの乙女ゲームじゃないわよね?

この場合メイン攻略対象者は間違いなく殿下になってしまうわ。

側近候補3人は婚約者いないからどうでもいいけれど……。


とりあえず、殿下にご迷惑はかけないでほしいわね。






さりげなく前世の知識チートを封じられ、価値観を変節され、弟の愛を受け入れつつある転生男爵令嬢。

これが一番書きたかった不思議な話です。


異世界転移してきた聖女様とレンフィールドの側近候補3人のことは、本編に途中までですが書いてあります。興味がありましたらシリーズタグから本編へいらしてくださいませ。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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